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お休みしました



(ん……)


目を覚ますと、いつもの景色じゃない。


(そうだ

学校……)


寮にいるんだった。


気だるい体を起こす。


「アキ?」


部屋にはアキの姿がない。


(仕事に行ったのかな?)


時計に目をやると、昼過ぎ。


(学校、遅刻……)


その時、紙を見つけた。


『ミイ

 今日は休むって

 連絡を入れたから

 ゆっくり寝てて

 無理させてごめん

        アキ』


(アキ……)


ごめんって言われると、何で悲しくなるんだろう……


謝る時のアキの顔は、いつも泣きそうな顔。


その顔を見ると悲しくなる。


だから、ごめんって言葉は嫌い。


(今日はお休み)


またベッドに潜る。


昨日来たばかりなのに……とか思わないのは、学校に通う事が初めてだからかな?


再び声が出なくなってから、アキは私をあまり外に出さなくなった。


また声が出なくなったら心配だと言われたら、外に行きたいとは言えない。


私はアキとソルドと、たまにアキの仕事場の人にしか会わない生活を何年も繰り返していた。


それでも不自由は感じなかった。


アキが側にいるから。


ソルドが出来事を話してくれるから。


(一人は寂しいな)


唐突に寂しさが込み上げる。


朝までいた筈のアキ。


ベッドにかすかに残ったアキの匂い。


でも、すぐに消えそうな匂いに、思わず泣いてしまう。


“アキがいない”


不安で、寂しくて、怖くて……


シーツに丸まりながら泣き続ける。


どれ位泣いたのか……


いつの間にか泣き疲れて眠っていたみたいで、更にだるくなった体を起こす。


(もう、夕方……)


今日はまだ何も食べてないけど、食欲はない。


ベッドからはもうアキの匂いがしない。


アキは毎日は此処まで来れないと言ってた。


(今日は来ないのかな?)


電話を見てみる。


アキからの連絡はない。


(仕事の邪魔になるかな?)


私からアキに連絡をした事がない。


アキの仕事は忙しいって見ていてよく分かるし、私がアキを呼べばソルドに迷惑がかかる。


電話を握りしめる。


(やっぱり、しちゃ駄目)


元の場所に戻そうとした時、手の中の電話が鳴った。


(び、ビックリした)


早くなった鼓動を落ち着かせながら電話に出る。


『ミイ』


(アキだ)


聞こえる声に、また泣きそうになる。


『ミイ?

ご飯は食べた?』


「……まだ」


『食べなきゃ駄目だよ?』


「……ない」


『空いてなくても食べなきゃ

もしかして今起きたの?』


「寝た」


『二度寝してたの?

……無理させてごめんね』


(嫌!

ごめんって、聞きたくない)


「……ヤ」


『ミイ?』


「ごめん、ヤ!

アキ

言う、嫌! 嫌!!」


『ミイ!?

どうした?

分かった、もう言わないから!』


焦った、心配してる声。


「……ふっ、う」


荒くなった呼吸の合間に、嗚咽が出てくる。


『ミイ、どうした?

何で泣いてる!?』


「アキ」


『俺のせいか?』


泣きそうな声。


「アキ……

アキ、アキ、アキ……」


『ミイ……』


(言っちゃ駄目!)


そう思うのに、気持ちが止められない。


「……寂しい」


『っ、今すぐ行く!』


アキのその言葉を最後に、電話が切れた。


(言っちゃった……)


切れた電話を握りしめながら、泣くしかできない。


どれ位そうしていたか分からないけど、急に後ろから抱き締められた。


「ミイ」



その声と匂いに安心する。


「ア、キ……」


その体に抱き着く。


「やっぱり、ミイに全寮制は無理だ

帰ろう」


その言葉に頷いてしまう。


国で義務化されてる事なのに、寂しいのは皆一緒なのに、アキに甘えてはいけないのに、この手をとってしまう。


アキは魔法で荷物を片し、部屋に施した魔法も消去した。


「家に帰ろう」


その言葉は凄く魅力的で抗えない。


私はアキと共に学校を出た。


「何処へ行くつもりだ?」


そこにいたのはソルド。


彼らしくない無表情で、アキと私の行く手に立つ。


「ミイを連れて帰る

やっぱり全寮制は無理だった

まだ早い」


「それはお前の思い込みだろう!?

ミイの事を考えるなら、連れて帰るのは止めろ!

