夢の箱
冬が終わって、もうすぐ春が来る。
風が暖かくなってきていて、外に出るのも苦痛じゃなくなってきた。
フーッ
吐く息も真っ白だったけれど、
段々と薄くなってきているのがわかる。
寒くて布団にくるまって、
時間ギリギリまで布団に入っていたけど、
布団から出るのも、前より少し早くなった気がする。
私、松倉 光。(まつくら ひかり)
4月から高校生になる。
入学式まであと2日。
お母さんからは、学校に行く準備が出来てるのか最速される毎日を送っている。
大丈夫って言っているけど、実際の所、何にもしていない。
制服も押入れの奥にしまってあって、学校の要綱もまだちらっとしか目を通していない。
余裕な訳じゃないけど、なんとかなるだろ、なんて思っている。
ピルルルル・・・
机の上の携帯が鳴る。
宛先を見る。あ、美保だ。
美保は中学の時バスケで知り合った。
美保とはライバルの中学だったけど、仲が良かった。
美保はバスケが上手で、すごく一生懸命な子。
チームではキャプテンで、人一倍声を出して
周りをしかっていた。
私のチームは一回も美保のチームに勝ったことがなかった。
私はいつも美保のプレーを見ながらバスケをしてきた。
憧れ、だった。もちろん今も。全然叶わないけど。
美保と一緒にバスケがしたかった私は、中学三年の時に
思い切って美保に聞いてみた。
光「美保って、高校どこに行くの?バスケ、続けるの?」
美保「緑山高校!親と先生に反対されてるんだけどね。」
美保は遠くを見ながら言った。
光「え・・・なんで?」
美保の口がむすっとなる。
美保「白百合高校に行けって。あそこ、バスケ強いでしょ。進学校だし」
光「私も、美保の親だったら白百合に行けってゆうかも。」
美保「げ、光までそんなことゆって。ショック~。てか、光はどこ行くの?」
光「全然決めてない。でも私も、緑山かな?お兄ちゃんも緑山だし」
美保「え、まじ!?一緒にバスケ出来るじゃん!緑山に決定だね!」
光「ふふ、美保と一緒にバスケ出来るなんて夢みたい」
美保「夢は夢で終わらせないよ。約束だよ!私も親と先生説得して
緑山絶対行くからさ!光いるなら安心する~」
光「ありがと。美保、緑山に行きたい理由って何なの?」
美保「あそこ、私の憧れの先輩いるんだよね~。光、知らない?岩崎玲さん!」
光「あの人はすごいよね、私も憧れてた。」
岩崎玲さんは、バスケが上手でとても可愛かった。
周りからもすごい人気で、私もすごく好きだった。
プレーも、笑顔も。声も姿も。
そう、昨日まで――――。
昨日
私は部屋でTVを見ていた。
コンコン
光「はーい、誰?」
優「あ、俺!入っていい?」
光「いいよー」
ガチャ
部屋の戸が開く。
優「よ、何してたの?」
松倉 優
私の2つ上のお兄ちゃん。
優しくて、兄弟すごく仲がいい。
お兄ちゃんは私に何でも話してくれて、妹思いで顔もかっこよくて、
周りからも取り囲まれてたりする。
私の自慢のお兄ちゃん!
・・・でも、それだけではない。
実は、私はお兄ちゃんの事が、好き。
もちろんお兄ちゃんはそれを知らない。
私が辛い時、楽しい時いつもそばにいてくれた。
悩みも全部話してて、すごく便りにしている。
モテていたのは知っていたけど、
彼女はずっといなかった。
でも、昨日お兄ちゃんは衝撃的なことを放った―――
優「俺さ、ついに彼女出来たよ!」
光「え・・・あ。そ、そうなんだ。・・・おめでとう」
顔が引きつる。上手く笑えない。
こうゆうときって、何て言えばいいんだろ?
私、今どんな顔してるんだろ。
やだな、好きなのばれちゃう。
優「なーんだよ、その顔!兄の嬉しい報告だぞ!もっと喜んでくれよ」
バシッ
お兄ちゃんが私の背中を軽くたたく。
光「あー、ごめんごめん。おめでと!びっくりしちゃって。で、相手は?」
優「聞いて驚くなよ?お前も知ってる奴だ!岩崎 玲!」
光「え・・・玲さん?」
優「美保ちゃんに怒られちゃうかな?美保ちゃん、玲の事大好きだから」
お兄ちゃんが笑いながら携帯をポケットから取り出す。
メールを打っているみたいだった。
美保の事は、お兄ちゃんによく話していた。
美保が玲さんの事が好きなことも、春から玲さんと同じ高校になる事で
美保と私が楽しみにしていたことも。
優「今度、家に連れて来るよ!あ、その前に部活で会うか」
光「そうかも、ね。」
優「じゃ、そーゆーことだから」
バタン
兄は背を向けてヒラヒラと左手を左右に振り、私の部屋を出て行った。
ガシャン―――
お兄ちゃんと詰め込んできた沢山の思い出。
箱に詰めて来たはずなのに。
今、一瞬で。
高い所から落として、全部割れてしまったみたい。
かき集める元気も、拾う事も出来ない。
ただ一つわかったのは、
玲さんへの気持ちが変わってしまったこと。
大好きだった、プレーも笑顔も。
今は、
顔も見たくない。
バフッ
勢いよく布団にもぐりこむ。
目頭が熱くなって来て、ぐっと涙をこらえた。
すると、昔兄と約束したことが頭をふとよぎる。
中学2年生の時、私は熱を出してバスケの試合に出れなかった。
家で寝込んでて、布団の中でずっと泣いていた。
コンコン
部屋の戸が鳴る。
優「ひかり・・・?」
光「・・・・。」
優「見に行かないの、試合?」
お兄ちゃんがベッドの足元に座った。
光「試合、出れないもん。行っても意味ないよ」
優「応援だけでも行ったら?皆きっと頑張ってるよ」
光「監督・・・に来るなって言われた」
優「試合に出るなって事だろ。送ってくから、行くぞ」
バフ
私が考える間もなく、布団をはがされた。
光「あ、ちょっ。」
布団を掴もうと思ったけど、お兄ちゃんの顔に目を向けると
お兄ちゃんが私のユニフォームを着ていた。
光「あ・・・」
優「お前が着れないなら、俺が着るよ」
プツン―――
胸の奥で何かが切れた気がした。
光「下で待ってて。準備するから・・・」
お兄ちゃんはにこっと私に笑みを浮かべて背を向けた。
パタン。
扉の音が部屋中に響く音とともに、
お兄ちゃんの姿がなくなった。
私はいつもそう。
お兄ちゃんに言われたら、その通りにしてしまう。
いつも正しい道をくれる。
多分、いう事を聞かなかったことは今までないと思う。
それほど――――
すき。
準備が出来て下に行くと、朝ご飯を食べていた。
優「お、行くか。」
口をおさえながら椅子から立ち上がる。
口はもぐもぐしている。