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約束の審判  作者: 次野/うずらの


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5/15


 道中、何台もの救急車とすれ違う。

 繁華街へ近づけば近づくほど、深夜にも関わらず増えていく人通りに、「ちょっといいかな」と、シドを止める本物の警察官が現れた。

 黒パーカーに、目深にかぶったフード姿のシドは、職務質問してくださいの格好だ。


「学生証とか免許証とか、今持ってる?」

「ないけど」

「未成年?」

「20」

「名前は?」

「シド」

「シド? シシド?」

「シドウ」

「シドウ、なに?」

「ケイゴ」


 そういう決まりだろうが、質問が終わらない。

 聞かれたことを端的に答えているだけだろうが、踏み込まれた質問をされれば、ぼろが出そうだ。


「学生さん?」

「まぁ」と、案の定。


 それを打ち消すように、ルカが鳴く。


「にゃー!! うにゃう!!(私のごはん買いに行くで突き通しましょ!! 美容系の専門学生ってことで!!)」


「……美容師目指して、勉強してる」

「この子は?」

「アパートのゴミ収集所にいたの拾った。お腹すかせてるぽくって。だから、コンビニ」

「にゃん!(もう一押し!)」


 シドは、ルカのおでこを親指で撫でた。

 その手つきはとても優しく、


「……ついてくるから、かわいくなった」


 ふっと眉尻を下げて微笑むシドに、さっきまでの無愛想がどこかに吹っ飛んでしまう。

 仮にも死神で、さっきまで命のやりとりをしていたとは思えないぐらい、穏やかで。あぁ、こんな風に笑うんだと、ルカも警察官もシドに魅入った。


「そっか。引き留めて悪かったね」


 恐るべし、ギャップ効果。

 ただの猫好きな学生だと、事なきを得る。


「ちなみに、どこのコンビニ?」

水郷すいごうあたりの」


 現世とを行き来できる、あの鳥居がある神社の名前に警察官は苦笑いで「早めに帰るんだよ」と。

 多くを語らなかったのは、すぐ分かった。


「キャバ嬢に交際申し込んで逆上したらしいよ」

「ヤク中が運転する車が暴走したんじゃなくて?」


 中継車が通り過ぎていく。


「店のスタッフ、メッタ刺しだって」

「通り魔じゃないの?」

「枕しまくってたホストが刺されたんでしょ?」


 繁華街の中州に架かる橋という橋は警察車両で封鎖され、往来するのは救急車のみ。なにかしらの事故、事件なのは明白で、対岸沿いにはこれ見よがしにと野次馬が集まっていた。




 ――なのに、シドから発せられた言葉は「おかげで助かった、ありがとう」だった。


「職質。切り抜けられた」


 目の前の光景など、二の次……というか、どうでもよさそうだった。

 深入りしても、血生臭いだけ。

 シドのお礼を受け入れようとしたが、


「……なんで、お礼?」


 理由が分からない。


「そもそも、私が」


 いなかったら人目に付くこともなかったのに――それを言い終わる前に、シドはきっぱり。


「邪魔なら連れてかない」


 ルカを手放して人目から消えることは簡単だが、彼女はそうもいかない。病院に置いていくなんて、もってのほか。それを恩着せがましく伝えるつもりも、彼にはさらさなかった。

 水分補給と鎌の有無。

 二兎を追い、どちらも達成できたことに変わりはないのだから。


「さっさと帰ろう。昼過ぎまで寝てたくないでしょ」


 そう悪態をつくシドは、むきーっと膨れるルカの頭をぐりぐりと撫で回した。



    *



 説明の仕様がなかった。

 シドが少女の肩に触れた瞬間、なにが起きていたのか。

 彼は、少女の中に立っていた。くまのぬいぐるみや、絵本に出てくる風景だったり、少女の好きなもので溢れているつぎはぎの空間に。

 そこに小さなほころびを見つけた。

 雑なほころびだった。大きな積み木で隠してあるだけで、そこを引っ張り上げると、また別の空間に出た。

 肥大した臓器に囲まれ、少女が串刺しになっていた。背中から下腹部にかけて、大鎌の刃が食い込んで動けないでいる。

 しかし、シドのものではない。

 少女から鎌を抜き、再度確認するも、柄の感触など含めてしっくりこなかった。

 それならば、もうここに用はない。

 夢から覚めるように少女から離れていけば、元の病院に帰ってくる。


「息、吹き返しちゃったけどっ」

「違った。俺のじゃなかった」


 あのまま、動けない少女の首を絞めれば、仕事はしたことになる。

 横取りだとか、正攻法ではないとか、厳格なルールはない。けれど、シドはそれをしない。したくない。

 今の自分は大鎌を探していればいいのだから。



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