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8.じいさん殺したぁぁぁぁ!

8.じいさん殺したぁぁぁぁ!



三津の運転する車は、人気のない道をひたすらに走っていた。

進むにつれ街灯が少なくまり、ほとんど真っ暗になった。その暗闇の中、田んぼと田んぼの間を縫うように進む。

その合間に、思い出したように民家が現れる。

家は農家のそれらしく大きな日本家屋ばかりで、暗くてよく分からないものの、蔵のようなものまで見てとれた。

なんとなく、日本昔話の庄屋様の屋敷を思わせた。


「すんげー田舎。さっきのコンビニ以来、店見てねーぞ」

「ホント。のどかな感じよねー」


柚葉さんの話だと、あと少しで、目指す柳音寺に着くそうだ。

時間は既に23時を回り、小学生のイノリには辛い時刻のはずだが、イノリはキラキラした瞳で窓の外を眺めている。


「もうすぐ会える。もうすぐ……」


小さな声で繰り返し呟くイノリ。

頑張った1日の終わりに、いいことが待っていてよかったね。


「あ。あれ、お寺っぽくない? ほら!」


柚葉さんが暗闇の奥を指差す。

目を凝らせば、確かに大きな瓦屋根らしきものが見える。


「住所からすると間違いないと思う。祈くん、もうすぐよ!」

「はいっ」


目指す人までもう少し。

イノリを見ていたらこっちまでどきどきしてくる。

身を乗り出して、車の行く手を見つめた。


キキ、と車が止まった。

右手には大きな門。その横に、大きく『柳音寺』と毛筆で書かれた看板がかかっている。


「ここで間違いねーな。ほら、祈、行けよ」


三津が車のロックを外すと、イノリが飛び出すようにして車を出た。

門の中へ真っ直ぐに駆けてゆく。


「父さん! 父さん!」

「あちゃ、あいつこんな時間に大声だして迷惑……はないか。隣家がないもんな」

「みーちゃん、追いかけてやって。アタシたち、どこかに車停めてから行くから」

「はい」


急いで中に消えていったイノリを追う。

門を入って正面に本殿らしき建物。

しかし暗くてよくわからん。

イノリはどこに行ったんだ。


「あ、灯り」


左手奥に電灯の明かりが見えた。

とりあえずあっちに行ってみるか。


「イノリー? イノリー?」

「ああん? 誰ですかいのお?」

「だから! 加賀一心です。おれの父さんをだしてください!」

「イノリ? こっち?」


明かりへ向かうと、小さな玄関口でイノリがおばあさんに食ってかかっていた。


「おれ、加賀祈です! 父さんをだしてください!」

「いやだからの、誰かいのう、あんたさんは」


腰がまあるく曲がったおばあさんは、上り框の上にいるというのに、あたしと目線がほぼ同じだった。

頭を下げ、「こんばんは」と言うと、酷く大きな声で「ハァ?」と問い返される。

どうやら、耳が遠いらしい。さっき柚葉さんが言ってた人だな、きっと。


「イノリ、ちょい待ち」

「ミャオ……」


焦った様子のイノリを押しやって、おばあさんに向かった。

にこりと笑いかけて、自分の口元を指差した。


「はて? あんたさんたちはいったい何の用ですかいの」

「かがいっしんさん、いますか?」


できるだけはっきり唇を動かして、ゆっくりと訊いた。


「わたしたち、用があってきました」


ウチのじいちゃんの友達の中井のじいさんなら、これで通じるんだけどな。

中井のじいさんはよく補聴器を付け忘れる。

しかし、じいさんは唇を見ることで相手の喋っていることを読み取ることができるのだ。

ゆっくり動かせば、の条件つきの技だけど。


「ああ、いっちゃんの知り合いかい!?」


どうやら聞き取ってくれたらしい。

おばあさんの顔がぱっと明るくなった。


「そうです。今、いらっしゃいますか?」

「それがのー。まだ帰っちょらん。多分織部のじいさんのとこじゃろ」

「はあ、おりべ……はあ!? おりべって言いました!?」


その名前、聞き覚えあるんですけど!!!!

今、すっごくクリアーに思い出した。

あの時大澤は『おりべのじいさん』と言ったんだった。


あああああああ!

あたし、間違ってなかった。


イノリとの道行きの先にやっぱりいたのね、おりべのじいさん!

どんな人かよく知らないけど、名前も今思い出したけど、でもでも、すっごく会いたかったの!


