中
バレンタイン号提出期限当日。
昨日の時点で集まった分はすでに規定枚数印刷済みだ。
紅雄は両手に手提げを持っていた。
「じゃ、今日も活動始め。だが」
言いながら手提げの中身を取り出す。
ドサッと重い音を立てて置かれたそれは、コピー紙の塊だった。
バレンタイン臨時号用に印刷された作品たちである。
「今日の活動はこれらを組む。
テキトーに分けるから、自分のノルマが終わったら各自の活動に移ってくれ。あ、帰ってもいいぞ」
そう言って紅雄はざっくりと5等分していった。
エリア、椎名、乃樹の順にとっていき、余ったものを紅雄と蛙子が担当する。
蛙子はまとめるのが遅いため、毎回紅雄が手伝っていた。
「そういや、明後日はバレンタインだな。」
ページ順にまとめてステップラーで留めることを繰り返していた椎名の何気ないその発言に、他の面々は驚きと呆れの混じった視線を向ける。
「今更か。」
同学年の乃樹に言われ、それもそうだな。と呟いて椎名は作業に戻った。
「でも縁ないからよく忘れるんだよ。毎年さ。」
「それはわかる。」
同意見だ。と乃樹は深く頷く。
「……寂しいね。」
エリアの呟きが、より悲壮感を煽ったのは言うまでもない。
「でも、今回は臨時号出すって時点で気付いて覚えておくべきだったろ」
「だな。」
紅雄の言葉に乃樹が頷く。
椎名は口を真一文字に引き結んだ。
「……聞いてませんでした。」
「……エリア。」
「……言い忘れてました。」
* * *
そんな感じでいつもと大差ない時が流れた。
乃樹は自分のノルマが終わった後エリアと椎名を少し手伝い、先に帰宅している。
椎名とエリアも1年生全員分のノルマが終わると帰宅していった。
だから残っているのは蛙子と紅雄の2人だけだった。
「鍵は開けてないな。」
紅雄は腰に手を当てて窓の施錠を確認する。
これも文芸部の部室としてこの部屋を利用させてもらっている責任者の仕事である。
「あけてないよー」
蛙子から返事があった。
だが、窓によってみるとあいている。
「あいてるじゃないか。」
「ありゃ、見落としてたみたい。」
蛙子はそう言って微笑んだ。
窓の施錠を確認後に2人そろって部室を後にし、職員室に部室の鍵と部活動日誌を返してから玄関で靴を履き、2人揃って校門を出た。
「じゃ、明日は8時にこっちの駅前に集合ね。」
電車通学の蛙子と駅近くに家がある紅雄は、最寄り駅までの長くない道のりの半ばを消費していた。
「駅のどの辺がいい?」
「ん〜……公衆電話のとこ?」
「わかった。 じゃ、また明日」
駅の前で別れる。