第114話 従姉妹の性質
紗奈が部活から帰る時、まだ悠と一緒にいたらしい和也と出会った。
「あれ? …………今日も?」
紗奈はキョロキョロと周りを見回して、人がいないことを確認してから小声で聞いた。本当に律儀に約束を守ってくれるので、和也は苦笑する。
「ああ。じゃあ、バレないように気をつけろよ?」
「うん。またね」
「また明日!」
相変わらず、彼の去り際はクールだった。スっと軽く手を挙げただけでこちらを振り返らず、そのまま歩き去っていく。
「任侠映画みたい……」
「ハードボイルド」
「やっぱり?」
二人はくすくすと笑って、自然と手を繋いだ。念の為の変裝? も忘れてはいない。悠は髪をピンで留めて顔を見せている。
「そう言えば、うちの従姉妹も来たいって」
「本当!? そしたら、あおいちゃん達にも言わなきゃね!」
紗奈は楽しそうだった。彼女の性格なら、すぐにでも仲良くなれる気がする。
「あいつ、本当に男っぽいとこあるから……変な事されたら遠慮なく殴ってね」
悠の言葉を聞いた紗奈は、暴力だなんて。と驚いた。
「そんな事しないわ」
「いや、本当に触るんだ。何かされたら殴ってでも止めて。本当に気をつけて欲しい」
悠はそう言って、真顔で紗奈を心配した。その表情の裏には少し呆れも混じっている気もするが、紗奈は気にした様子はなかった。
「でも、女の子でしょ?」
「女の子だけど…俺だってまだ……」
「?」
もごもごと言葉を濁すので、紗奈は悠の言葉が聞き取れなかった。首を傾げていると、駅に辿り著いたので一旦手を離す。
「とにかく、俺が嫌なんだ」
悠は照れくさそうにそう言って、先に改札を抜けていく。急いで改札を通って待っている悠に追いつくと、紗奈は悠の裾をちょこんと掴み、見上げる。
「ヤキモチ?」
「歳下の女の子に妬くなんて、変だと思ってる?」
悠は不貞腐れるように、唇を尖らせた。照れているようで、眉が複雑な形になってしまう。今すぐピン留めを外して顔を隠したいくらいだった。
「ううん……。嬉しい」
本当に嬉しそうに頬を染めて、紗奈ははにかんでいる。悠はそれを見てつい、「可愛い」と口に出してしまいそうだった。
伝えたら、きっともっと可愛らしい顔を見せてくれるのだろうが、殘念ながら今の時点で可愛らしく、周りから注目されている。
これ以上は紗奈を見て欲しくないし、悠自身も萎縮してしまうので、紗奈が裾を掴むその手を握って、ホームへ降りる。
「あれ? でも千恵美ちゃんにはよくハグされるよ?」
体育の時にも、ゴールデンウィークの時も、悠は紗奈がハグされているところを見た事があるし、その時に妬いている素振りなんて見せなかったはずだ。
「そうじゃなくて、アイツのは普通にセクハラ」
「そ、そっか。それは女の子同士でも恥ずかしいかも」
やっと意味が正しく伝わった。紗奈は恥ずかしそうに縮こまり、俯いてしまう。
「うちの母親から紗奈の事は伝わってるし、本当に気をつけて」
「う、うん……。いざと言う時は守ってね?」
「ふふ。もちろん」
二人は手を繋いだまま寄り添いあって、電車が来るのを静かに待った。