「あ。ここにいたー。どう? 風間さん、いたあ?」


暗がりから柚葉さんたちが現れた。


「柚葉さん! おりべ、おりべのじいさんですよ!」

「は? ……あ、あの例の!? 思い出したの?」

「はい! 加賀父、今そのじいさんのところにいるらしいです!」

「きゃあ。やったじゃない。一歩近づいたわけね!」

「あん? あんたたち、織部のじいさんに用があるんけ?」

「ミャオ、しってるの?」

「え? ああ、いや違うけど嬉しいっていうか?」


喜ぶあたしたちを見て、おばあさんとイノリが不思議そうに首を傾げていたが、どうにかごまかした。


そして、目的地を柳音寺→織部のじいさん家に変更。


目指す場所は、ここから更に山奥に行ったところにあるらしい。

道を真っ直ぐにいけばすぐだから、とおばあさん(この人は加賀父の知り合いで、お寺の掃除、食事の世話などしてくれているのらしい)に教えられた。


歩いていけるということで懐中電灯を貸してもらって、現在4人で田舎道をほてほてと歩いている。

加賀父め、出番を渋るじゃねーか。

ここまで苦労させられるとは思わなかったんだぜ。

今度こそいてくれよ。じゃない、いて下さい。お願いします。


しかし、今日はよく歩く一日だなあ。

つくづく、スニーカー履いててよかったと思う。


「イノリ、平気? 眠くない?」

「平気。ミャオ、疲れちゃったの?」

「いやあたしはまだまだ平気」


小学生のあんたが弱音吐かないのに、あたしが疲れたなんて絶対に言うものか。


「しっかし、田舎よねー。街灯も全然ないし」

「でもそのお陰でさ、星が多いような気がしねえ?」

「え、どれ? ぎゃ!」


あたしとイノリの前を歩いていた2人。

三津の言葉に空を仰いだ柚葉さんが何かに躓いた。

こけそうになるのを、三津がすばやく抱き取る。


「あっぶねーな。考えなしに上向くなよな、馬鹿」

「はぁ? アンタが見ろっつったんじゃん!」

「オレは星が多くね? って言っただけだろーが」

「だから見ろってことでしょっ?」

「言ってねーし。つーか気をつけろや、乳牛」

「うるさい、アホオトコ!」


立ち止まり、ぎゃいぎゃいと口論を始めたのを、後ろから眺める。

この人たち、1日にどれくらいこんなことしてるんだろう。

コミュニケーションだとはいえ、回数多すぎー。


と、2人の言葉の応酬が止まった。

これは柚葉さんの技が今回も光るのか、と思ったそのとき、三津がため息をついた。


「危ねーからここに掴まっとけ。な?」

「へ? あ。う、ん」


三津が自分の腕に柚葉さんの手をかけた。


「手を怪我したら、仕事になんねーだろ。傷が残っても困るしな」

「あ、ありがと……」


おおおおおお。

三津が今ほんの少しいい男に見えた。

腕を組んで歩きだした2人の背中を、ついニマニマと見てしまう。

いいねー、いいねー。いや、いいもん見せてもらいましたー。

やっぱ三津にも魅せどころがないとねー。


と、くいくいとTシャツの裾が引かれた。

見れば少年があたしを見上げていた。


「ん? どうした、イノリ」

「て」


ぐい、と小さな手を突き出された。


「ん?」

「手! おれとつなぐの!」

「ああ、そっか。こけたら危ないもんね」


はいよ、と手を繋いだ。小さなそれをきゅ、と握る。


「大丈夫。あたしが三津みたいにシュパッと助けてあげるからね」


こうね、こう、と真似をしてみせると、夜目にもはっきりとイノリが顔を曇らせるのが分かった。


「ミャオって、ばか」

「は?」


なんですと?


「ばかだよ、もう。いやになっちゃう」


ぷう、と頬を膨らませて、イノリはぐい、とあたしの手を引いた。

大股で一歩前を歩く姿に、ようやく気付いた。


ああ、そうか。

あたしはエスコートされる側だったわけか。


汗ばんだ子どもの手に引かれながら、ついつい笑ってしまう。

イノリに気付かれたら大変だから、ひっそりこっそりと。


あたしを女扱いしてくれてるんだなあ、この子。

いや、嬉しいんだけどさ。

でもちょっとマセてるんでないの?

きっと数年も経たずに、女の子にモテまくり人生に突入するんだろうなあ。

って、そういや大澤はモテてたけど、女に興味なさげだったんだっけ。

こんなに女の子に積極的な子が、どうして無欲になっちゃうんだろう。


9年の歳月で、何か起こったんだろうか。

だとしたら、もったいないよなー。

顔もいいし、性格もいいのに(この時点では)。


「ああああああっ!」


先を行く2人が大きな声をあげた。


「どうしたんですか!?」

「蛍ぅ!!」


振り返った柚葉さんが、宙を指差した。

その先に、ふわふわと揺れる小さな光。


「ホントだ! 蛍だぁ!」


淡い光は1つ。

呼吸するようにゆっくりと瞬きを繰り返しながら、宙を舞う。


「ミャオ! こっちも!」


イノリの声に見てみれば、新たな光が揺れていた。


「蛍なんて見たの、いつぶりだ? 田舎にはまだいるんだなー」

「もう7月も半ばなのに、すごくない?」

「あたし、幼稚園のころ以来です。綺麗……」

「おれ、はじめてだぁ」


しばらくそこで眺めていたが、結局、蛍はこの2匹だけのようだった。

柔らかな光の瞬きを充分あたしたちに堪能させてから、2匹は木々の向こうに消えていった。


余韻を残したまま歩き進むと、暗闇にぽつんと光が浮かび上がっているのが見えた。

今度の光は、人工的なもの。

ということは、あれが目的地!


