思い出しました
アキと会う前の事を、唐突に思い出した。
“化け物”
昔、私に向けられた言葉。
私は化け物。
人ではない、何か。
名前もなく、ずっと暗い場所に閉じ込められていた。
私は人殺しの道具だと言われて。
生まれた時に、人としての耳の他に、頭に動物の耳があったかららしい。
今は何もないし、どうやって出すのかも分からないし、今出るのかも分からない。
でも忌み嫌われ、ずっと閉じ込められていて、必要最低限の接触すら認めてもらえてなかった。
食事は一日一回。
動く訳じゃなかったから、別にそれでもお腹は空かなかった。
乳児の時には私を世話する人がいたらしいけれど、物心つく頃にはいなくなった。
ある程度の事が自分でできるようになってからは、食事を持ってくる人としか会わなくなる。
感情を出しても見向きもしてもらえない。
言葉を発しても、聞き入れてもらえない。
だから何も話さず、何も考えないようにしていた。
ある日、私は外に出された。
沢山の人の中にいても、何も感じなかった。
ただ生きているだけの存在。
そんな私に命じられた一言。
「殺せ」
誰が言ったのかは分からない。
誰を殺すのかも分からない。
でも、体が勝手に動く。
普段あまり動く事のないのに、体が軽い。
まるで周りが止まっているかのように感じるほど、足が速く動く。
手は何故か爪が伸び、人を横切るたび、赤く染まる。
誰も動かなくなるのに、時間はかからなかった。
それでも後悔する事はなく、悲しみも楽しみも感じなかった。
何故、忘れていたんだろう?
私は人ではないって。
沢山の人を殺す為だけに生かされていたって。
「ミイ?」
アキから声をかけられて振り向く。
(アキに嫌われたかな?)
心配そうな顔をしているアキ。
可愛くて大好きなアキ。
笑顔を向けると、僅かに目を見開く。
「アキ、違う
化け物……私」
アキは化け物なんかじゃない。
化け物は私だ。
でもアキは嬉しそうに笑い、私を抱き締めた。
「ミイの声が出た!」
自分の事のように喜ぶ。
「アキ……嫌い、違う?」
嫌悪の表情を見せない。
あんなに人を殺したのに、私を抱き締めたまま。
私の事を嫌いになっていないんだろうか?
「俺がミイを嫌いになる事は絶対にない
離せと言われても無理だ
俺はミイだけがいれば、それでいい」
更に抱き締めてくる。
「私、人、殺し」
「俺もだ
一緒だな」
アキの笑顔に泣きそうになる。
「昔、も」
「……過去を思い出したのか?」
問われて頷く。
「ミイの名前は?」
でも次に聞かれた事は、予想外の事だった。
「……ない」
「それじゃあ、今まで通りミイでいい?」
頷くと、更に笑顔を深くする。
でもそれ以上何も聞いてこない。
私がどんな風に生きていたか。
何をしたのかを。
「……どうして?」
アキは何で何も聞かないんだろう?
「ミイの過去は関係ない
過去に何をしたとしても、俺がミイを必要とするのに変わりはない
ミイの傍にいたい気持ちは同じ
ミイがいてくれるなら、他はどうでもいい
世界を敵に回したっていい」
「……アキ」
名前を呼ぶしかできなかった。
胸がいっぱいで。
アキと出会えてよかった。
私の存在を許してくれる人。
ずっと感じていた罪悪感の正体が分かったけど、もう気にしなくていい。
アキが一緒にいてくれるだけで嬉しい。
アキには私しかいないって言うけど、私にもアキしかいない。
互いを必要とする二人。
過去を思い出した事で、私のアキに対する執着がかなり出てきた。




