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約束の審判  作者: 次野/うずらの


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6/15


 それからしばらくは、アカツキに付いてまわる。が、彼は女の子を口説いてばかりで、死神らしいことなんて一切しなかった。


『前髪切った? 前より顔がよく見えていいね。すっごくかわいい』

『その服、俺のために着て来てくれたんだよね。ありがとう、嬉しいな』

『前とネイルが違う。こっちも好きだよ。よく見せて、うん。このまま手、繋いでいよっか』


 ウインドウショッピングだったり、お茶したり。

 オープンテラスのカフェでアカツキを遠目に追うルカは、連日の甘ったるいやりとりに胃もたれしていた。


「ゲロ甘なんだけど……」

「気のせい」


 シドは大して気にならないようで、本日3杯目のすだちソーダに夢中だ。


「美味しい?」

「かすかに」と、口角だけ上げて。

「……かすか?」

「味も、あってないようなもんだから。炭酸だけ感じてる」

「そうそう。1回死んでるからねー。食べなくても寝なくてもヘーキなの」と、仕事デートを終えたアカツキが相づちを打ってくる。


「――ご機嫌だねー、シド」

「別に」

「ルカちゃんのこと心配なのは分かるけど、ちゃんと探してるー? 死神のアイデンティティー」

「探してる」

「ホントにぃ?」

「しつこい」


 優雅にアイスティーを飲むアカツキと違って、シドは苦虫を噛み潰したような顔をして、そっぽを向いた。


「誰かが拾ってなきゃいいんだけど。職務放棄って見なされる前になんとかしないと」


 女の子とちちくりあってるアカツキはどうなんだ、とも思うが。


「消滅もんだよ、シド」 


 さらっと恐ろしいことを忠告するアカツキに、聞き役に徹していたルカも口を挟んでしまう。


「それって――」


 あれからシドはよくそばにいてくれるようになった。昼間はもちろん、刑視局に戻ったあとも。

 鎌を探して、そのついでにコンビニに寄って。猫でなければ体型が気になるぐらい、いろんな物を買ってきてくれて。

 そんなシドが職務放棄と思われるのが悔しかった。大鎌を探すのにもっと時間を割いてほしい、と。


「よけいなお世話だし」


 荒々しくグラスを置いて、ルカを見下す。

 いつものぶっきらぼうな態度とはまるで違う、冷たく言い放った本気の拒絶だった。


「アンタには関係ないから」


 射抜くような視線に、身を裂かれそうになる。

 そのときだった。

 ルカの体がふわっと宙に浮く。


「〝鎌無くして、気遣いも無碍にしちゃうシドくんなんかきらーい〟」


 ルカにアテレコするアカツキは、そのまま彼女を腕に抱いて、その場を後にする。


「ってことだから、おまえは当分鎌探してな」


 シドの拒絶も、ぶつかる視線もなんのその。アカツキの目は笑っていなかった。




 雑踏にまぎれて、オフィス街を突き進む。

 シドは追いかけて来なかった。

 保護されてこれまで移動はシドが面倒を見てくれていたので、アカツキの抱っこにルカは慣れない。おしりと脇の下を支えてくれるのは一緒なのに、だ。


「ルカちゃんにはさー、俺のことどう見えてる?」

「……どうって」

「たいていの子は俺のことちやほやしてくれるのに、ルカちゃんってば、シドばーっかり。……いいんだよ、置いてきて」


 おちゃらけているかと思えば、真面目くさったり。


「ケーサツの真似事してるけど、チームではないからねー。あくまで個人なわーけ。だから、いくら俺たちが言ったところで、って感じ……なんだけど、泣かせちゃうのは論外」

「泣いては、ない……」

「でもショックだったでしょ」

「……うん」


 シドの和らいだ表情を知っているだけに。


「まぁ、俺には言われたくなかったんだろうねー。職務放棄って、どの口が言ってんだって。ね?」


 百戦錬磨は猫の表情まで読めるのか。


「そりゃ思うよ。俺でも思うもん。これでも一応――」

「アカツキ?」


 その続きは、彼を呼び止める声で聞けなかった。

 黒縁メガネに、ショートカットで黒のパンツスーツを着た、キャリアウーマンを絵に描いたようなクールビューティーな女性がオフィスビルから出てくる。その足取りは軽く、少しだけ口角が上がっていた。


「サクラさんの職場、ここだったんだ?」


 ゆるふわ、ギャル、コンサバ系と、いろんな女の子たちがいたが、こういう女性まで口説けるようだ。しかも、年上ときた。


「もう終わり? それなら、ごはん行きませんか?」


 ……猫を抱えて、なにを言っている。

 それすら気にならないぐらい、アカツキのお誘いはスムーズだ。

 彼は、2人の世界にするのが抜群に上手い。雑踏も雑音も、太陽の日差しさえ、アカツキの前では無に等しくなる。


「……」

「サクラさん?」


 嬉しそうなのに、どうして彼女は涙ぐむのだろう。そのままうつむくと、なにも言わず走り去ってしまった。

 まさかの展開にアカツキは一歩出遅れる。

 周囲を見渡し、彼女を追いかけた。ルカを抱えてなので、全力は出せない。


「おろ、してもっ、いいけ、どっ!!」


 上下に揺さぶられる。


「カラスにつっつかれてもいいならっ……」


 そう言って、ルカを抱き込むアカツキにほったらかす選択肢はないようで。スーツに革靴で全力疾走する彼に、いつもの余裕はなかった。


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