このままじゃあ、いつまで経ってもミイは自立できない」


「そんなの必要ない

ミイは俺が守る

……一生」


アキとソルドが言い争う。


いつもとは逆で、アキが冷静に見え、ソルドが感情的に見える。


二人共、私の事を思ってくれているのが分かる。


こういった口論は何度も見てきた。


でも、二人が言い合えば言い合う程、私は何も考えられなくなる。


どうしていいか分からない。


(私が、寂しいなんて言ったから……

アキの手をとってしまったから……

仲のいいアキとソルドをこんな風にしたのは、私……)


その事だけが頭を支配する。


(私が悪い

私のせい

私がいなかったらこんな事にならなかった

私はいらない

必要ない

……なのに、何で此処にいるんだろう?

何故生きているんだろう?)


二人の言葉を聞きながら、負の感情に押し潰される。


私の目から涙が零れる。


(消えたらいいのに

跡形もなく消えれたらいいのに……

そう思うのに、何故“生きたい”って思うんだろう?)


涙が止まらない。


「ミイ?

どうした?

ソルドの言う事は気にするな

一緒に家に帰ろう」


「駄目だ!

初めは慣れないだろうが、我慢する事も覚えなきゃいけない

ミイ、学校に戻るんだ!」


ソルドの言う事は分かる。


このままアキの手をとれば、嫌な事から逃げる事になるっていうのは分かっている。


でも……


「ミイ?」


何も答えず、涙を流すだけの私に、心配そうな顔で近寄ってくる。


「…………」


でも、私が口を開いた事でその顔は驚愕の表情になり、次いで憤怒の表情になる。


「ソルド

お前は殺す」


感情が感じられない口調。


(駄目!)


咄嗟にアキを抱き締める。


「離すんだ、ミイ

ミイから声を奪ったソルドを生かしておけない」


(駄目!)


首を振る。


「何で庇う?

そんなにソルドが大事?

ミイの声を奪ったのに!?

……俺よりも大事なのか?」


(違う!)


首を振るしかできないのがもどかしい。


あまり話せる訳じゃないけど、このままじゃ何も伝わらない。


(そうだ、紙!

紙に書けば……)


ヤンにしたように、紙に書けばいい。


慌てて紙を取り出す。


『ソルドは悪くない

 ソルドは正しい

 悪いのは私

 声が出なくなったのは

 私のせいだから

 ソルドを殺さないで』


急いで書いてアキに見せる。


途端に表情が変わり、私を抱き締める。


「ミイは悪くない

悪い訳がない」


泣きながら言うアキ。


私も泣いてしまいたくなる。


アキの手から離れた紙は地面に落ち、それをソルドが拾った。


(ソルド)


顔を歪ませ、辛そうな表情。


近寄ってくると頭を撫でられた。


「ミイ、ごめん」


(ソルドが泣いてる)


ソルドの涙を初めて見た。


(ソルドのせいじゃない)


首を振る。


「でも、最終的にミイを追い詰めたのは俺だ

ごめん

まだミイが万全でない事も、一人に慣れていない事も、俺は知っていたのにキツい事を言ってしまった」


また首を振る。


泣く二人に挟まれ、私も少し泣いてしまった。


声が出なくなった事で、一時帰宅を許されたみたい。


アキは無断で連れて帰ろうとしていたらしいけど、ソルドが後で色々してくれたみたい。




(家……

ただいま)


たった一日いなかっただけなのに、懐かしい。


(アキの匂い)


やっぱり落ち着く。


私は人より鼻がいいらしい。


ソルドが言うには、この家にアキがいる時間が短いから、私の匂いの方が強い筈らしい。


でも、私にはアキの匂いしかしない。


たまにソルドの匂いもするけど、大体はアキの匂い。


だから昔は、アキやソルドから違う匂いがしたら怖くて逃げて泣いてた事もよくあった。


安心する匂いがなくなった事に恐怖していたけど、次の日には違う匂いが消えててホッとした。


「やっぱり家にいる時のミイはいい顔をしているな

一日であんなにやつれていたのに、俺は本当に酷い事を言った」


ソルドの言葉に首を振る。


ソルドは正論を言っただけで、何も悪い事は言っていない。


「学校は一時的に休むって事になっているから、いつでも戻れる


戻りたいと思えば言ってくれ」


ソルドはそう言った後、帰っていった。


「ミイ、おいで」


アキに呼ばれて近付く。


「またゆっくり頑張ろう?」


頷くと抱き締められる。


声が出せないなら、流石にアキと意思疏通が上手くいかない。


短い単語だけの言葉でも、私達には必要。


(早く話せるようになりたいな)


話せなくなった私を心配して、アキが仕事に行こうとしないから。


性格的に、ソルドは自分を責めると思うから。


気にしなくていいよって言いたい。


ソルドのせいじゃないよって言いたい。


ちゃんと、自分の口で……


(ヤン、どうしてるかな?)


心配してないといい。


昨日知り合ったばかりだから、してないかな?


ヤンは優しい人みたいだったから、しているのかな?


それだけが心配。

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