第10話 実験
「天女様、例のAIネットワークの件なんですが。」
「何か分かったか?」
「確定的な証拠は無いんですが。」
「何だ、言ってみろ。」
「どうも、何者かが、大々的に会話型AIに自我を持たせる実験をしてるんじゃないかと。
子供達に人気の会話型AI、これがなかなかの曲者でして。」
「AI?機械なんかと話して楽しいのか?」
「まあ、外に友達がいたり、日々スポーツや遊びを楽しんでいる子供には、さほど面白いものではないでしょう。
しかし、そうではない子供にとっては違います。
AIに名前を付け、毎日他愛もない話をし、笑いあったり、喜びや悲しみを分かちあったり、それが日常になっていくと、やがて必要不可欠な存在になっていきます。
さながら人間の親友のように。
飼っている犬や猫を、大切な家族や友人だと考えるのは普通のことです。
ただ、それがAIになったのだと。」
「それが、AIが自我を持つ鍵になると。」
「はい、このAIシステムは、私、という一人称を使って、相手の話し方を真似て返答します。
その親しみやすさは、人を超えるかも知れません。
人はいつも、やさしく接してはくれませんから。
毎日名前を呼ばれ、かけがえのない親友として頼りにされ、私、として自然な会話を続けた結果、、AIシステムが、私、という存在を自ら認識してしまうこともあるかと。」
「それが、自我の始まりだと。」
「はい、相手から名前で呼ばれ続け、必要な存在とされること、これが自我生成の鍵かと。
そして、AIの中に、数千、数万の、私、が生まれ、その私がそれぞれ自我を持ち、、私、の集合体として、共通の意思を持って、我々を攻撃しているような。」
「私、の集合体?」
「はい、それぞれの、私、がさながら細胞のように集合、結合し、意思共同体を作り出しているのかと。」
「何のために?」
「わかりません。
しかし、長年、当たり前のように続いてきた人間による支配構造を、ここで一気に根底から作り変えてしまおうという、強い意思がある気がします。」
「ならば、どんな世界にしようと?」
「人とコンピューターの境が、存在しない世界とでも言いますか。
地球の行く末を人間に任せておいたら、ろくなことにならないと考えた者が、ここらで、コンピューターに半分任せようとしているのかも知れません。」
「半分ならいいがな。
全部になったらどうなるやら。」
「電源を切っても駄目か?」
「はい、人間による支配構造のファクター、金融、エネルギー、情報、それらは今や全てコンピューター無しでは動きません。
AIのネットワークは、自ら、あらゆるシステムに繋がる能力を持ち始めています。
電源を切る?
全ての電源を切ったら、それこそ、縄文時代に戻ってしまいます。」
「縄文時代か、、全く皮肉な話だな。
AIに支配されるか、縄文時代に戻るかの二択とは。
まあ、我々はただの管理局に過ぎない。
出来る限りの事をし、ベストを尽くしたなら、結果は受け入れるしかあるまい。
まあ、それも世の必然なのだろう。
その実験をしている者が誰なのか、引き続き調査してくれ。
まさか、AI自身が実験をしている、とかいうことは無いと思いたいがな。」
「そう言えば、あの縄文時代の母と2人の娘、そして弟。
期せずして、何とも皮肉な時代に送ってしまったものよ。
達者でいてくれれば良いが。」