4人とも心なしか早足になりながら、光に向かった。

門扉を抜け、純和風の造りの、大きな玄関の引き戸を叩く。


「夜分遅く申し訳ありません。こちらに加賀一心さん、いらっしゃいませんでしょうか?」


三津が声をあげると、中から張りのある男の人の声がした。


「加賀は俺ですが……その声、三津か?」

「風間さんっすか!? オレです! 三津!」

「三津、どうしてこんなところに……」


磨り硝子に人影が映り、ガチャガチャと鍵を開ける音がした。

カラリと戸が開く。

顔を覗かせたのは、記憶の中そのままの金吾様だった。

や組の染め抜きの半被がよく似合うであろう、骨太でがっしりした体。

健康そうな日焼けした肌に、眼力のある切れ長な瞳。流れる形の良い鼻。

違うところといえば、月代の代わりに艶めいた黒髪がお顔を縁取っているということだけ。


ぎゃーあーあーあーあーあーあーあー!

本物の金吾様が目の前にぃぃぃぃぃぃぃぃ!


「父さん!!!!」


あたしの隣にいたイノリが金吾様、いやさ加賀父に飛びついた。


「な!? 祈!?」


自分の胸に飛び込んできた人間を確かめた加賀父が、信じられないというように目を見開いた。


「父さん! 父さん! 会いたかったよぉ……っ」

「い、祈……」


顔をぐいぐいと押し付けて泣き声をあげたイノリを、加賀父はぎゅう、と抱きしめた。


「おまえ、こんなところまで、どうやって……」

「会いたかったよぉ……、父さ、ん……っ」


全身で父親を抱きしめたイノリは、今までの不安や辛さを吐き出すように大きな声で泣いた。

ああ、この子はこんなにも自分を堪えて頑張ってきたんだ。

不覚にも、涙が頬をだばだばと伝ってしまっており、慌てて拭った。


ハンカチがずいと差し出され、受け取ればそれは涙目の三津で。

柚葉さんはと言えば、三津のシャツを既にハンカチ代わりに使っていたので、有難く受け取り、鼻をかんだ。


「三津、おまえがここまで……?」


イノリを胸に抱きしめたまま、加賀父が訊いた。


「オレは、こいつがアパートまできたから、そこから連れてきただけです」


三津が、イノリが大澤の家を飛び出してきたことを短く説明した。

どうやら、加賀父にはイノリがいなくなった旨の連絡は届いていなかったらしい。

もしかしたら、あのおばあさんのところで止まっていたのかもしれない。

あの耳の遠いおばあさんなら、伝言を頼むのも困難そうだ。


「そう、か。それで、この子は大澤に黙って出て来たってわけか」

「……そう、みたいです」


三津が躊躇いながら頷くと、加賀父はイノリの体をそっと引き離した。


「探してくれて、ありがとうな、祈」

「父さ……、おれ」

「すごく嬉しい。大変だっただろう? きつかっただろう?」


答える代わりに、イノリは首がもげるんじゃないかというくらいに、横に振った。


「そんなことない! 1回も泣かなかったんだぞ、おれ。もう子どもじゃないんだ!」

「そうか。そうかー。エラかったなあ」


ふ、と目尻を下げて笑う。それはまさに父親の顔だった。

しかし、その顔つきをふ、と厳しいものに変えた。


「でも、黙って来たのは、よくないことだ。大澤はきっと心配してるぞ」

「…………」

「大澤には今から連絡しておこう。明日、送るよ」

「何で!? おれ、父さんと一緒がいいよ!」


加賀父の言葉に、イノリが顔色を変える。


「どうして大澤の家に戻らなくちゃいけないの!? おれ、父さんと一緒がいい!」

「祈……」


加賀父の顔が曇る。


「ねえ、父さん! おれ、父さんと一緒にいたいよ!」

「うるさいわぁ! なーにを玄関先で騒いじょるかぁっ」


空気をぶち破るように、しわがれた怒鳴り声がした。


「一心! わしを放っておいて何しとる! いい加減戻ってこんか!」


どすどすと足音も大きく現れたのは、真っ赤な顔をしたじいさんだった。

どうやらべろんべろんに酔っ払っているらしい。

仁王立ちしようとして、よろりと壁にもたれた。

げっふうー、とでっかいげっぷを一つ。


もしかして……、これが織部のじいさんだろうか。


あたしを救ってくれる予定の人がこんな酔っ払いなわけ?

