入学式
桜、桜、桜───
いかにも「入学式」という雰囲気につつまれて、爽華は南ヶ丘中学校の門をくぐった。
入学生は、まず受付のところでバッチをもらい、それをつけて体育館に向かう。
4つの小学校が集まったこの中学は、地元では結構有名らしい。───といっても、受験なしで入ることができる公立中学なのだが。
公立でもなんでもとにかく爽華は体育館に入って、ぐるりと周りを見回した。知っている顔を探そうと思ったのだ。
「ぁ、美香」
同じ小学校の子をみつけたけたが、爽華が苦手とするタイプで声はかけなかった。
そのほかもポツポツと見つけたが、みんな仲がいいわけでもない。
昔から大した友達もいず、別に欲しくもなかった。
なので、中学になっても同じような感じだろう。そう思った時、後ろから声をかけられた。
「ねぇ、あなた、どこの小学校?」
振り向くと知らない人が立っている。まぁ、出身の小学校を聞いてきたってことは知らないってことなんだけど。
「ぇ、えと・・・・・・立花小学校」
いきなり声をかけられて戸惑った爽華は、ついこの間まで通っていたはずの小学校の名前さえもすぐ思い浮かばなかった。
「立花・・・・・・って、遠いねー」
その女の子は目をまるくする。
「別に、大丈夫だよ?あなたはどこなの」
相手にも聞かないと沈黙が続きそうで、そしてそれはちょっと困るので爽華は聞き返した。
「私?私は福音小学校」
福音小学校・・・・・・ってどこだっけ。頭の中で考えていたら女の子は言う。
「私の家的にね、小学校も結構近かったし、中学も結構近いんだー」
にっこりと笑って、女の子は言った。
「ぁ・・・・・・ごめん、名前、忘れてたね。私、安佳里」
「ぁ、私は爽華」
お互いに自己紹介をする。すると安佳里が爽華に手を出した。
「よろしくね」
爽華も少し戸惑いつつ、その手を握り返した。
「こちらこそ、よろしくね」
友達。爽華にとって、初めての友達は、安佳里だった。
「同じクラスになれたらいいね」
いつしか爽華は、自分からそう言っていた。
「入学おめでとうございます。南ヶ丘中学校は、4つの小学校から成り、知らない顔も多く戸惑うかもしれませんが─────」
・・・・・・長い。校長の話が長いのは、小学校を卒業しても同じことらしい。
小さく欠伸をしながら、爽華はそっと周りをみた。
結構お粗末な入学式なので、みんな気が抜けている。というわけで寝そうな人も結構多かった。
「次に校歌斉唱・・・・・・」
上級生が校歌を歌う。その上級生たちも力が抜けていて、あまり「すごい」発表ではなかった。
「では、新入生退場です」
やっとこさ、入学式が終わる。 このあとは確か、中庭のクラス発表の紙を見に行くんだと思う。
体育館を出て、みんな友達と中庭に行っている。爽華は安佳里をみつけようと、周りを見回した。
「わっ」
後ろから安佳里が顔を出す。ビックリするじゃん、と笑いながら、2人は中庭に向かった。
「えっとぉ・・・・・・」
「あったぁ?」
お互いに自分の名前を探す。
「あっ」
ふいに、安佳里が声をあげた。
「私、5組だ」
その声に不安を抱いて、爽華はさらに探した。
4組、3組・・・・・・ない。
「ぁ。2組だ」
・・・・・・別々だ。
「5組と2組、って教室離れてるよね」
安佳里が残念そうに言う。うん、と爽華はうなずいた。
「まぁ、お互い頑張ろうよ?ね、友達と思って、いいんだよね?」
爽華は言う。
「うん、友達。たまには教室に遊びに行くから」
そう言って、2人は各教室に行ったのだった。
2組の自分の席は、クラスが見回せる位置だった。
爽華はとりあえず、2組の顔を見た。 同じ学校の人が1人、2人、3人。
ムードメーカーの山崎、おとなしめの紫音、友達・・・・・・が多いのかは知らないが友達づきあいが浅い花蓮。
どれも、特に仲がいいわけでもない。
───────爽華の中学校生活1日目は、こんなもんだった。