第120話 色々な好き
翌日。ショッピングモールに行くために、紗奈と菖蒲、それから悠は駅で待ちあわせる。あおいも誘ったのだが、残念ながら交流会までに夏期講習の内容を先取りしなければならないそうで、断られてしまった。
「おはよう!」
「はよー!」
「おはよ。紗奈、今日は三つ編みなんだ。可愛いね」
今日の紗奈はお下げの三つ編み。義人に貰ったカチューシャも身につけており、二重に可愛い。と悠は思った。服装も夏らしく、涼やかな水色のノースリーブワンピースで、花柄のリボンがフロントに添えられている。
「ありがとう! 悠くん、今日はワックスじゃなくてヘアピンなの?」
いつも外で会う時は、ワックスを付けて前髪を上げている悠だが、今日はピン留めを挿して目元を見せている髪型だった。下校の時と同じスタイルだ。
「俺も新しい服を見たいから……。ワックスだと着替えの時にちょっと困る」
そう言って頬をかく。中学時代、親に付けられてショッピングに来た時も、実は少し困った。だから今回は学習して、ピン留めにしたのだ。
「確かにそうか。俺も菊川と色々見とこうかな」
「うん。ご飯は一緒に食べようね」
「おう」
女子達の服や水着の買い物には、悠と春馬が同行する。そして、寛人と菖蒲はご飯時に合流して、その後に小物なんかを全員で買いに行く予定だ。
「みんなでご飯、楽しみだね!」
「うん」
渋谷駅に着いたら、千恵美達は既に集合していて、改札前でこちらに向かって手を振ってくれた。
「おはよう! 紗奈ちゃん! 今日も可愛いなあ!」
相変わらずのハグだ。近くにいた悠が少しだけ驚いた顔をするが、いい加減慣れた。くすくすと二人を眺めて笑っている。
「久しぶりすぎて見慣れない」
「イケメンすぎるのも毒よねえ……」
藤瀬姉弟はジーッと悠を見つめる。悠の容姿に慣れる努力だ。居心地は悪いが仕方がなかった。
「菊川は、こいつ見ても普通の顔してるよな」
「小澤は小澤だから」
寛人はそう言いつつも、悠が顔全体を見せているのは珍しいので、見つめてしまっている。悠の表情が少し歪んでくると、寛人はすぐにやめてくれるので、本当に雰囲気に敏感なのだな。と改めて思う。
「それで、どこのビルに入るの? この辺、買い物出来るところ結構多いよな?」
「普通に駅ビルからせめてこうかなーって思ってたよ」
やっと紗奈を離してくれた千恵美がそう答えた。
「他に行きたい所があれば別だけど」
「私はこの辺りには詳しくないから。任せるよ」
紗奈は地元でもある横浜で買い物を済ませることが多いので、東京に住んでいる三人と、各地のお店に詳しい悠におまかせする。
「じゃあ行こうか」
「俺らも行こうぜ」
「待ち合わせはこのお店の前ね!」
美桜がスマホでお店の名前を見せた。菖蒲がそれを覚えたので、彼はそのまま寛人を連れて去っていく。
。。。
最初は駅ビルを見て回ろう。という話だったので、寛人と菖蒲と別れた紗奈達は、すぐ近くのエスカレーターから直接中に入り、いくつかの専門店を見回した。
「まずは目的の水着からだね!」
「そうね。こっちだよ」
「うん!」
ちょこちょこと女子達の後ろをついて行く紗奈がヒヨコみたいで、悠は吹き出しそうになるのを必死に堪えた。それを横目で春馬に見られていたので、今度は言い訳の方に必死になる。
「別に、自分の恋人は可愛いもんね」
と微笑まれてしまい、悠は更に照れくさくなってしまった。
「ま、まあ……。藤瀬くんは彼女いるの?」
「いたら今日、女子側にはいないけど」
「それもそうか」
春馬の視線が千恵美に向いている気がしたので、女子達に聞こえない声でこっそりと聞いてみた。
「牧本さんが好きなの……?」
「好きだよ。美桜と同じくらい」
「え?」
春馬の答えは、どこか曖昧に感じる。恋というより、家族愛のような…友情のような……。そんな「好き」が込められていた。
「チエと同じ好きでは無いのかもしれないけど、チエの事が大切な事は絶対だ」
春馬はそう言うと、優しい表情で千恵美を見つめる笑みを深くする。大人っぽい余裕を感じて、悠の方が少しだけ照れてしまった。
「好かれてる前提なんだ」
「見てればわかる。幼なじみだから」
「左様ですか……」
淡々と答える様は、少しだけあおいに似ていた。あおいの想いは完全に恋なので、そこは春馬とは違う。しかし、余裕そうなところというか、顔に出にくいところがそっくりだ。と悠は思った。
「逆に俺は恋ってわからないし。どうなの? 付き合うってどんな感じ?」
そう聞かれると、少し返答に困る。感情的な部分を言葉にするのは難しいし、気恥しいのだ。
「なんと言うか、恋人同士じゃなきゃ知れないような事も沢山知れたし、そうするとまた好きになっていくって言うか……。それに、楽しいよ。俺のせいで大変な思いもしてるけど、紗奈と過ごしていると、少しでも変われたかなって勇気が出たり、そばに居てくれるだけで穏やかな気持ちになったり、ただ単に可愛らしい仕草にドキドキさせられたり。毎日楽しい」
悠がふわっと愛おしそうに笑うので、春馬は正直羨ましいと思ってしまった。
そして、春馬も楽しそうに笑う千恵美を見て、優しく微笑んだ。




