第119話 夏がはじまる
あの日からまた一、二週間が経った。今日は終業式の日かつ、待ちに待ったテスト返却の日である。
結果は解答用紙と一緒に封筒で渡されるので、紗奈達は全員で集まって恐る恐る封筒を開封した。
「あ……赤点が無い!」
「う、うちも無い!」
「俺もー」
全員が赤点を回避出来た。それだけでみんなは嬉しくて、答案用紙をバッと掲げで大喜びをする。
「よっしゃあっ! 夏休みだっ!」
「みんなで遊べるっ!!」
「やったね」
そして、勉強を見てくれた悠や美桜達に感謝した。特に、悠のスパルタが無かったらだらけていただろうから助かった。と菖蒲は言う。
「だろうね。すぐに本棚に手を伸ばすんだから」
休みの日には男子だけで悠の家に泊まりにも行った。強化合宿のようなものだ。そのおかげで、なんとか赤点を回避出来たのだ。
「家広くでビビった……」
「客間で枕投げしても怒られないとか」
「両親の部屋まで遠いからね。親の職業柄、うちは基本防音だし」
「そういえば、お母さんにしか会ってないけど……お父さん、お仕事忙しかったの?」
「まあね」
本当は芸能人であることもあって、隠れていただけだ。それは言わず、悠は軽く苦笑して誤魔化した。
とにかく、これで全員が気持ちよく夏休みを迎えられるのだ。それは他の生徒達も同じで、夏休みの計画を話しながら、学校全体が盛り上がっている。
「な、明日ショッピングモールに行かない? 渋谷の大きいところ」
「行こうぜ。水着とか買いたいし!」
「交流会で行くホテル、屋上にプールがあるんだろ? 凄いよなあ」
プールの話を聞いて、悠が少し緊張してしまう。
プールに入る気は無いが、悠は念の為に水着だけは用意しておくつもりだ。海から遠い砂浜でなら遊べなくもないだろうし、気を使った寛人が水鉄砲で遊ぼう。なんて提案してくれたので、プールに入らなくても楽しみだった。
「あ、いいね。行こいこ!」
「春馬は私達にも付き合ってくれるよね?」
と美桜が言えば、春馬は軽くため息をついてから了承してくれる。
「荷物持ちか。まあ、いいけど。当然小澤も来るんだよな?」
彼氏だし。と視線が言っているので、悠は当然頷いた。
。。。
終業式の後、紗奈は菖蒲達と帰ろうと振り返ったところ、桐斗に阻まれてしまう。
「夏休みにうちの別荘に来ない? いい所だよ」
「ごめんなさい」
「交流会なんかよりもよっぽど有意義だと思うけど。断っていいのかい? もったいないよ?」
毎度ながら、何故こんなにも自信たっぷりに言えるのだろうか。いつも断っているのだから、いい加減、脈が無いことに気がついて欲しいものだった。
「友達と一緒だもの。私は交流会、楽しみよ。それに、夏休みには毎年、家族で旅行に行くから」
そう言ってペコッと頭を下げると、急いで菖蒲の影に隠れる。
「帰るか」
菖蒲は何も言わずにさっと紗奈を隠してくれるので、紗奈はほっと息をついた。
「ありがとう。菖蒲くん」
「いいよ。紗奈になんかあったら彼氏と親父さんに殺されるし」
二人の顔を思い浮かべて、菖蒲は少しだけ苦い顔をする。
「そこまで大袈裟じゃないと思うけど……。本当に安心した。優しい幼なじみがいてくれて良かったよ!」
「おうよ」
菖蒲はニカッと歯を見せて笑う。菖蒲にとっての紗奈は、本当に妹のような存在なのだ。恋愛感情は全くないが、大切な人である事に変わりはない。悠とはベクトルが違うが、紗奈の事は絶対に守るつもりである。