きっと白髪の渋いおじいさまだわ、なんて密かに想像してたのに。


ああ、ガウンを纏って安楽椅子に座り、スコッチを嗜んでいるような紳士風のおじいさま像を、よれよれの作務衣を着たハゲた赤鬼が叩き壊していく……。


「あ、ああ。すみません、先生。俺の息子が来まして」

「ああん? 息子ぉ? おまえいつ産んだんだ?」


着物の合わせに手を突っ込み、ぼりぼりと胸元を掻く。

男は出産せんだろう。

じいさんの出現に涙がひいたあたしたちは、多分同じつっこみを心の中で入れたはずだ。


「でぇ、どれがおまえの息子だって……ええええええええええっ!?」


お酒のせいなのか、充血した瞳があたしたちに向けられる。

きょろりと動いた瞳が、何故かあたしを捉えた瞬間、じいさんは絶叫した。


数歩後ずさったかと思うと、足がもつれてずってんと転んだ。

そのまま這うようにして後ろに下がる。

しかし、視線はあたしに向けられたままだ。

な、なに? あたしがどうかした?


「どうかしましたか、先生?」


酷く怯えた様子のじいさんに、加賀父が祈を離して訊いた。


「あ、あ、あ……」


わなわなと震えながら、指先であたしを指す。

まさに、『恐怖! 心霊現象―私の出会った幽霊―』的なリアクションである。


「ん? 一体誰を……」


じいさんの指し示す先にいるあたしを見て、加賀父は一瞬だけ、眉をひそめた。

しかしすぐに表情を戻して、じいさんに問う。


「彼女が、どうかしましたか?」

「し、し、し……」

「し?」

「志津子!!」


しづこ?

あたしは美弥緒ですが。


「志津子ぉぉぉぉぉぉ! わしを迎えにきたのかぁぁぁぁ!」


首を傾げた、その一瞬。

さっきまで足元の覚束なかったはずのじいさんが、あたしに向かって猪のごとく突進してきた。

すっかり油断していたあたしにタックル。

吹っ飛ばされる、と思ったのだが、じいさんはあたしをぎゅうーっと抱きしめた。


「ななななななななななな、なんですか!?」

「志津子ぉー。おまえこんな若い姿で現れてぇー。わしだけじじいじゃないかぁー」


酒臭い息をぶはあぶはあと吐きながら、じいさんはあたしを抱きしめたまま、おいおいと泣き始めた。


ぎゃー! なんじゃこの状況はー!


「は、離してください!」

「わしも死んだら若くなるんかー? おまえとおんなじくらいに戻れるんかー?」

「ちょ、先生! 落ち着いてください!」

「志津子ぉぉぉぉぉ!」


耳元で酒浸りの熊が咆哮しているようだ。

ああもう一体何だこれ。


「志津子ぉぉぉぉ」


だから、しづこじゃねえし、あたし。

じいさんとは初対面だし。

否定の言葉を叫びつつ、もがもがと暴れてみるものの、じいさんの腕は一向にあたしを離してくれず。

視界の隅に、唖然とした様子の三津と柚葉さんが見えた。


三津! てめえ助けやがれ。

柚葉さん! マジで頼みます。


「先生! とりあえず彼女を離しましょう! ね?」

「志津子おおおおおおっ」


加賀父が間に入ろうとしてくれるのだが、じいさんは腕に益々の力を込める。


苦しい。酒臭い。意味わかんね。つーか、ナニ女子高生抱きしめちゃってんの?


……そろそろ、酔っ払いに制裁与えていいよね?


