第115話 七夕祭り当日
七夕祭り当日。紗奈はあおいと事前に買った服を着て、鏡の前でくるっとターン。後ろまでしっかりと確認をする。
後ろは大丈夫そうだったので、今度は前だ。しっかりと悠から貰ったネックレスを身につけ、悠から貰ったバッグを肩にかける。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい。気をつけていくのよ」
「はーい!」
菖蒲と一緒に駅まで歩いて、二人とも合流した。
「あれ? 立花さんと紗奈、今日お揃いなんだ」
服は二人ともオフショルダー。紗奈はラベンダー色で、あおいは淡い水色である。袖口はボリュームがあって可愛らしい。
「うん! 二人でお買い物したの!」
「そっか。似合ってるよ。紗奈は……それ付けてくれたんだね」
デコルテ部分に光るクマモチーフのネックレスを見て、悠は嬉しそうに微笑んだ。
出かける時はいつもの事だが、今日は悠の顔が見えているので、破壊力が高い。
周りがざわっと悠の事を噂し始めたので、居心地が悪くなった。
「墓穴だな」
「早くホーム降りちゃおっか」
「う、うん」
「えっと、草野の文化広場だよな。従姉妹との待ち合わせは駅だっけ?」
「うん。草野の駅」
電車に乗り込むと、流石に同じ祭り目的の人が多いらしく、かなり混んでいて窮屈だった。
「浴衣の人、崩れちゃうよね……」
「そうね。仕方がないとはいえ、可哀想よね」
「せっかく可愛くしたのにね」
少し遠くに見える位置に、ぎゅうぎゅうで苦しそうにしている浴衣姿の女性が二人いた。それを見て話しているらしい。
「女子は大変だよな……。お洒落したり、暑いとメイクとかも気になるんだろ?」
と菖蒲が言うと、あおいがこくんと頷いて、苦笑する。
「私達、そんなにメイクしないけどね」
「紗奈に至っては全くしねえよな? たまには見てみたいとか思わねえ? 小澤」
話を振られて、悠は紗奈の顔をジッと見る。
想像したら、どこにも出したくないと思う程可愛かった。元々可愛い紗奈がメイクなんてしたらどう化けるか。未知数だ。
「紗奈ちゃんは可愛いから、必要になるまではしなくてもいいと思うなあ。小澤くん的にも、ライバルが増えるのは嫌でしょう?」
それを見透かしたように「ふふっ」と笑ったあおい。悠もそれに乗っかって、困り眉で紗奈を見つめた。
「そりゃあね。紗奈はそのままでいいよ。これ以上可愛くならないで」
「もう。二人とも……!」
紗奈は照れて電車の隅に隠れてしまう。と言っても、ただ悠の影に隠れているだけなのだが。
「でも、今度見てみたいな」
「!……悠くんにだけだよ?」
コソコソと二人で内緒話をし、小さく笑い合う。
二人が話している内容は分からないが、雰囲気が甘いので、菖蒲に苦い顔をされてしまうのだった。
。。。
草野駅に着いたので、悠が従姉妹と連絡を取って無事に合流出来た。
悠の従姉妹は、思っていたよりも見た目が可愛らしい。服装は男子と言った感じなので、男装しているようにも見えてしまうのだが、それでも顔は整っていると感じる。
「瀬奈、またそんな格好してるのか」
「いいじゃん別にー! 悠にぃ、会って早々お小言とかおじさんくさいよ!」
なんて言われるので、悠は思わず眉を寄せる。
「はあ!? 瀬奈がガサツなせいだろ」
悠の後ろからチラッと顔を覗かせて、紗奈が真っ先に挨拶をした。
「こんにちは」
「あ。こんにちは。先輩が悠にぃの彼女?」
「先輩……」
中学の時は帰宅部で、後輩の子に先輩と呼ばれた記憶は無かった。初めての感覚にキュンと胸を高鳴らせ、紗奈はキラキラとした瞳で瀬奈の手を握る。
「うん。悠くんとお付き合いしてます。北川紗奈です」
嬉しそうにしている紗奈を見たら、悠の小言もこれ以上は出てこなかった。軽く苦笑して、後ろの二人も含め、瀬奈の事を紹介する。
「先輩方、よろしくお願いします!」
「ふふ。紗奈と瀬奈、名前が似てるねー?」
紗奈は完全に瀬奈を気に入ってしまったらしく、ニコニコと瀬奈に話しかけている。
「えへへ。紗奈先輩って可愛いですねー!」
「え? あ、ありがとう……。瀬奈ちゃんこそ、可愛い……」
ほんわかとした空気になった所で、瀬奈がスっと紗奈に手を出そうとする。そこを悠に止められた。悠の顔は複雑そうで、妬いているようにも見える。
「コラ。触るな」
「え?」
紗奈は悠を見て思い出す。そう言えば、セクハラする子なんだった。と思って、掴まれた手を見つめた。
「悠にぃのケチー! 女同士なんだからいいじゃん」
「だめだ」
「束縛彼氏だっ!」
「そ、そんな事ない……」
確かに、妬きすぎなのだろうか。不安に思ってチラッと紗奈を見ると、紗奈は恥ずかしそうに体を隠してオロオロしていた。それを見て冷静になる。
「女同士でも、触られるのは恥ずかしいって言ってたぞ」
「えー! 残念だなあ」
「あらあら。私と触り合いっこする?」
あおいはニコニコと手を前に差し出して、瀬奈を誘った。間髪入れずに瀬奈があおいの胸にダイブするので、悠は呆れてしまう。
「無理に合わせなくていいからね?」
「あらー。無理なんてしてないわよ。触り合いっこだもの。ね?」
「きゃーあははっ」
傍から見ると女子同士でイチャついているように見える。いたたまれない気持ちになって、男子二人はそっと目を逸らした。
紗奈にとっても刺激が強かったらしく、少しだけ頬を染めて悠の服を掴んで隠れるようにくっついていた。




