11
「ボクのことダウジング扱いするとか、ありえないんだけど……」
「まあまあ」
あの世側からはミシェルと閻魔さまがシドの痕跡をたどっていた。
「ケータイとやらがあればなあ」
「これ以上境界線あやふやにする気?」
そんなやりとりの後、いったん刑視局に戻ってきた一同と合流する。
現世の地図を広げ、ミシェルは○で囲った。
「……本当にここなんですか?」
服装も髪色も、口調も正して、ニクスはすっかり元通りだ。
「間違ってないと思う。そっくりなんでしょ、ここと」
アカツキものぞき込む。
「回生総合病院って――ミシェルちゃあん、冗談だよねぇ」
「ちゃん付けしないで」
「つれないなぁ。さーみーしーい」
「うるさい。途切れてたんだってば、そこでっ」
「うっそだぁ」
「私も共にしたが、あの建物はたしかに――」
「アスモさん、その前に言うことあるよね」
「なんだい?」
「シドのことだよっ。なに、鎌なくて仕事できるって」
「それを言ったところで、足取りが消えたことの説明はつかないが?」
「そうかもだけどっ」
「ミシェル、すみませんがもう1度……」
「ここなのっ。ニクス、しつこいっ」
「ここなわけねえだろ」
「――!?」
「ちょっと、ミシェルちゃんの前でそれダメだって!」
口々に話す、『ありえない』の一点張りに、ルカは首を傾げた。
〝回生総合病院〟
一方通行で現世に行け、一方通行だからと6階から飛び降りた、あの病院だ。シドの痕跡が途切れていても、なにもおかしくない。
「――納得いかないようだね、お嬢さん」
輪に入らなかったエルサにその理由を教えれば、「へぇ」と関心するような相づちが。
しかし、アカツキは再度否定してくる。
「いやいや、ニクスでも近づけない場所なんだって。そこから鳥居くぐらないで現世行けるって、マジでない」
「行ったんだってっ」
「ルカちゃああん、分かってよー。生死さまよってる人ばっかのところに、死神がほいほい行けたら困るでしょー?」
水掛け論になる前に、エルサが割って入った。
「ここは僕の出番だね。お嬢さん、道案内をお願いするよ」
――話がしたいだけ。
そう言っていたが、本心は分からない。
「なあに、悪いようにはしないさ」
エルサはルカの了解を得ないまま、彼女を抱えた。
その手つきはまだまだ荒い。
「待ってよ、エルサさん」
アカツキが立ちはだかる。が、連れていくことに反対しているわけではなく。「これを」と、ふわふわの毛布が入った、取っ手のないバスケットをエルサに渡した。
――ルカちゃんの持ち方、危なっかしいんで。これなら、やさーしく運べるでしょ?
おかげで快適な道中だった。が、連れてこなくてもよかったのでは? と思うくらい、あっという間に目的地に到着する。
「ここだね。ふむふむ、ふんふん」
独特な相づちをうちながら、エルサはガラス張りの大きな建物を見上げた。隣接する建物とは連絡通路でつながっており、このあたり一帯すべて病院ようだ。
どこから入ろうか迷っているのだろうか――なんて思わせない堂々とした足取りで、なんのためらいもなく正面玄関から入っていく。
「わわわわわっ!!」
シドと来たときよりもはっきりしている内装と人の気配に、ルカは声をひそめて慌てた。
その様を、エルサは笑う。
「大丈夫だよ、まだ狭間。彼は11階にいるようだけれど、さすがに階段はね」
相乗りさせてもらおうと思って、とエレベーターの前で立ち止まった。
「……エルサさんって監察官なのよね」
「そうとも」
「天の使い、ってやつ?」
「あぁ、そうとも。この世の摂理をねじ曲げてまで己の欠片を探している、無慈悲な天の使いさ」
一応、だけどね。と含みをもたせるが、ルカが聞きたいのはそんなことではなかった。
「翼でひとっ飛び! ……しないの?」
「できるなら、とっくにやっていると思わないかな?」
「勝手なイメージかもじゃない。翼があるって」
現に、ここの閻魔さまも死神もイメージとかけ離れている。
「……いやはや、本当に不思議なお嬢さんだ」
「褒めてる?」
「はっはっはっ。鋭いのか、そうでないのか。憎まれ口に、まっすぐ自分の意見を通してくるなんて」
どこか事務的だった口調が和らいだ。
「翼はね、熱波で灼け堕ちてしまったんだ」
そう言い切ったタイミングで、エレベーターの扉が開いた。




