月と少女と黒猫 【月夜譚No.372】
掲載日:2025/10/19
手を伸ばせば届きそうな満月だった。大きくて、丸くて、眩しい。今まで見た中で一番の美しさである。
その美しさは、毎日更新されている。夜は自らが発光しているのではないかと思うほど眩く、昼間は白くくっきりと姿を誇示する。
屋根の上に座った少女は、隣にやってきた黒猫の背をそっと撫でた。細められた双眸は魅入られたように月を映し、可憐な人形のような身体を月光に晒す。
今この月をかぐや姫が見たら、何というのだろう。いや寧ろ、あの月から地球を眺めているだろうか。美しい月面で絶美な姿のまま、青い地球を見下ろしているのかもしれない。
不意に少女が立ち上がる。それに驚いた黒猫は屋根を駆け下りていった。
夜風が少女の髪を後方に流し、露わになった額を月と向かい合わせる。
直に、月は地球に落ちてくる。そうなったらどうなるか、想像するまでもなく結末は見えている。
その時がくるまで、少女は月を愛でるのだ。




