ミイが壊れた日
アキSide
『ヒュ、ヒュ……』
電話口から聞こえる、変わった呼吸音。
何かがあったんだとすぐに分かり、慌てて学校へ向かう。
魔法が使える俺にとって、ミイの居場所を発見するのは容易い。
でも、その光景は見たくないものだった。
服は無惨に引き裂かれ、肌が見えている。
床に転がっている電話。
涙を流し、倒れているミイ。
「ミイ!」
慌てて駆け寄る。
でも、ミイから聞こえるのはあの呼吸音だけ。
ミイの口に口付ける。
鼻を摘まみ、息が漏れないように。
ミイが過呼吸になっているのが分かったからだ。
俺が酸欠になるだろうが、ミイが助かるならどうでもいい。
でもミイの呼吸は弱く、すぐに病院へと連れて行く。
目の前で忙しなく動く医者達。
ソルドを呼び、対応させる。
俺はもう、正常じゃない。
ミイがいなくなるなんて考えたくもない。
「ミイ……
死なないでくれ」
扉の向こうにいるミイに、そう呟くしかできない。
魔法を使えても、怪我の治療しかできない自分が恨めしい。
ミイに何もできない自分が悔しい。
しばらくすると、医者が出てきた。
「命はとり止めました
もう少し来るのが遅かったら、きっとダメだったでしょうけど」
医者の言葉にゾッとする。
もしミイが電話をかけられない状態になってたかと思うと、怖くて震えた。
「……よかった」
ソルドが呟くのが聞こえ、ようやく頭が動き出す。
(ミイに何かしたのは、誰だ?)
学校にいる奴が犯人だろう事は、十中八九明白だ。
(取り敢えず、潰す)
再び学校へと向かう。
ソルドは何か医者と話していたし、俺の事をみていなかったのだろう。
止められる事なく学校へと着いた。
(まずは、学校)
魔法で潰す。
中に人がいたら……とかは頭にない。
「な、何をしているのですか!?」
後ろから声をかけられ、魔法で拘束する。
「……ミイを襲ったのは、誰だ?」
そう問いながら振り返ると、青い顔をしたロウルがいた。
「え? ミイさんが!?
早急に調べますから、学校を潰すのは止めてください!
調べられなくなります」
そう言われ、ひとまず止める。
ロウルはミイが倒れていた教室にくると、目を瞑った。
しばらくそうした後──
「分かりました
生徒達の資料を渡すので、此方へ来て下さい」
学校を潰されるよりは、生徒を差し出した方がいいって事なんだろう。
っていっても、もう3分の1程潰した後だ。
理事長室へ向かう。
ロウルの魔法は、その場にあった事を知る事ができるものらしい。
普通は魔法が使えても、ロウルのように一種類しか使えない。
俺のように複数魔法が使えるのは珍しい。
ソルドでも三種類だから珍しいらしいが、俺はもっと使える。
だから魔術師長にされたんだが。
「この生徒達です」
渡された資料は四つ。
女一人と男三人。
主犯格は女で、男は実行犯。
でも俺にとって、ミイを傷つけた四人ってだけだ。
その四人をロウルに強制的に呼び出させた。
俺の姿を見るなり、逃げ出そうとした四人。
(させるか!)
魔法で拘束し、動きを止める。
「俺が来るのがもう少し遅かったら、ミイは死んでいた
お前らは人殺しだ
俺がこの世から排除してやる」
みるみる顔を青ざめ、泣き叫ぶ。
でも、そんなの俺の知った事ではない。
「言った筈だ
ミイに何かしたら潰すと
ミイは俺の命より大事なのに、お前達はそれを奪おうとした
許す筈がない」
一気に首をもぎ取る。
大量の血が辺りに飛び散るが、これは当然の報いだ。
「……遅かったか」
ソルドが顔を出した。
横にいた俺がいなくなった事に気付き、慌てて追いかけてきたのだろう。
「何故ミイについていない?」
今、ミイは一人って事だ。
「何故一人にした!?」
ソルドへ詰め寄る。
「ミイが目を覚ました」
でも、その言葉に目を瞠る。
「目が覚めた?
ミイ!」
(とにかく、一刻も早く病院に帰らないと……)
でも、ソルドが腕を掴んできた。
「何す──」
「ミイの様子がおかしいんだ」
ソルドの手を振り払おうとした時、衝撃的な発言をした。
(ミイの様子がおかしい?)
胸騒ぎがする。
慌てて病院までとんで帰った。
「ミイ!」
病院に着き、ミイに駆け寄る。
ミイの目は開いていた。
「ミイ、分かるか?
此処は病院だ」
でも、声をかけても反応がない。
視線も向けない。
笑顔を見せてくれない。
まるでミイの姿をした人形みたいだ。
「医者の話だと、ちゃんと聞こえてはいるらしい
でも反応がないのは、それだけ心に傷を負ったんだろうって……
まだ目が覚めたばかりだから、ってだけじゃないって事らしい」
ソルドの言葉に、目の前が真っ暗になる。
ミイに何があったかなんて、あの状態を見たら誰でも分かるだろう。
最後までされた形跡はなかったが、襲われたのは確か。
(殺したい)
もうこの世にいないのにそう思う。
殺し足りない。
しばらくして、ミイが退院する事になった。
相変わらず表情がない。
声も出ないというか、出そうともしてない気がする。
でも、少しだけ反応はしてくれるようになった。
「ミイ、帰ろう?」
声をかけると近寄ってくる。
でも手を繋いだり抱き締めたりはできない。
必死に逃げようとするからだ。
襲われたトラウマだろう事は分かる。
でも、ミイに拒絶されるのが辛い。
一番辛いのはミイだって分かっているのに、泣きそうになる。
「ピー……」
クウの鳴き声にも視線を向けるだけ。
あれから自分の意思で動けるようになったってだけだ。
今までミイの笑顔に癒され、ミイの優しさに和み、ミイの包容力に甘えてきた。
今の俺があるのはミイのおかげ。
ミイは気付いてないだろうけど、俺が人らしくなったのはミイがいたからだ。