ぷつん、と自制心が切れる音がした。

体を捻り、じいさんのお腹と自分の体の間に隙間を作り。

できうる限り下半身に力を込め、腰を捻りつつ腹部にこぶしを打ち込んだ。


ウチのじいちゃん、古武術の師範代なのだ。

これでも稽古をつけてもらってたんだぜ。


多少加減はしたものの、じいさんの気を削ぐには充分だった。

腕から力が抜けた瞬間、体を捻って逃げ出した。


「ぐふ……、志津子、腕は落ちとらんようだの……」

「だからしづこって誰なんだっつーの」


膝をついたじいさんは、満足げに呟き、どさりと倒れた。

怒涛の流れに呆然としていた三津がはっとしたように叫んだ。


「ぎゃー! みーちゃんがじいさん殺したぁぁぁぁ!」

「え!? そうなの? ミャオ、にげよう!」

「馬鹿ヒジリ! あれくらいで死ぬはずないでしょ! 祈くんもアホなこと言わない!」


柚葉さんが2人の頭をぱかんと殴る。


「正当防衛の範囲です! え、でもなんで?」


加賀父が近寄り、うつぶせたじいさんの様子を窺った。

顔を寄せてみて、くすりと笑う。


「寝てる」

「はぁぁぁぁっ!?」


イノリまでもが一緒になって叫んだ。

なんだ、それ。

こわごわと近寄ってみれば、確かに規則的な寝息が聞こえる。

おいおい、マジかよじいさん。


「昼過ぎからずっと呑んでたんだ。ようやく潰れてくれたようだな。三津、ちょっと手伝ってくれ」


三津の手を借りて、加賀父はじいさんを背負った。


「柚葉ちゃん、奥の部屋に寝かせるから、布団を敷いてもらえないかな?」

「あ、はい」

「祈と、そこの腕のいい彼女、とりあえず中に入りなさい」


加賀父に言われるままに、あたしたちは家の中に入った。


「はー、いきなりサイアクだった。ねえ、イノ、リ……」


玄関で靴を脱ぎながら話しかけると、イノリは唇をぎゅっと噛んでいた。

靴を脱いだあとも、上がり框に体育座りしたまま、じっと自分の膝小僧を見つめている。


そうだ、じいさんの乱入でうやむやになってしまったけど、イノリは大澤の家に帰れと言われたんだった。

ここまであんなに頑張ってきたのに。

あんなに再会を喜んだのに。

ちゃんと話したら、父ちゃんも理解してくれるよ。一緒にいてくれるよ。

なんて。

9年後のことを思えば、それは都合のいい慰めにしかならないんだ。


ああ、どうしたらいいんだろう。

うまい言葉がみつからない。

多分、正解の言葉なんて、ないんだ。


「こっちにおいで。今お茶を淹れる」


玄関先で2人並んで座っていると、背中に声がかかった。

振り返ったら、じいさんを寝かせてきたらしい加賀父が、襖の向こうから顔をだしていた。


「――――はい、どうぞ」

「あ、すみません」


みんなの目の前に硝子の湯のみがコトリと置かれた。


「冷たくて旨いよ」


にこりと笑った加賀父が言い、あたしたちは湯のみに手を伸ばした。

さっき、ぎゃあぎゃあと叫んだせいで喉が渇いていたので、有難く頂く。


半透明の翡翠色のお茶はまろやかで甘かった。

湯のみの中身を飲み干して、ほう、とため息。

コトンと湯のみをテーブルに置くと、8畳ほどの室内に沈黙が訪れた。


三津と柚葉さんは神妙な顔つきで湯のみの中を覗いており、

イノリは飲み物に手をつけることなく、じっとうつむいている。

加賀父はそんなイノリを見つめていた。


な、なんか気まずい……。

どうしたもんかと思いつつ、手持ち無沙汰に室内を見渡した。


畳敷きの部屋は、磨りガラスの嵌まった引き戸を挟んで縁側に続いている。

今は雨戸が閉まっており、外の様子はわからない。

家具はというと、テーブルとテレビ、小さな茶箪笥くらい。


あ、部屋の隅に酒瓶が転がってる。

日本酒が3本、空だ。

あれ、じいさんが飲んだものだろうか。

飲みすぎだろ。

そっと加賀父を窺えば、酔っている様子はない。

多少は飲んでいるのかもしれないけど、心体の状態を左右するほどではないようだ。


と、視線に気がついたのか、加賀父が顔をあたしに向けた。


「ええと、君は初めて会うよね? 自己紹介が遅れてすみません。加賀一心といいます、よろしく。君の名前を聞いても構わない?」

「ひゃ! いいいいえ、あ、ああの、えと、あたし、茅ヶ崎美弥緒です!」


金吾様の笑顔を向けないで! 金吾様の声で訊かないで! 惑わされるから!

真っ赤になるのを自覚しつつ、しどろもどろと答えた。


「美弥緒ちゃん、だね。ええと、織部先生とはもちろん初対面、だよね?」


ああ、本当に素敵なお声。耳から溶けそう。

金吾さまに名前を呼ばれる日が来るなんて。もう死ねる。死なないけど。


「美弥緒ちゃん?」


うっとりしていると、首を傾げられた。

いかん、見とれてた!


