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それからしばらくは、アカツキに付いてまわる。が、彼は女の子を口説いてばかりで、死神らしいことなんて一切しなかった。
『前髪切った? 前より顔がよく見えていいね。すっごくかわいい』
『その服、俺のために着て来てくれたんだよね。ありがとう、嬉しいな』
『前とネイルが違う。こっちも好きだよ。よく見せて、うん。このまま手、繋いでいよっか』
ウインドウショッピングだったり、お茶したり。
オープンテラスのカフェでアカツキを遠目に追うルカは、連日の甘ったるいやりとりに胃もたれしていた。
「ゲロ甘なんだけど……」
「気のせい」
シドは大して気にならないようで、本日3杯目のすだちソーダに夢中だ。
「美味しい?」
「かすかに」と、口角だけ上げて。
「……かすか?」
「味も、あってないようなもんだから。炭酸だけ感じてる」
「そうそう。1回死んでるからねー。食べなくても寝なくてもヘーキなの」と、仕事を終えたアカツキが相づちを打ってくる。
「――ご機嫌だねー、シド」
「別に」
「ルカちゃんのこと心配なのは分かるけど、ちゃんと探してるー? 死神のアイデンティティー」
「探してる」
「ホントにぃ?」
「しつこい」
優雅にアイスティーを飲むアカツキと違って、シドは苦虫を噛み潰したような顔をして、そっぽを向いた。
「誰かが拾ってなきゃいいんだけど。職務放棄って見なされる前になんとかしないと」
女の子とちちくりあってるアカツキはどうなんだ、とも思うが。
「消滅もんだよ、シド」
さらっと恐ろしいことを忠告するアカツキに、聞き役に徹していたルカも口を挟んでしまう。
「それって――」
あれからシドはよくそばにいてくれるようになった。昼間はもちろん、刑視局に戻ったあとも。
鎌を探して、そのついでにコンビニに寄って。猫でなければ体型が気になるぐらい、いろんな物を買ってきてくれて。
そんなシドが職務放棄と思われるのが悔しかった。大鎌を探すのにもっと時間を割いてほしい、と。
「よけいなお世話だし」
荒々しくグラスを置いて、ルカを見下す。
いつものぶっきらぼうな態度とはまるで違う、冷たく言い放った本気の拒絶だった。
「アンタには関係ないから」
射抜くような視線に、身を裂かれそうになる。
そのときだった。
ルカの体がふわっと宙に浮く。
「〝鎌無くして、気遣いも無碍にしちゃうシドくんなんかきらーい〟」
ルカにアテレコするアカツキは、そのまま彼女を腕に抱いて、その場を後にする。
「ってことだから、おまえは当分鎌探してな」
シドの拒絶も、ぶつかる視線もなんのその。アカツキの目は笑っていなかった。
雑踏にまぎれて、オフィス街を突き進む。
シドは追いかけて来なかった。
保護されてこれまで移動はシドが面倒を見てくれていたので、アカツキの抱っこにルカは慣れない。おしりと脇の下を支えてくれるのは一緒なのに、だ。
「ルカちゃんにはさー、俺のことどう見えてる?」
「……どうって」
「たいていの子は俺のことちやほやしてくれるのに、ルカちゃんってば、シドばーっかり。……いいんだよ、置いてきて」
おちゃらけているかと思えば、真面目くさったり。
「ケーサツの真似事してるけど、チームではないからねー。あくまで個人なわーけ。だから、いくら俺たちが言ったところで、って感じ……なんだけど、泣かせちゃうのは論外」
「泣いては、ない……」
「でもショックだったでしょ」
「……うん」
シドの和らいだ表情を知っているだけに。
「まぁ、俺には言われたくなかったんだろうねー。職務放棄って、どの口が言ってんだって。ね?」
百戦錬磨は猫の表情まで読めるのか。
「そりゃ思うよ。俺でも思うもん。これでも一応――」
「アカツキ?」
その続きは、彼を呼び止める声で聞けなかった。
黒縁メガネに、ショートカットで黒のパンツスーツを着た、キャリアウーマンを絵に描いたようなクールビューティーな女性がオフィスビルから出てくる。その足取りは軽く、少しだけ口角が上がっていた。
「サクラさんの職場、ここだったんだ?」
ゆるふわ、ギャル、コンサバ系と、いろんな女の子たちがいたが、こういう女性まで口説けるようだ。しかも、年上ときた。
「もう終わり? それなら、ごはん行きませんか?」
……猫を抱えて、なにを言っている。
それすら気にならないぐらい、アカツキのお誘いはスムーズだ。
彼は、2人の世界にするのが抜群に上手い。雑踏も雑音も、太陽の日差しさえ、アカツキの前では無に等しくなる。
「……」
「サクラさん?」
嬉しそうなのに、どうして彼女は涙ぐむのだろう。そのままうつむくと、なにも言わず走り去ってしまった。
まさかの展開にアカツキは一歩出遅れる。
周囲を見渡し、彼女を追いかけた。ルカを抱えてなので、全力は出せない。
「おろ、してもっ、いいけ、どっ!!」
上下に揺さぶられる。
「カラスにつっつかれてもいいならっ……」
そう言って、ルカを抱き込むアカツキにほったらかす選択肢はないようで。スーツに革靴で全力疾走する彼に、いつもの余裕はなかった。




