第113話 身の程
自販機の前についたので、二人は立ち止まって自販機を眺めている。
「何買うの? コーヒー?」
「いや、オレンジ」
「えー? アレと合わなくない?」
煙草にオレンジジュースだなんて、絶対に美味しくないだろう。吸ったことは無いが、想像だけでも不味そうだと感じる。
「俺はココア。お前もここまで来たんだから飲めよ」
「え? ああ、うん……」
オレンジジュースが好きだなんて言った覚えはないのだが、サラッと勧められたのでとりあえずオレンジジュースを買ってもらった。
「まだ時間あるだろ? 一服付き合え」
「…臭いつくのは嫌なんだけど」
「俺、臭ってないだろ」
「まあ……」
言われるがままに、悠は彼の後ろについて行って、紗奈のクラスに向かう。今日は殘念ながら人がいるらしい。しかも、それが桐斗なので、悠はつい微妙な顔をしてしまった。
「あれ? 君、まだいるの?」
「うん」
「どうして? まさかとは思うけど、あわよくば北川さんと帰ろうなんて考えてる?」
あわよくば。どころか約束をしているのだが、そんなことは、桐斗の前では口が裂けても言えない。
「君は考えてるの?」
逆にそう聞けば、桐斗は肩を竦めて「まさか」と呟いた。
「俺を所望する女子は沢山いるんだ。彼女は可哀想だが、共に帰ることは出来ないよ。向こうがどうしてもと言うなら、話は別だけど」
どれだけ自分に自信があるんだ。と思ったが、周りに女子を侍らせているのを見ると、その自信も半分は正しいようだ。
紗奈が彼と帰りたがることは絶対にないだろうから、当然半分は間違っている。
「言わないと思うから安心しなよ」
悠は素っ気なくそう返すと、チラッと和也を見た。
「どうするつもり?」
内緒にしているだろうから、名前は呼ばない。恐らく、彼は和也に興味が無いだろう。周りに侍らせていた女子が、オールバック姿の和也を見てわざとらしく怖がるのを宥めている。
「お前のクラスにすっか?」
「えー……」
どの道、バレないだろうからまあいいか。と悠は教室を出ていこうとする。
「待てよ」
桐斗に呼ばれて振り返ると、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。
「そいつにいじめられでもしてるのかい? 何だったら俺が助けてあげようか? もちろん条件付きで」
どうせ、条件とは紗奈の事だろう。悠は当然ながら断った。
「いじめられてるわけないでしょ。友達だ」
「友達ぃ? 君みたいな地味な奴が。こんな不良みたいな男と?」
こちらを見下してくる蔑んだ嫌な笑みが、昔の嫌がらせをしてきた慎介に似ていた。さっき話題にしていたから思い出してしまったのだろうか。
だが、もうただ大人しく聞いているだけの悠ではない。紗奈のために変わりたいという気持ちは本物だ。
緊張していても、顔には出さないように演技する。
「悪い?」
「君のために言ってあげてるんだよ? 君は身の程ってものを知ってるかな?」
「今度こそ、喧嘩を教えてやろうか?」
和也ですら彼の態度にはイラッとするようで、グッと拳を握って見せると、女子が「きゃっ」と大袈裟に怖がる素振りを見せて、桐斗にくっついた。
「いらないよ。別にする気もないし」
父のおかげで全く喧嘩ができないわけでもない。別に強いとは言えないのだが。それに、ここで殴ったりしたら紗奈が悲しむだろう。
「まあ、忠告は貰っとくよ」
とだけ言って、悠は今度こそ教室を後にした。和也も、苛立った顔で悠の後をついてきているようだ。




