平和が崩れました
ヤンとルイの他に、エストも私の側にいる事が多くなった。
初めはまだ警戒していたけど、クウがいても何もしないから、徐々に解けていった。
エストは一時は質問ばかりしていたけど、それが止むとあまり口数は多くない。
日向ぼっこをしている私の横で、静かに難しい本を読んでいる事が多い。
一人で日向ぼっこをしようとしても、いつもついてくる。
サリスとマナが何をするか分からないからって言われたけど、二人は魔法を使えないってヤンが言ってたし、そこまで心配する事はないと思うんだけど……
でも、エストが本当は優しい人なんだって知れたのはよかった。
そんな人が何であんなにクウを退治しようとしていたのか不思議だったけど、エストは魔獣の恐ろしさを知っているからだった。
魔獣の中には魔法を放つものもいるらしい。
そのせいで壊滅した町もあると聞いた。
クウは大きくなるだけだから、魔獣としては弱いらしいけど。
エストは魔法を少し使えるみたいで、クウを閉じ込めたのは結界というらしい。
アキが簡単に解いたのは、エストよりアキが強いから。
魔法について殆ど知識がなかった私。
アキと一緒にいるのに何も知らなかった私に呆れながらも、エストは色々と説明してくれた。
エストと一緒にいる事が増えたからか、一人でいる時、サリスから変な事を言われるようになった。
「アキ様からエストに乗り換えるの?
尻軽ね!」
(尻軽って何?)
キョトンと首を傾げると、何故かもっと怒り出す。
「貴女はアキ様を諦めて、エストとくっつけばいいのよ!
アキ様に貴女は相応しくないのよ!!」
(エストとくっつく?)
アキを諦めてって事は、エストと、アキとしているような事をしろって事?
(無理
アキじゃなきゃ、嫌)
エストはいい人だけど、アキとは違う。
「無理
アキ、だけ」
首を振る。
すると、顔を真っ赤にしながら恐い表情をする。
「もうそんな事を言えないようにしてやるわ!」
その言葉と同時に、何処からともなく現れた三人の男の人。
(何?)
何故か腕を掴まれ、運ばれてる。
そのままある教室に入った。
埃っぽい部屋に、少し咳き込む。
「アキ様に会えない体にしてあげるわ!」
サリスが嫌な笑いを浮かべ、男の人達からも嫌な感じがする。
二人の男の人に両肩を床に押さえつけられ、上体を起こせない。
そんな中、もう一人の男の人が私の服を──引き裂くように破った。
ボタンが音を立てて床に落ちる。
「アキ様も、他の男に抱かれた貴女の事を、もう見向きもしないでしょうね
こんな場所誰も通らないから、助けを呼んだって無駄よ」
嫌な笑顔を張り付けているサリス。
それに、私をニヤニヤしながら見下ろしている三人の男。
状況は分かった。
「嫌!
ヤ!
離して!!」
でも、全然動けない。
私は力がない方らしいから、相手が一人でも動くのは無理だろう。
「クスクス……
これでアキ様を解放してあげられる」
サリスの声が聞こえたけど、恐怖に攣る私は何も言えなくなっていた。
電話にも手が届かない。
(嫌、嫌、嫌……
アキ、アキ、アキ……
嫌ぁぁぁぁ!)
必死に叫ぼうとするのに、声が出ない。
(嫌!
アキ以外に触られるなんて、嫌!!)
そう思っていても、私の体に這わされる手。
(気持ち悪い!
気持ち悪い!!
助けて!
アキ、助けて!!!)
必死でアキの事を思うけど、やっぱり声は出てくれない。
ヒュ……
喉が鳴る。
ヒュ、ヒュ、ヒュ……
段々と間隔が狭まる。
(苦しい)
思うように息ができない。
「……おい、コイツ何かヤバくねぇ?」
私の様子に気付いた一人の男がそう言い、皆が私を見下ろす。
(苦しい
苦しい!
助けて!)
できるだけ手を伸ばしても、空をきるだけ。
変な呼吸音は止まるどころか、更に酷くなっていく。
「お、おい
ヤバいって!
ヅラかろうぜ!」
慌てて教室から出ていく四人。
拘束がなくなり、携帯をとり出す。
無我夢中で電話をかけ、それはすぐに繋がった。
『ミイ?』
(アキ!
苦しい
助けて!!)
相変わらず声が出てくれない。
変な呼吸音だけが響く。
『ミイ!?
どうした?
すぐに行く!』
様子が変だと気付いてくれたみたいで、すぐに電話が切れた。
(苦しい
苦しい……)
意識が朦朧としてくる。
電話も持っていられず、落としてしまった。
(私がアキの近くにいるから、こんな事に……
アキにも迷惑をかけて……
私なんて、いなくなったらいいのに……)
涙が出てくる。
息ができない苦しみからか、自分の不甲斐なさからか……
静かに目を閉じた。
──そして、心にも蓋をした。
もう、こんな想い、したくなくて……




