豹変
街は賑やか。
人混みの中、ミイとはぐれないように抱き上げて歩く。
でも、観光地という事は、俺が魔術師長をやっていたのを知っている奴等もいるって訳だ。
「魔術師長のアキ様!?」
「何でこんな所に!?」
俺が辞めた事を知らないのか、あっという間にざわめきが広まった。
「俺はもう魔術師長じゃない
側に寄るな」
他人に側に来られるのは好きじゃない。
俺が許しているのはミイとソルドだけで、他の魔術師ですら必要最低限の接触しかしなかった。
辞めた今となっては、ミイとしか一緒にいたくない。
俺の目的は以前のミイに戻ってもらう事。
他の事はどうでもいい。
冷たく言い放つと、一気に静まりかえる。
“魔術師長”という肩書きに近付いてくる奴なんて、俺には必要ない。
魔法を使えるというだけで慕う奴。
畏れを抱く奴。
取り入ろうとする奴。
そんな奴等は見飽きている。
俺は性格的に、人とは違う。
残酷な事だって平気でするし、手にかけても何とも思わない。
涙を見たって、心が動かない。
俺を人らしくしてくれるのはミイだけだ。
ソルドは信頼はしているが、それだけ。
ミイのように、守りたいとか、一緒にいたいとか思った事がない。
俺が大事なのはミイだけ。
自分なんかより余程大切。
俺の命の価値は、ミイと比べるとあまりに低い。
だけどこの間のように、ミイを軽んじる奴等がいる事は確か。
俺を慕うというなら、何故俺が大事にしているミイを傷つけるのか……
俺がキレるって分かりきっているだろうに。
そしてそれは此処にいる奴等にも言える事だ。
「その女のせいですか?」
一人を皮切りに、次々と言葉をかけてくる。
「辞めたのは、その女が関わっているんですか?」
「一人の女の為に、魔術師長を辞めるだなんて!」
そんな言葉が聞こえる度、俺の首にまわっているミイの腕に力が入る。
「ミイは関係ない
俺は俺の為に辞めただけだ!
これ以上ミイを悪くいうと、ただじゃおかない!」
怒気を露に言うと黙ったが、それでも納得をしていない顔をしている。
「俺が辞めた原因がミイだったとしても、お前達には関係ない
ミイは唯一、俺が大事に思っている女だ
他の奴等なんてどうでもいい」
俺のこう言った発言は昔から何度もある。
その度にソルドがフォローを入れていたが、今回はそれがない。
「それでも魔術師長か!?」
「もう辞めた
それに、こんな俺を魔術師長にしたのは国だ
文句があるなら国へ言え!」
俺が進んで魔術師になりたいと言った事はない。
魔法を複数使える事で、国から強制的に魔術師長にされただけだ。
「退け!
お前らの相手をする気はない」
今は特に、ミイ以外に興味すら湧かない。
人が避けた道を歩いていく。
魔術師を、総ての人が慕っている訳じゃない。
魔法を使える人は少ない為、忌み嫌う人だっている。
実際、小さなナイフが飛んできて俺の腕を掠り、血が滲む。
俺は治療魔法を使えるから、これくらいの怪我は何ともない。
毒が塗られていたら別だけど。
でも攻撃してきた奴には即行で魔法を放ち、首を飛ばした。
辺りに血と悲鳴が広がる。
「ば、化け物!
魔術師なんて、皆化け物じゃないか!!」
いつも守ってもらう立場のくせに、化け物扱いをする。
だから俺はこいつらを守る気なんか起きない。
冷めた眼で見ていると、周りよりもミイの様子がおかしい事に気付いた。
「ミイ?」
俺にしがみついている腕が震えている。
「どうした!?」
少し距離をとると、虚ろな目をしていて、息遣いだけが荒い。
「────っ!」
息を吸った音が聞こえたと思ったら、ミイが俺の腕から下りた。
音もなく足をつくと、フラフラしながら歩いていく。
「ミイ?」
声をかけても反応がない。
次の瞬間、ミイが消えた。
──いや、消えたかと思った程の速さで動いただけのようだ。
少し離れた場所に移動していた。
だが、その場所までの間に、夥しい死体が転がった。
ついさっきまで生きていた筈の人達。
それが今や血まみれで動かない。
何の感情も見せず、フラフラしていると思ったら、また見失う。
魔法を使っている様子はない。
これは何なのか。
呆然とする俺の周りで、悲鳴をあげる暇なく呆気なく殺されていく人達。
沢山いた筈の人は、あっという間にいなくなった。
残っているのは夥しい死体と、ぼんやりとした様子のミイだけ。
──八年前と一緒だ。
アキSide
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