第112話 話しやすい不良
その日の放課後。悠は紗奈の部活が終わるのを待っている間に、目的の少女に連絡を取ってみた。
「もしもし。悠にぃ? どしたん?」
「ああ。お前、前から谷塚の事聞きたがってただろ?」
「うん! 悠にぃってば、いつまで経っても会ってくれないじゃんさあっ」
電話越しだが、不貞腐れた顔をしているのが窺える。悠はそんな彼女の姿を想像して、苦笑した。
「悪かったって……。俺の友達と今度七夕祭りに行くんだけど、その時にみんなと会ってみない? みんな瀬奈がいてもいいって言うし」
悠がそう言うと、従姉妹である木村瀬奈はすぐに快諾してくれる。
「行くいくー! 悠にぃの彼女にも会えるん?」
「え? なんで知ってんだよ」
紗奈の話は、一度も話題にしたことが無いはずだ。それどころか、彼女がいることすら話した記憶が無い。
「へっへっへ。真陽おばさんから聞いたぞー? クリスマスに告ったんだろ?」
「クリスマスじゃなくて終業式」
「可愛いんだって? 良かったな。悠にぃ」
「あ、ああ…うん。ありがとう」
悠は軽く照れた顔をすると、「とにかく、また連絡するから」と言って電話を切る。スマホの画面を見つめながら、電話越しの会話で良かった。と思った。対面なら絶対にからかわれていたことだろう。
悠がふと顔を上げると、廊下に立ってこちらを見ている和也と目が合った。
「あ」
「女の声がした」
彼は顔色ひとつ変えずにそう言った。冷静な態度ではあるが、浮気を疑われているのは何となくわかった。悠は急いで説明をする。
「従姉妹だよ!」
「ふうん。なあ、暇なら自販行くの付き合えよ」
さほど興味がないようで、和也は女の話題からすぐに身を引いた。くいっと指で廊下の階段の近い方を指し示し、悠を誘う。
悠にも特に断る理由はなかったので、こくんと頷いた。
「いいけど……」
和也が髪をバックに上げている姿は、本当に不良にしか見えない。体育や移動の時に見かける和也とは、誰も思わないのではないか。それくらい変貌する。
「なんで優等生のフリしてるの」
「その方が色々と楽。先生に疑われないだろ」
悪びれもなくそんなことを言う和也に流されて、悠は妙に納得してしまったので、素直に頷いておいた。
「まあ、それは確かに」
「お前は…やっぱり嫌な思い出があるから?」
「え」
彼が自分のおでこを指さすだけでわかる。前髪の事を言っているのだろう。悠は軽く前髪を指でつまんで、肯定した。
「そうだね。今もまだ怖い。早く堂々と宣言してみたいもんだけど」
「神代慎介……」
その名前を聞くと、反射で悠の肩がビクッと揺れる。
「あいつ、この近くの芸能学校に通ってるだろ」
「…そうなんだ」
悠は慎介の情報をほとんど知らなかった。自分をプールに突き落とした彼のことは、出来ることなら忘れたかったからだ。
神代慎介はメディアに出ている人物なのだから、きっと学校の話も有名な話なのだろう。悠はそう思って、複雑そうに眉を寄せる。
「克服したいなら、あいつとの因縁も断ち切るべきだと思うぞ」
チラッと和也がこちらを見てくる。克服出来るのなら、そうしたい。そうは思っているのだが……。
「簡単に言ってくれるね……」
それが出来ていたらとっくにしているし、紗奈とのことだって公表している。彼女の人気ぶりを考えると、今頃学年中の噂の的になっていた事だろう。実際は一部の人間しか知らない秘密なのだが。
「喧嘩なら教えてやろうか?」
「芸能人殴るとか、普通の喧嘩よりやばいでしょ」
悠は突拍子もない彼の言葉に、くすりと笑ってしまった。何故だろうか。少しだけ気分が軽くなる。本当に殴れてしまったなら、スッキリするのかもしれない。
憤るでも、同情するでもなく、ただ淡々と接してくれるのが心地いいと感じる。
「君、意外と話しやすいよね」
「…彼女もだけど、お前もお人好しと言うか、普通に関わってくるよな」
単純に疑問だったようで、和也は眉を寄せた。その格好で怪訝な顔をされるのは、さすがに迫力あるな。とは思ったが、それでも彼への印象は悪くなかった。
「なんで? 不良だから?」
「この見た目、割と怖くねえ?」
「別に……。良くしてもらってるからかな。この前も助かったし」
悠が素直にそう言うと、和也は理解はしたが納得はしていないようで、素っ気なくこう答えた。
「ふうん? 変わってる」
「君もでしょ。特に仲良くも無い俺に良くしてくれたんだから」
悠はくすくすと笑って、和也を見上げた。
※お知らせです。私の生活環境が少し変わる影響で、12月からは更新時間が夜の8時前後に変更になります。詳しくは活動報告にも載せてあります。『今後の更新について』ってやつです。突然のお知らせで申し訳ありません。これからもよろしくお願い致しますm(_ _)m




