虹の橋
今日、新しい自転車が届いた。
「中学生になったから」ということで、買ってもらえることになっていたのだ。
土曜日の朝で、嬉しくなった私は早速その自転車で散歩に出ることにした。
当てもなく、適当にどこかさまよっていたらいい場所をみつけた─────という展開を期待して見るが、そんなことがあるわけもない・・・・・・はずで。
突然、雨が降り出した。天気予報では今日はずっと晴れだと言っていたのに。おまけに自転車が錆びてしまう。最悪だ。気分が良かった時に突然最悪の事態が訪れた時の気持ちというのは、とても言葉で言い表せるものではない。
ブツブツと文句をいいながら、神社の境内で雨宿り。自転車も、適当に屋根をみつけて止めておいた。 持ってきた飴を口で転がしながらイヤホンを耳に突っ込んで雨の音をシャットアウト。
普段なら、家の中で聞く雨の音は好きだ。でも今は土砂降りだし、せっかくの気分をぶち壊した雨の音を聞く気にはなれない。
音楽を聴いているうちにウトウトして、どうやら寝てしまったらしい。
目が覚めた時には雨は止んでいて、木の葉についている雫が光っていた。再び自転車に乗って、境内の後ろに広がっている森を抜けてみることにした。ここの古びた神社で遊んだことなら何回もあったが、この奥まで行ったことはない。
・・・・・・というか、生い茂った木をみんな怖がっていたし、大人たちからも行ってはダメときつく言われていた。あの頃は小さかったから素直に従っていたが、今となっては違う。何も怖くないし、大人がダメということは楽しいと分かり切っている。
というわけで、私は森へと入って行った。垂れ下った木の葉についていた雫が頭に落ちてくるのがなんだか楽しい。私はさっきまでの機嫌を取り戻して、片方の耳にイヤホンをつっこんだ状態で奥まで進んで行った。
何分進んだのか分からないが、やがて視界が開けた。
「・・・・・・」
言葉を失った。そこは、なんの手入れもされていない川と橋があるところで、多分何年も人が来ていないんだろう。 でも、私は手入れをされていなくても、とてもきれいに見えた。
試しに橋に足をのせてみる。
橋と言っても本当に短くて、その下に通っている川の幅も短いからやろうと思えば飛び越えられるだろう。
橋の真ん中に立って、何気なく空を見上げた。
この広場は360度木に囲まれているのだが、上は穴があいたように空が見えるのだ。
「すごい・・・・・・」
思わず声を漏らした。 本当にすごい。虹が見える─────────
この広場を包むように、虹がかかっていた。今見えているのは、虹の真ん中だと思うのだが、きっともう少し東に行くと片方の虹の端、西に行くともう片方の端が見えるのだろう。
「お気に入りの場所、みっけ」
私は1人でつぶやいて、笑った。あるはずのない展開が訪れてくれた。
雨もそんなに、悪いもんじゃない。