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34. 愛とは②

不貞や妊娠・出産に関する胸糞描写が出てきます。

苦手な方はご注意ください。

 その問いかけに、義姉さんは一瞬固い表情になる。


 しかし、数回深呼吸し……ニコッと笑った。


「……うん、大丈夫」

「じゃあ、ちょっとだけ失礼して……」


 エリオに頼んでセリナを呼んでもらい、しばらく部屋に誰も近づけないよう言いつける。エリオは私のそばを長時間離れるようなお願いは、嫌がる……というか、聞かないのよね。黒犬の習性なのかしら。

「セリナ自身にも聞こえないようにしてもらえると、助かるのだけれど」

「かしこまりました!じゃあ、廊下の階段側の、ちょっと離れたところにいますね!」

「ありがと」


 セリナが出て行った後、軽く頭を掻く。


「どこから話そうかな……義姉さん、祖母の話の方は聞いてます?」

 義姉さんは頰に手を当てて、首を傾げた。

「有事の時は真っ先に見捨てて良いとしか……」

 うん、兄さん、本当になにも話してないわね。あと言い方……別に良いけど。


 ため息を吐く。

「じゃあ先に祖母の話をすると……端的に言ってヤバい人です」


 祖母は、とある侯爵家の令嬢だ。歴史が古く、人脈も広く、でも、誰も現状を変える力のない、没落しかけの侯爵家。

 そんな家に生まれた祖母は、勉強も努力も我慢も大嫌いだった。差別意識が強く、平民や下級貴族の女性は「家畜同然」と見下して、いびり倒す。学問が好きな女性、働く女性は論外。

 好きなのは自分を飾り立てることで、そのためなら大金を羽のように軽く吹き飛ばす。


 結果、侯爵家には年中祖母の言動への抗議文・慰謝料請求、そして祖母のドレスと宝飾品の請求書が届いた。ものすごい勢いで減っていく信用と貯蓄。


「元々緩やかに進行していた侯爵家の没落は、お祖母様一人のせいで二代分ほど早まりました」

「ひぇ」


 なんとか一族の没落を食い止めたい。ついでに害にしかならない娘を追い出したい。

 そんな曽祖父たちが目をつけたのが、伯爵位を得たばかりの祖父だった。


「祖父は、貴族としての体裁を整えるためのパトロンを探していました。……が、祖父の人望はゼロどころかマイナスに振り切っているので、まあ見つからない」

「マ、マイナス……」

 上手くいけば自分のおかげ、失敗すれば誰かのせい。その体勢を上にも下にも崩さないんだから、いくら優秀でもそりゃそうなる。

「曽祖父たちは祖父に政略結婚を持ちかけ、祖母を嫁がせました」

 手垢のついていない優秀な人材を一族に取り込める、ついでに厄介払いもできる。

 まさに一石二鳥。


「……そう上手くいくとは思えないわ」

「ええ。その通り」

 なにせ、勉強も努力も嫌いで、自分が下と判断した相手を虐げる祖母だ。案の定、口を開けば取引相手と揉め、使用人をいびって辞めさせ、女主人の仕事は侍女長……数年前から私に投げっぱなし。持参金どころか邸の維持費や人件費、孫娘に当てられた養育費に至るまで、自分のドレス代と宝石代に吹っ飛ばす。

「大惨事」

「あと、平民上がりのお祖父様に嫁がされたことも気に食わなかったようです。父を産んだ後は、閨を完全に拒否したとか」

 「高貴な私の血を引く嫡男を産んであげたのだから十分でしょう?」と。


「だから、父は一人っ子なんです。まあ……生まれたのが女児でも、なんやかんやお祖母様は拒否したでしょうけど」

 祖母が生まれた時からずっと祖母に仕えていた侍女がそう言っていたのだから、間違いない。


 結局、祖父はそれ以上出世しなかったし、祖母の生家も未だ没落の真っ最中。

 もう、どう言い繕っても大失敗である。


 義姉さんが眉尻を下げた。

「なんと言うか……だいぶ強烈な方ね? 政略とはいえ、ちょっとお気の毒……」

「いやあ、あの人も大概なんで」

 というか、ここからが本番だったりする。



「父が五歳になった頃、祖父は父の出来の悪さにガッカリしたらしくて」

「はっ?」

「でもお祖母様には閨拒否されたので、領地の女性に片っ端から手を出して、父の代わりを産ませようとしたんです」

「はあああああ!?」



 義姉さんの絶叫が響き渡った。


「色々と意味不明なんだけど!?」

「私だって意味不明ですけど、事実なので……」


 慌てて私の膝に飛び乗ってきて、周囲を警戒するエリオの背中をなでる。

「百歩譲ってスペアは必要として……。契約の上妾に囲うとかじゃなく、ただ手を出しただけ!?」

「やることだけやって終わりです。お手当なし、手切金なし、そのせいで家族関係が悪化した・別れたとなっても、何のフォローもなし」

「はああああ!?」

 脅して、あるいはたぶらかして、子どもを産ませたら、それで終わり。

 祖父の狙いは若い経産婦なので、領地では、小さな子どものいる新婚家庭が次々崩壊していった。

「で、呪術鑑定で自分の子だと分かったら、五年間、貴族レベルの教育を受けさせるそうです」

 そこで見込みありなら引き取って、本格的に教育するつもりだったとか。結局、庶子たちは一人残らず伯爵家の継承権永久放棄の書類にだけサインさせられて、放り出されたらしいけど。


 結果、そこそこ堅実な領地経営をしている祖父は、領民から蛇蝎の如く嫌われている。


「結局、お父様をお母様と結婚させるまでそんなことしてたので、百人きょうだいくらいにはなってると思います。……一番上はお父様世代、一番下は私や兄さんと同世代くらい?」

「……五歳じゃ、才能も何もないでしょうに」

 思いっきりドン引きする義姉さん。その言葉に、苦笑しつつ首を横に振った。


「あの人が欲しかったのは、『天才』なんですよ」


 母親が平民の庶子。腹違いの兄は侯爵令嬢が産んだ嫡出。

 そんな逆境を、軽く覆せるような「天才」。


 例えるなら、ユラン様やシュゼイン公爵、ミーネ様メア様のような、一目で分かる、揺るぎない、強烈な才覚。


 それでもやっぱり、人の才能なんか、そう簡単に測れるものじゃないと思うけど。

 思わずため息が出た。



 大体、教育って言ったって、庶子を一箇所に集めて、その前で祖父がバーッと喋り倒すだけだったらしいし。


 〇歳から五歳の子どもの集団なのよ?

 多分、誰の知識にもなってないわよ。



お読みいただき、ありがとうございました。

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