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33. 愛とは①


 好き。好き。


 ユラン様が、私のことを。



 異性として、好き。




「うぅぁ〜……」


 自室のベッドの上、シーツに包まってため息を吐く。陛下との面談の後からなんとなく落ち着かないエリオが、窓際でぴ、と耳を立てた。



 昨日、帰宅後すぐに兄さんを締め上……問い詰めた。

 結果、兄さんがユラン様に助言し、愛執の呪いについて隠していたということが判明。


 「兄さんなんかもう知らない!!」と我ながら典型的すぎるセリフを吐いて部屋に引きこもり、今に至る。



 枕を抱きしめながら、苦々しく思う。

(兄さんがあんなに策略じゃないって訴えてたのは、このせいか……)

 まんまとしてやられた。ジェフに頼んで、しばらく夕食は兄さんの嫌いなメニューにしてやる。


『きゃわ?』

 エリオがぴょん、とベッドに飛び乗り、私の顔を覗き込む。相変わらずちょっとだけ舌を出したままのエリオ。思わず笑みが溢れ、抱き寄せる。

「……こういうのって、誰に相談したら良いんだろう……」

 ユラン様との関係性や今までの感じからしても、兄さんはユラン様側だ。意見もそちら寄りになる可能性が高い。

 我が悪友どもは色恋沙汰への関心ゼロだし。すると、エリオは何か考え込むように、鼻のあたりに皺を寄せた。

『きゅ……きゃ……きゅわ……きゃわあ……?』

「ごめん!そんなこと聞かれても困るよね!!」

 そういえば、言葉自体は通じているんだもんね!?ごめんね!!


 エリオにぺしょぺしょ顔を舐められていると、扉の方からノック音がした。


「ヘレンちゃん、今いい?」


 シーツを被ったまま扉を開けると、ほっとした顔の義姉さんがいた。

「良かった、出てきてくれて。昨日からずっとお部屋に籠りっきりでしょう? もし良かったらテラスでお茶でも……えっ、どうしたの!?」

「義姉さあん」



「……ええと」


 ベッドの端に腰掛けた義姉さんは、ぽり、と頰を掻いた。


「呪いの方はまさかと思っていたけど……異性として好かれている自覚すらなかったの?」

 コクコクと頷くと、義姉さんは苦笑いした。

「結構分かりやすかったと思うけど……」

「嘘だ!?」

「本当よ?」

 そう言うと、昨日からちょっと遠ざけているエリオのぬいぐるみの手で、私を指差した。

「だってあの方、私やイワンには氷彫刻みたいなのに、ヘレンちゃんが来ると、ものすごいご機嫌になるじゃない?」

「そうだったんですか!?」

「そうよ? 私に向ける目なんか『無』よ、『無』」

 ぜ、全然気が付かなかった……。


「ということは義姉さん、愛執の呪いも、知って……?」

「そうね。うちの実家、一応旧家だから」

 愛執の呪いは、あまり知名度があるものではない。下手なことを言ってガラク家に睨まれては堪らないので、知っている家の間でも禁句扱いされているそうだ。

 しかし、歴史の古い貴族の間では、「ガラクの結婚に口を出すべからず」というのが、暗黙の了解だとか。


 うっわ、関係者の中で知らないの、私だけだった……恥ずかし………。


 枕に顔を埋めていると、義姉さんが不思議そうに尋ねた。

「というか、ヘレンちゃん、一時期呪術についても研究して論文発表してなかった? 調べた中に愛執の呪い、なかったの?」

 枕から目だけ出す。

「……愛とか恋とか、その関係のものは、全面的に研究テーマから外してて、ですね……」

「あー……」

 義姉さんの気の毒なものを見る目が痛い。



 昨日、帰り道に荷造り中のルクヴルール先生のお宅に押しかけ、愛執の呪いに関する資料を片っ端から読み漁った。


 独断と偏見で雑にまとめると、愛執の呪いは「絶対に愛を間違えない呪い」だった。


 好きだから付き合った・結婚したけど、やっぱり失敗だった、とか。マンネリ化して別れたけど、やっぱり元の相手が恋しくなるとか。そういう恋愛関係で腐るほどよく聞くありがちな失敗は、愛執の呪い持ちに限り、絶対に起きない。

 「唯一」は、自分にとって最も相性の良い相手だから、後から合わないことに気がつくなどということはあり得ない。

 愛情と執着心のほぼ全てを「唯一」に注ぎ込むから、目移りする余地もなければ、「唯一」以上に大切な存在も存在し得ない。


 たった一人を絶対に確実に間違いなく愛し抜く。



 枕を抱く力を強めた。

「つまり、ユラン様は最初から私をそういう目で見ていたわけで」

「うんうん」

「私、本当に全ッ然気が付かなくて。ユラン様のことは、気の合うお友達くらいに思ってて。女性として好かれてるって知って、『嫌!』ってなって」

「うんうん」

「でも、もしそうなら、今までの私の態度って、ド級に失礼で不誠実で最低の極みでしてぇ〜!!」

 がばっとベッドに突っ伏す。義姉さんはよしよしと頭をなでてくれた。

「しっかり考えて向き合おうとしているヘレンちゃんは偉いわ」

「義姉さん〜!!」

 そう、この呪いの問題点は、「唯一」側には一切作用せず、配慮もされないことだった。

 義姉さんは相変わらず労わる口調のまま問いかけた。


「ヘレンちゃん、昔からその話題、苦手だものね。理由とかあるの?」


 えっ。


 あっさりとした義姉さんの質問に、一瞬固まる。

「……あの、義姉さん……兄さんから何も聞いてません……?」

「何が?」

 きょとんとした顔で首を傾げる。


 ウワアアアア、聞いてない!!この反応は絶対何も聞いてないぃぃ!!


 背中にダラダラと汗をかく。

「…… 兄さんと結婚する時、実家のお父様とお母様、何も言ってませんでした……!?」

「何も。……あ、でも、お父様は何か気不味そうにしていた気がするわ」

「あー……」

 やっちまった。挨拶しかしたことのないお義父様、やっちまいましたね。


 隠し切れることでもないでしょうに。何で結婚前にきちんと言っておかないのかしら?


 もそ、とシーツを被ったまま座り直す。


「ちょっと長く……あと気分悪くなりますよ。良いですか?」

お読みいただき、ありがとうございました。

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