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ナイショの王子様  作者: 朱空てぃ
憂鬱な梅雨の季節
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第106話 危険信号

 放課後。悠は紗奈が部活を終えるのを待っている間、気候の変化で痛む頭を押さえつつ、机に突っ伏していた。


「小澤くん。大丈夫?」

「ん。ああ、立花さんか。平気」


 軽く顔をあげた悠は、電気に目が眩んだ状態で、少し目を細めていた。あおいからは悠の瞳が見えないので、彼女は特に気にした様子もなく、辺りを見回している。


「どうしたの?」


 あおいはこの教室内に、他に人がいないかどうかを確認してから、悠にこっそり小声で話す。


「紗奈ちゃん、待つの?」

「うん。そのつもりだよ」


 あおいが影になってくれたので、少しだけ目が楽になった。身体を起こしてから、きちんと会話に参加する。


「でも、小澤くん体調悪そうだし……。紗奈ちゃん、きっと心配するんじゃないかしら?」

「んー……。でも、今日の紗奈。少し落ち込んでたって白鳥くんから聞いてるし、待つよ」

「そっか。お大事にね。また明日」

「うん。また明日」


 あおいが離れたのを確認すると、悠はまた机に突っ伏す。


 暫くそうしていた。悠が顔を上げると、そろそろ紗奈が部活を終える時刻になっていた。


(帰る準備しなきゃ……)


 椅子から立ち上がろうとした瞬間、目の前に眼鏡姿で髪をオールバックにしている男子生徒がいることに気がついた。


「え。あれ、君……」


 前に会ったことがある。と悠はすぐに記憶を探った。確か、紗奈がスマホを取りに学校に戻った時。煙草を吸っていた男だ。それは思い出したが、名前は思い出せない。そもそも、名乗っていただろうか。と更に記憶を探った。


「式守和也だ」


 悠が名前を言えなかったので、和也自ら教えてくれる。悠はそれに頷くと、首を傾げた。


「うん……えっと、何でここに……?」

「一服して帰ろうと思ってたんだけど、お前が具合悪そうに寝てたから」

「え? うん? え?」


 だから何だ? と悠は訝る。親しい間柄でもないのに、何故こんな行動をとるのか、悠には理解が出来なかった。


「ラキ」

「やめて」


 昔の芸名で呼ばれるのは、やはり気分が悪かった。嫌なことを思い出してしまうからだ。


「ああ。悪い……小澤悠」

「何」


 彼に対する警戒心が少し上がったので、悠の声は尖った声になってしまった。


「お前、北川と付き合っているんだよな?」

「そうだけど……。言わない約束でしょ? 煙草の事も言わないし」


 やはり、悠の声は少しだけ刺々しいままだ。


「なら、あまり無防備でいない方がいいぞ」

「え? いや、紗奈ならともかく俺は別に……」


 何をされる訳でもないだろう。と思っていたのだが、和也はサラリとこう言った。


「悪戯しようとしてた」

「え?」


 それは予想外の言葉で、悠は目を丸くして聞き返してしまう。


「おさげの女子。お前、無自覚なんだろ? 無理やり地味な格好をしているが、鼻や口元は隠れてないし、整っているのが分かる。お前は顔立ちの良さが隠し切れてないんだよ。それに、親切だし、運動も得意。その上、成績も良いだろう? 同じような地味なタイプの女子からは割と人気だぞ」

「なんで……」


 中学時代にはそんなこと一度も無かった。それなのに……。悠は眉を寄せて考える。


「何してた? その子」

「少し頭を撫でていた程度だな。前髪を上げられる前に俺が通りかかったから」


 危ないところだった。悠はほっとしたような、急にそんなことを聞かされて困ったような……複雑な気持ちで頭を押さえた。


「そう。ありがと……」

「もうすぐ来るのか? 北川」

「うん。もう終わる頃だし」

「じゃあ、気をつけろよ」


 そう言うと、和也は座っていた席からスっと立ち上がり、鞄を肩にかけた。


「えっと、わざわざありがとう」


 どうして忠告をしてくれたのかは分からないが、とにかく助かったのは事実だ。悠は去っていく背中にお礼を言った。


 振り返ることなく去っていく和也はどこかクールで、思わず「かっこいいな」と憧れを抱いてしまったので、恥ずかしかった。相手は煙草を吸うような不良なのに。と複雑な気分にもなった。


 悠が帰り支度を終えた頃には、紗奈も部活動を終えて、合流してきた。


「悠くん。お待たせ!」

「ん。紗奈……。今日はどうだった?」


 部活の日はいつも同じことを一番最初に聞く。紗奈はいつもの流れで、部活内での出来事を楽しそうに教えてくれた。


「それで、今日は紫陽花ゼリーを作ったんだよ。部活内の時間じゃ固まりきらないから、試食は明日なの」

「そっか。楽しみだな」


 悠がそう言うと、紗奈はパッと明るい笑顔を見せてくれる。


「うん! 明日、悠くんにもあげるね!」

「うん。楽しみだ」


 落ち込んでいた。と聞いた紗奈だが、思ったよりも元気そうに笑っている。


 悠はほっと息をついた。学校を出て暫くすれば、自然と紗奈の手を取っている。その頃には軽く髪を横に流して、ピンで留めているのがいつものパターン。一応の変装のつもりである。


「私も髪の毛縛ろっかな」


 紗奈は体育用のヘアゴムで後ろに一つに括る。義人から貰ったお気に入りのカチューシャも当然、つけたままだ。


「お団子もいいかもね。ほら、髪が広がらないし」

「確かに。お団子かあ」


 自分一人でお団子が作れた事がない紗奈は、今日の夜にこっそり練習しようと心に決めた。

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