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エプロン

「川崎さん、上手だねー」

同じ班の瀬上せがみさんが言う。

「そ、そう?でも、いつもやってるから」

答えた私に、瀬上さんは目を丸くした。

「えぇっ!?こんなのをいつもやってるの」

「すげぇな川崎」

瀬上さんの声が聞こえたのか、お米を洗っていた男子、長谷川も言った。

 家庭科の調理実習の真っ最中のことだ。メニューも自分たちで考えて、材料も分担して持ってくる、すなわち先生は場所を提供するだけで、あとは全て私たち任せと言う事だ。

 メニューは、結構簡単に決まった。

瀬上さん─────さっき、そう呼んだらもう「千咲ちさ」と呼んでといわれたのだが─────がハンバーグがいいの一点張りで、長谷川は日本人は味噌汁と白米だと言い、もう1人の女子、和田さんはハンバーグならサラダをつけようといい、もう1人の男子、武田と私は「なんでもいい」という状況だったので、それなら出た案を全部取り入れよう、と。

「千咲と和田さん、これねばりが出るまで混ぜてから丸めといてくれない?ぁ、その前に石鹸で手洗ってね」

私の言葉に、2人は楽しそうにうなずいた。

「お米洗えたらお米と同じくらいの水入れて、浸しといて」

次は長谷川に言う。一応、家庭科の授業ということで電子機器は使わず、お鍋でお米を炊くらしい。

私は次に武田を振り返った。

「武田はレタス適当にちぎって洗って、それでそこにあるタオルに挟んで水気とっといてもらえる?」

 なんと、この班の人は和田さん以外誰ひとりとしてキッチンに立ったことがない(といったら大袈裟だけど)らしく、指示は全て私が出す・・・・・・ことになった。

「川崎、こんなのでいいのか」

長谷川が呼ぶので、私はお鍋を覗きこんだ。

「うん、大丈夫。これで5分・・・・・・でいいか。5分くらいこのままにしといて。今は休んどいて大丈夫」

そして私は、千咲と和田さんのところを見た。

「あ、瀬上さんそんなボールみたいにしないで・・・・・・。こんな感じで、小判型に」

和田さんが千咲に言う。

「だって爽華が丸めてって・・・・・・」

口をとがらせる千咲に、和田さんは困った顔をしている。思わず私は吹きだして、千咲に言った。

「和田さんの言うとおりで大丈夫だよ。ボール型にしたら、火が通るのにものすごい時間かかるし」

「えぇ、そうなの?」

驚いた顔をして、「日本語って難しいや」とつぶやきながら、和田さんに謝る千咲。

本当に、見てて面白い。

「出来た」

武田が言う。

「あ、ありがとー。武田もちょっと休んでて大丈夫だよ」

「なぁ、そろそろ5分経つぞ?」

長谷川の言葉に、私はうなずく。

「じゃあ火、つけて。結構強火でいいから」

そう言っている間に、女子2人も丸めることが出来たらしい。

 なんだかんだで私はあまり動かなかったので手が冷たくなっていた。

だから少しの間、お米を炊いているお鍋に手をかざしている・・・・・・と。

「わ、川崎さんひもっ!」

和田さんが声をあげた。

「ひも?」

私が下を見る、と。

「も、燃えてるし」

前で結んだ蝶々結びのヒモが燃えている。ヤバいと思って思いっきりはたく。長谷川がわたしてくれた濡れ布巾でたたきつけて、なんとか消火。

「あっぶねー」

武田がつぶやき、班のみんなもうなずく。当の私は、火傷ひとつしなかったため能天気に笑っていた。

先生にも、ほかの班の人たちにも気づかれずに、丸く収まった。

 

でも。

「何やってんのよ?せっかく貸してあげたのに─────」

と、帰って母さんに文句を言われた。

「なんでそんなドジ踏むかなぁ・・・・・・毎日やってんのに」

どうやら、そこそこのお気に入りだったらしい。

「ゴメンってば」

謝るしかない私に、母さんは呆れたように笑う。

「まぁ、今日は私、仕事休みだし作るけどさ」

 結局、これでも笑い話で収まった。

「で、美味しく出来たの?」

母さんの質問に私はうなずく。

「うん。もう、完璧」

 実際のところ、味噌汁の味が濃すぎて、かと言ってお湯を沸かして薄める時間もなかったわけだけど。  でも、それを覗けば美味しく出来たし、みんなで満足、満足。

 今回の調理実習、特にエプロンのヒモをきっかけにして、千咲や和田さん・・・・・・香枝かえとも仲良くなることも出来た。

 雨降って、地固まる。 ・・・・・・とはちょっと違うのか。

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