「は! あ、は、はい! 初めてです!」

「ふむ。じゃあ、倉里という苗字に覚えはある? 親戚とか」

「ないです」

「でも、じいさんは知ってる感じでしたよねー」


三津がようやく口を開いた。


「多分、彼女が奥さんに似てたんだろう」

「おくさん?」

「志津子っていうのは、去年亡くなった先生の奥さんの名前なんだ。倉里は、奥さんの旧姓。美弥緒ちゃんは志津子さんの若いころに似ているんだろうな。先生は随分酔っていたから、彼女を志津子さんに見間違えたんだろう」

「あー。なるほど」


そういうこと。

まあ、志津子さんが地味顔であれば、ありえる話だわ。


「すまなかったね。先生は普段はあんな非常識なことはしないんだけど」

「あ、いえ、もう平気ですから、あたし」


金吾様に謝られてしまっては、許さないわけにはいかないわ。

ていうか、制裁はしたし、理由もわかったし、もう気にしてない。


「さて、ちょっと大澤に電話しておくか。席を外すけど、気にせず寛いでいてくれ」


すらりと金吾様……いや加賀父が立ち上がった。

その言葉にイノリがびくんとなる。


「やだ! でんわしなくていい!」

「イノリ……」


俯いたまま声をあげるイノリ。

膝に乗せた握りこぶしは、強く力が込められていた。


「いや、する」

「なんで!?」


短く答えた父親に、イノリが泣くのを堪えた顔をあげた。


「心配してるから、だ。きっと今も探してるはずだ」

「しんぱいなんて……」

「してない、と言うかい? でもそれは間違いだろう? 祈」


祈の横に跪いて、頬に手を添えた。


「自分の息子を心配しないはずがない。おまえは俺にとっても唯一の息子だが、それは大澤にとっても同じなんだよ」

「だ、って……」


イノリの目尻から、涙がころりと転がり落ちた。それを親指でぐい、と拭ってやり、加賀父は言った。


「もう子どもじゃないんだろう? それなら泣くんじゃない。あとできちんと、男同士として話そう。な?」

「…………っ」


イノリが唇を噛んだ。

そういう言い方をしてしまえば、この子はこれ以上何も言えなくなるだろう。

思ったとおり、拒否しているのだろうに、イノリはゆっくりと頷いた。

加賀父がよし、と小さく呟いて立ち上がった。


「じゃあ、少しここにてくれ。三津、ちょっとこいつ頼むな」

「あ、みーちゃんいるから平気っすよ」


気付けば三津は胡坐をかいており、テーブルに置いてあった柿ピーをぼりぼり食べていた。

こいつ、馴染むの早すぎ。


「みーちゃん? ああ、彼女のこと?」


加賀父があたしを見る。


「うっす。みーちゃんは祈のオンナっすから。なあ、祈?」

「な!?」


ナニ言ってんだ、と口を開こうとしたより早く、


「そうだよ」


とイノリがはっきりと言った。加賀父が目を丸くする。


「えーと、祈。美弥緒ちゃんのこと、好きなのか?」

「うん」


さっきの会話の名残があるのか顔をしかめていたけれど、はっきりと頷くイノリ。


「え、と。あのですね、これはその」


ええー。なんであたしがしどろもどろになるのー。

でもここは何か言わなくちゃだよなあ。

もたもたと意味のない言葉を吐くあたしに、加賀父がくすくすと笑った。


「そうか、いや、これは随分早いな。祈、この子はおまえの彼女でいいのか?」

「カノジョ……いやあたしはカノジョじゃ」

「そうじゃないっすかねー。手ぇ出したら風間さんでもヤバいっすよ」


三津は黙って柿ピー食ってろ。

んでもって喉に詰めやがれ。


「どうなんだ、祈?」

「うん。父さんでもだめ」


イノリの言葉に加賀父は大声で笑った。


「そうかそうか。わかった。彼女に手はだしません」


笑いの波が引かないのか、肩を震わせて加賀父は部屋を出ていった。


「ちょ、イノリ。あんなこと父ちゃんに言ったら」

「だってほんとうだもん」


ようやく目の前の湯のみに手をのばし、細い喉をならして飲むイノリ。

その平然とした様子に言葉が見つからないあたしを見て、柚葉さんがあははは、と楽しそうに笑った。


「よかったじゃない、みーちゃん。この子は将来有望だし、今のうちに青田買いしときなよ」

「柚葉、エロババアみたいな言い方すんなよなー。でも確かに、こいつはオススメだな。今のうちに既成事実作っとけよ、みーちゃん」

「ちょ! 三津のほうがエロオヤジくせーし! つーか、小学生と既成事実ってなんすか!」

「えー、みーちゃんの想像通りぃ?」

「やだ、みーちゃんってばやーらしーい」


この2人、楽しんでやがる。

ぐむむ、と反論の言葉を探していると、コトンと湯のみを置いたイノリがあたしに顔を向けた。


「ミャオ」

「ん? なに、イノリ」

「ミャオはおれのこと、すきじゃないの?」

「は」


今の空気読めよ、小学生!

その質問、今はしたらだめだろ。


「おれはすきだよ」


ちくしょう。かわいい顔して、一人前のこと言ってからに。

真っ直ぐな目で見つめてくるんじゃねえ。


「あー、えーと、それはあれ? 友達みたいな、そういうことだよね?」

「んなわけねーじゃん。なあ、祈? オンナとしてに決まってんじゃんなー」


三津の言葉にこくんと頷くイノリ。


「いかんよー、みーちゃん。そんな言い方で逃げようとしちゃ、ダ・メ☆」

「……三津は柿ピー、食べててくださいますぅ?」


へらへらと笑う三津をギロリと睨む。

いい加減黙ってねえと、あんたの腹にも一発いれるぞ?


