表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束の審判  作者: 次野/うずらの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/15

またある日の昼下がり


 ミシェルが調書の整理をかって出たかと思えば、入れ違いでふらっと現れたエルサから一方的な世間話をされる。


「あの世も様変わりしたよねぇ」

「火炙りとか、太古の文化に感じてしまうよ」

「キミはひたすら判子押しだし」


 局長代理のアスモだって、彼が嫌いだ。


 正確に言うと、エルサの上司が大っ嫌いなのだが、彼は今のところ動けないし、その彼の指示を仰いでいるとなると、もれなく嫌ってしまうのは当然なわけで。だからと言って、嫌いな素振りをしてしまうのは、アスモ的にナンセンスだった。

 エルサばりの薄っぺらい笑顔を張り付けて、相づちに徹する。彼の言う通り、ひたすら判子を押しながら。


「たまには誰かを絞め殺したいとか思わない?」

「今はとくに」

「綺麗な女性を魅了して」

「わざわざ出向くまでもないよ」

「また僻地に幽――」

「窮屈なのは御免被りたいな」

「最高の夢を視せてやるから死んでくれ、だなんて、無慈悲にもほどがあると思わない?」

「……なんの話だ?」


 最後だけ心当たりがないアスモの手が止まった。心なしかエルサに覇気がない。


「最近、連中が行った一斉摘発の件。下界では砂になる奇病だって言われて、大パニックなんだよ」


 ――真夏に降る雪は冷たくない。


「あの世に渡ってこないから、いいだろう? って良くはないよね」

「連中、それだけ焦っているんだろう。自己犠牲を植え付けて、人工的に自分たちの欠片を作ってるぐらいだからな」

「人が先に壊れること、予見できなかったのかなあ」

「かき集めたって、天界も、溶けたおまえたちの上司たちも、元には戻らないのにな」

「ほんとにそう。バカだよね」

「やけに素直だな」

「僕は元々素直だよ」


 いつもの調子が戻ってきたところで、エルサはアスモに愚痴をこぼしに来たのではないと、話を変えた。


「シドは元気かい?」


 瀬尾悠を看取って病院から出てきた彼は、アカツキとニクスに連行され、勾留の身となった。

 彼は言い訳などせず、故意に死期を延ばしていたと認めた。そんなことができるのかと、刑視局側はどう処分するか判断に困っているところに、エルサがやってきたのだ。


 ――人の心に押しつぶされるような玉だと思う?


 驚く彼に言えば、まぁそうですよね、とぽつり。


「彼、偉いよねえ。人の心、ぐっちゃぐちゃにできるのにさ。あぁ、だから昇格したんだっけ?」


 シドは、人として生まれ変わることを拒んだ。


「今なら、あのお嬢さんと運命の出会いができちゃうってのに。普通断るかな」

「こちらに肩入れしすぎていないか?」

「そう? 今の僕に〝想う心〟や〝翼〟も必要ないからね」


 エルサは、その選択を祝福しにやってきた。


 公平でありたいため?


 そんな使命感、はなから彼にはない。

 どうにもならないものに一縷いちるの望みにかけて、すべてを捧げる、天使みたいな想いなど不必要なのだ。


「それに、お嬢さんに言ってしまった手前、破るわけにもいかないだろう?」



『――悪いようにはしないさ』



 いつものカフェテラスに向かっていると、シドのふくらはぎにぽてっと体当たりする小さな女の子がいた。


「あう」

「ん?」

「ぱぱ、じゃない?」

「じゃないな……」


 シドは腰を落として、女の子と同じ目線になった。

 幼い彼女を知っているわけではないが、直感がそうだと思わせる。

 あどけなさしかない、かわいらしい彼女。


流架るか!」

「まま!」

「すみませんっ、この子ったら……」

「……いえ」


 母親に手を引かれながら、シドに手を振る。


「ばいばーい!」

「ん」

「ばいばぁぁぁい」


 振り返してくれないシドに、女の子は大きく手を振って催促する。


「流架っ、お兄さん困ってるでしょっ」

「ばいばああああい」


 半ば、泣き叫んでいた。

 あの積極性は、理想が反映されているのだろうか。

 永遠に手を振られそうなので、シドは照れつつもそれに大きく応えた。


「……ばいばいなっ」


 いつものカフェテラスからばっちり見えるところなので、先にいたアカツキには筒抜けだ。席に着くや、一連のことをツッコまれた。


「流架ちゃん、かわいかったねー」

「口説かないでくださいよ」

「さすがに3歳の子はね。せめて、あと15年……俺たちにはあっという間だろうけどさー」


 母親に手を引かれていた彼女は、アカツキから見ても綺麗だった。生まれ変わったシニガミたちには、ない輝き。


「やっぱ腐ってもあちら側()なんだねー」


 エルサの計らいで、瀬尾悠は新しい生を受けていた。


「流架ちゃん守るために死神になるなんて、シドも隅に置けないじゃんっ」

「貴方も同じようなものでしょう。1人ではなく大勢というところが、なんとも言えませんが」


 お日さまの下、いつものカフェテラスに3人が集う。


「ニクスさんの飲み物、可愛すぎません?」

「ふわふわにゃんこのカプチーノの、なにがいけませんか?」

「ぶふっ、そーいうの、好きだもんねー」

「うるせえ。ぶった斬ってやろうか」

「あっ、俺そろそろ次のお仕事(デート)だぁー」


 サラリーマン風。

 ホスト風。

 大学生風。


 様変わりした死神たちは、今日も誰かを守っている。

 女の子の自尊心であったり、シニガミの規律だったり。目に見えない、尊いものを。この世の秩序が失われる日まで、ずっと。


 ―――――――― alea jacta est.


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