第125話 恋敵
処置を終え、養護教諭の部屋を出たところで、その女の子…加賀百合子は、紗奈にペコッと頭を下げる。
「助けてくれてありがとう。北川さん、凄いね。物知りで……」
「ううん、いいの。実はね、小さい頃私も同じ目に遭った事があって……。お父さんが同じ事をしてくれたんだ。その真似っ子なの。役に立てて良かった!」
紗奈はニッコリと笑ってそう言った。百合子は少しだけ言いにくそうに眉を下げ、しかし真っ直ぐに紗奈を見つめて改めて言う。
「本当にありがとう。今までごめんね。北川さんっていつも山寺くんに対して冷たくて、少し怖い人だなって思ってたの……。それで話しかけづらくて……」
「そっか……」
桐斗の名前を聞くと、紗奈は少し落ち込んだ。苦手意識。と言うより、彼のことは正直、嫌いな方だった。悠を傷つける存在だからだ。
「桐斗くんってかっこいいし、北川さんが羨ましいなあって思ってんだ……」
その表情は恋をしている女の子の表情で、紗奈はキュッと胸を痛めた。
彼女が桐斗を好きなのは、見た目が良いからなのか…それとも、本当はいい人だったりするのだろうか。そう考えてみても、紗奈にはよく分からない。
「ご、ごめんね。私、山寺くんのこと少し苦手で」
実は嫌いだ。とは言えなくて、紗奈は言葉を濁す。百合子は大きく目を見開くと、首を傾げた。
「どうして?」
「その、この前教室で話してたの、聞いてたかもしれないけど…恋人がいて」
百合子とも同じクラスだから、七夕祭りでの話は恐らく、彼女も聞いていただろう。そう思って話したが、正解だった。
「噂じゃなくて、本当の事なんだ」
「うん……。私はその人が好きだけど、事情があってみんなには内緒にしてるの。山寺くんってやんわりと断っても引いてくれないから、どうしても強い口調になっちゃったり…して」
やっぱり紗奈の方が悪者なのだろうか。そう思ってチラっと百合子に視線を送ってみると、彼女はどこか困惑しているような表情をしていた。
「ごめんね。百合子ちゃんは、山寺くんが好きなんだよね?」
「う、うん……」
百合子にそう頷かれて、紗奈はギュッと胸の前で両手を握る。紗奈だって、悠が悪く言われたら嫌だ。悲しい気持ちになって、言葉を続けた。
「それなら百合子ちゃん、嫌な気持ちになったよね? 私も嫌だもん。好きな人が悪く言われるのって」
「あっでも……。別に山寺くんは私の彼氏って訳じゃないし。北川さんにも事情があるんだもん。だから、山寺くんの事関係なくて、北川さんって優しいし、可愛いし、友達になりたいなって……」
百合子はモジモジしながらも、そう言ってくれる。紗奈は驚いて、目を丸くしてしまった。
「い、いいの? 百合子ちゃんにとっては恋敵かもしれないんだよ?」
「ライバルと友達になっちゃいけないわけじゃないよね……?あ、それとも普通に私が嫌!?」
百合子はアワアワと慌てて、弁明しようと手を振っている。しかし、紗奈はそんな事を考えない。嫌なわけがなかった。寧ろ嬉しくて泣いてしまいそうだ。
「ううん! 嬉しい! ありがとう。百合子ちゃん」
「良かった……。じゃあ、北川さん! 本当にありがとね! またね!」
百合子の友達は外でずっと待っている。百合子は大きく手を振ると、ホテルを出ていった。
紗奈は、千恵美達以外での初めての友達にドキドキと胸を高鳴らせ、友達と合流していく百合子を見守るのだった。