「え、えーと。ハイ、ソウシマス」


柚葉さんの背中に隠れた三津からイノリへ、視線を戻す。

少年はまだ、返事を待つように真っ直ぐにあたしを見ていた。


「ミャオ? どうなの?」


うーん、こんなに真剣な顔されると、適当にごまかすことができないよなあ。

あたしもよー、好きよー、ウフフ、なんて言うのは簡単(でもないけど。そんな性格じゃないし)だけど、それはしてはいけないと思う。

いや、気持ちはすごく嬉しいんだけどね。


この1日でそこまで懐いてくれたんだなー、って胸が熱くなりますよ。

好きかと訊かれたらそりゃもう、好き好き大好きですとも。

でもそれはイノリの求めていない『好き』なんだろう。

かわいい弟、そんな意味での好きは、きっとこの子は喜ばない。


しかし。

すげいよ、小学1年生。

この年でオンナを口説くんかい。

全く、あんたには脱帽だわ。


澄んだ双眸に、ふ、と笑いかけた。


「あのさ、イノリ。あんたはあたしにはまだ対象外だ」

「え……?」

「対象外。あたしさ、自分より背の高い男じゃないと、いやなんだよね」


イノリの眉間に深いシワが刻まれる。唇をぎゅうと噛む。


「並んだときには見上げるような人がいい。手の平だってあたしより大きな人がいい。ね? あんたはまだ対象外なんだよ」


イノリの手をとって、自分の手と重ねた。

もちろんあたしのほうが大きくて、まだぷくぷくした手を覆ってしまう。


その様を悔しそうに見つめている顔を見ると、胸が痛む。


あー、意地悪なこと言ってんなー、あたし。

完全にイノリの中のオトコのプライドをへし折ったよな。

でも、それでもあたしはあんたの気持ちを真正面から受け止めたつもりなんだよ。

ビームでも出しそうなくらい手をみつめていたイノリが、ばっと顔をあげた。

あ、すんげえ怒ってる。


「ミャオ!」

「あ、はい」

「じゃあ、おれがおっきくなったらいい!?」

「は?」

「おれがミャオよりおっきくなったら、いいんだよね!?」


あたしの手を握り返して、迫るように言う。


「おれ、すぐにおおきくなるから! ミャオよりおっきくなったら、いいんだよねっ?」

「え、えーと、そ、そうなる、かな」


な、なんだ、この情熱は。

そこまで執着するほどの女じゃないだろ、あたしは。

気圧されていると、柚葉さんが言った。


「いいじゃない、みーちゃん。祈くんの熱意を受けてやんなよ」

「え、柚葉さん、それは」

「祈くんがみーちゃんを追い抜くっていったら……そうね、9年くらいかかるんじゃない? 9年後もみーちゃんのこと好きだって祈くんが言ったら、その時は恋愛対象に入れてあげたらどう?」


9年後って……この人はもう。

呆れたあたしだったが、イノリが「おれ、それでいい」と大きな声をあげた。


「それでいい。ミャオ、いい?」


いいも何も。

9年後のあんたはあたしなんか相手にしなくても選り取りみどりなんだぜ?

美女から美少女、望めば誰でも落とせそうだったよ。

こんなことがなければ、あたしのことなんて相手にしないような、さ。


しかしまあ、9年後もあんたがあたしを口説いてくれるっていうのなら、

こちらも本気で相手をしようじゃないか。

なんて、そんなことないんだろうけどね、へへ。


「……いいよ。じゃあ、あたしよりおっきくなったときに、もう一度お願いします」


畏まって、ぺこんと頭を下げた。


「うん、分かった。あ、そうだ。それまではおれ以外の男と仲良くしたらだめだぞ」

「え、なんで」

「当たり前だろ。おれがおおきくなるまで、ミャオも待たなきゃだめだ」

「ぷ。それって結局祈くんがおおきくなるまでは、みーちゃんは彼氏作れないじゃん」


柚葉さんが吹きだした。

ま、彼氏なんてできた試しがないんで、一向に構わないんですけどね。


「いいよ。約束する」

「じゃあ、約束」


ずいと、細い指をあたしの顔に突き出す。

はいはい、指きりね。とそれに絡めようとすると、イノリはあたしの手を掴み。

ぐいと体重をかけて立ち上がったかと思うと、


ちゅう、と唇を重ねてきた。


ちゅう? きす?


