第121話 水着選び
水着売り場にやってくると、早速女子達は思い思いに水着を選ぶ。
その間、春馬と悠は当然、待たされている。しかも、試着室の前でだ。
「最初は、菊川くんと白鳥くんも、みんな一緒に来ればいいと思ってたんだよね」
悠がポツリと呟くようにそう言った。
「ん?」
「そりゃ、二人は来ないよね。こういうのって女子だけでやるものなんじゃない?」
「俺は美桜達のせいで慣れた。諦めて」
諦めが必要なのか。と悠ははしゃぐ女子達を見て、無駄に身構えてしまった。
「う、うん。苦労してるんだね」
「まあね」
春馬は本当に慣れているようで、周りの客も女子ばかりだと言うのに、戸惑う様子もなく壁際に立っている。悠もそれに倣って、春馬の近くに待機した。
女性客からの視線に冷や汗をかいていると、春馬が自然と悠を隠すように立ってくれたので、細やかな気遣いに感謝する。
(かっこいいな。こういう人、憧れる……)
と、悠は感謝と同時にそう思った。
。。。
女子達が水着を持って試着室に入ってから数分。一番最初に顔を覗かせたのは美桜だった。
「春馬。これどう?」
「いいんじゃない? 美桜らしくて」
「本当? でもこっちも動きやすそうだし……」
もうひとつ持っていた水着と今の水着を見比べて、美桜はどっちがいいか。と春馬に問う。
「せっかくなんだから可愛い方にしたら?」
「うーん……。もうちょっと悩むわ。次の水着着るから待って」
春馬の意見も聞いてはいるが、結局は自分で決めたくて、悩むようだった。女子の買い物はそんなものだよな。と、春馬は小さなため息をつく。
「早くしろよ。あと、華がないのは無し」
双子だけあって、春馬も美桜も遠慮なしだ。ズバズバと意見を交わし合って、美桜はまた試着室の中へと引っ込んで行った。
「悠くん、悠くん」
次に顔を出したのは紗奈だ。紗奈は顔だけを出して、悠を呼んでいる。チラッと春馬を見ると、「どうぞ」と紗奈の入っている試着室から一歩距離を取った。
(デキる男だ。やっぱりかっこいいなあ……)
と改めて思いつつ、悠は紗奈の元に辿り着くと、紗奈に言われるがまま試着室の中に顔を入れる。
「変じゃない……?」
紗奈が身につけていた水着はセーラー水着で、しかもビキニだった。
悠は思わず「ごほっ」と噎せてしまう。
「え? へ、変……?」
噎せる悠を見て、紗奈は不安げに自分の身体をクルクルと見回す。似合っていないのだろうか。そう思ったが、悠が言いたいのはそういうことでは無い。
「そうじゃなくて。ちょっと……その、過激すぎやしませんかね?」
視線が紗奈のおへそ辺りに向く。罪悪感を感じるが、男の性なので許して欲しいところだ。セーラーのリボンが胸の谷間を隠していて、見えそうで見えないところが異様にドキドキする。
「もうちょっと露出が少ないのは無いの?」
「このフリルのは? これも分かれてるけど、この水着よりは布が多いよ」
紗奈がもうひとつ持ち込んでいた水着は、フリルの分、確かにセーラービキニよりも隠れる部分は多そうだ。悠は一旦引っ込んで、紗奈の着替えを待つ。
その間にも美桜がどんどん水着を試着して、春馬のジャッジで選択肢を絞っていく。
「決めた!」
美桜の水着は決まったので、持ってきた水着を返却しに行った。
「ねえ、チエ。いつまで隠れてんの」
「ひっ……」
いつもは元気な千恵美が中々出てこないから、悠も気になっていたところだ。春馬が試着室の向こうに声をかけると、カーテン越しに千恵美の怯えるような声が聞こえてきた。
「もうとっくに着てるでしょ? 顔見せて」
春馬はそう言って、千恵美の入っている試着室に近寄った。何となくだが、見ては行けないような甘い雰囲気を、悠は感じ取る。菖蒲はいつも自分達を見てこんな気分なのだろうか。と、思わず苦笑した。
「悠くん。着てみたよ?」
「う、うん」
ちょうどよく避難場所が出来たので、悠はまた紗奈の試着室に顔を入れる。
試着室に顔を入れた悠は、改めて紗奈の水着姿を見つめた。と言っても、やはりビキニタイプで刺激が強く、パッと一通り目を通しただけである。
「さっきよりは……。でも、やっぱりビキニタイプがいいの?」
「え? そんな事は無いけど……。可愛い水着って分かれてるのが多いから」
ワンピースタイプにも可愛い水着はあるが、紗奈のお眼鏡にかなったのはビキニタイプのもののようだ。
「だって、それ他の男にも見られるんでしょ?」
「水着だから……まあ……」
みなまでは言わないが、悠はやはり妬いてしまう。
「そしたら、悠くんが選んで持ってきて? 今度はそれを試着するわ」
「う、うん……。紗奈」
「ん?」
悠は少しだけ眉を下げて、キョトンと首を傾げる紗奈を見つめる。
「わがまま言ってごめん」
「ううん。ビキニの水着は、今度悠くんの前でだけ着る事にするね?」
「ふふっ」と可愛らしい笑みを浮かべて、紗奈が言う。悠はつい、その状況を思い浮かべてしまった。
「!」
悠はバッと試着室から顔を出して、赤い顔で水着を選びに向かって行った。その途中、チラッと覗いた春馬達も仲良くしているようで、更に胸をドキドキさせながら、悠は紗奈の事を考える。