頭に疑問符が大量発生したあたしから唇を離したイノリは、えへへと笑った。


「こういうの、ツバつけたっていうんだってさ」

「あ。それオレが教えた。おまえ、やるなー、祈」


状況についていけないあたしに、げらげら笑う三津の声。


「好きな女にはさっさとツバつけとけよって教えたんだー。ひひ」

「やだ、あんたそういうロクでもないこと教えたわけ?」


なるほど? あたし、小学1年生にツバつけられたわけね。

初めてのキスがこれか。


いやね、別に、ファーストキスはこんな相手とこんな雰囲気でこんな場所でぇ、なんて甘い幻想を抱いていたわけじゃないよ。


けど、どうなんだ、これ。


まてよ、これって回りまわれば……三津のせいじゃない?

いや、三津のせいだろ。間違いなく。


「やったなー、祈。これでみーちゃんはおまえのもんだぞ」

「えへへー。そうかなー」


ほのぼのと会話をしている2人を横目に、柚葉さんににこりと笑いかけた。


「……あの、柚葉さん?」

「はい? どうしたの、みーちゃん」

「三津、一回殴ってもいいすか」

「あら、一回でいいの? 何回でもいいけど」

「な!? みーちゃん、なんで!?」

「じゃあ、あとでサクッと殺っちまいますね♪」

「ひっ! 今、殺すと書いてやると読む方のやるだよね!? いや! みーちゃん、怖い!」


イヤイヤ、と三津が首を振ったところで、奥のほうから「うるせぇぞおおおおおお!」と熊の咆哮がした。


は、いかんいかん。

またも志津子扱いされてしまう。


しん、と声を静めて気配を窺う。

熊が洞穴から出てくる様子は、ない。

全員で音を立てないように、ため息をついた。


「つーか、あのじいさん、風間さんの何だろうな?」

「風間さん、『先生』って呼んでたよね」

「ここは加賀父の地元ですよね。高校とかの先生なんじゃないですかね」

「なるほどー。で、何で先生と夜中まで酒飲んでんだ?」

「家が近いし、親しいんじゃない? 奥さんも亡くなったっていうし、寂しいのよ、きっと」

「あー、そうかもな。つーか、オレたち、先生の家で寛いでていいのか?」


いや、寛いでんのはあんただけだろ。

柿ピー、ほとんどなくなりかけてんぞ。


声を大きくしないよう、顔を寄せ合って話していると、襖がすらりと開いて加賀父が顔を覗かせた。


「なんだ。急に声がしなくなったから、寝ちゃったのかと思った」

「あ、いや、じいさん起こしたらまためんどくさいじゃないっすか」

「ああ、大丈夫。あの人は簡単には目が覚めないから。そうだ、今風呂を沸かしてるんだ。順番に入るといい」


続き部屋になっているキッチンに入っていく加賀父に、三津が驚いたように訊いた。


「え、ここ風間さんの家じゃないっすよね? いいんすか」


三津の問いに、加賀父はあっさり「うん」と答えた。


「平気。先生は人を招くのが好きな人だし。それに、今から寺まで歩くのも面倒だろ」


確かに。壁にかけられた時計を見れば、12時を回ってしまっていた。


「布団もあるし、今日はここに泊まろう。そうだ、腹減ってないか? さっきまですき焼きを食ってたんだけど、まだ材料が残ってるんだ。三津、ビールもあるけど」

「あ、頂きまっす! やった!」


立ち上がって、キッチンへ向かう。

戻ってきた三津は、手に缶ビールを2本抱えていた。

1本を柚葉さんに放る。


「みーちゃんは未成年だから、だめー」

「言われなくてもいりませーん」

「あ、風間さん、アタシ手伝いましょうか?」

「いいよー、ゆっくり座ってなー」


立ち上がりかけた柚葉さんを制す声がして、次いでじゅわじゅわと美味しそうな音と、香り。


「かんぱーい!」


成人2人は、コン、と缶を合わせて、酒盛り開始。

柚葉さんが綺麗な喉を露にしてビールを流し込んでいく。

姐さん、いい呑みっぷりっす。

お酒の味を知らないあたしでも、美味しそうに感じます。


壁にもたれて、楽しそうな2人をなんとなしに眺める。


ああ、この部屋、なんか落ち着くー……。

いい匂いもするし、目を閉じたら自分の家にいるような錯覚を覚える。


なんだか、気持ちいいー……。

と、左側に温もりを感じて薄く目を開けた。

ああ、イノリがあたしにくっついていたのか。


こいつ、そんなにあたしが好きなのかー……。


何故だかおかしくなって、へへ、と笑ってから、再び目を閉じた――――。



『おまたせー。あれ、寝てる』

『んあ? あ、こいつら2人して寝てんじゃん!』

『朝から歩き通しだったから、疲れちゃったのねー』

『おうおう、くっついて仲がいいねー、全く』

『息子の成長ってのは早いもんだなー』


遠くで和やかな会話を聞いたような気がした。



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