第104話 女子会
その日の放課後。約束通り、紗奈はスイーツを食べに女子達だけでカフェに来ている。
ただ、あんなに楽しみだったのに、悠の事を考えると胸がチクリと痛んだ。悠は「楽しんで」と笑ってくれたが、どうしても気持ちを切り替えることが出来なかった。
「アイツ、本当くそったれだな」
「ふふ。同感ー。あんなの、紗奈ちゃんが好きになるわけないじゃない」
「いい性格してるわよねー。みんなあんなのに騙されるなんて……」
「顔だけはいいものね」
「悠くんの方がかっこいいもん」
紗奈は、悠の痛みに歪んだ顔を思い出し、苦い顔をした。こんなに人を嫌いになったのは初めてかもしれない。そう思った。
「中学の頃も、からかってくる人は嫌だったけど……悠くんに酷いことをするなら、もっと嫌い」
「紗奈ちゃん……」
みんなが同情してくれている。それに気づいた紗奈は、暗い雰囲気にならないようにニパッと笑った。
「でも、悠くんの事をわかってくれる人もいるから、いいんだ! ケーキ、沢山食べよー?」
「うん! でも、また何かあったら言いなよ。うちがぶっ飛ばしてやるから!」
拳を前に突き出して、千恵美はキリッと笑う。
「ふふ。チエちゃん、かっこいい!」
「あら? 喧嘩した時に来るのは私のところよね? 紗奈ちゃん?」
あおいは対抗心を燃やし…はしていないが、くすくすとからかうようにそう言った。
「あおいちゃんも、いつもスパッと言うからかっこいいよね」
「紗奈ちゃんだってそうじゃない」
女子達で会話をしていると、いつの間にか楽しい雰囲気に飲まれていく。
紗奈にも笑顔が増えたので、三人はほっとした。
「それで?」
「白鳥くんが怒った惚気ってやつを聞きましょうかあ?」
あおいがからかい顔でそう言うと、紗奈の顔がぽっと赤く染る。ふしゅーっと、途端に大人しくなってもじもじしだしたので、みんなからもニマニマとしたからかい顔で見つめられる。
「あ、あのねえ…体育祭のリベンジがしたいって……。その、き、キス…してくれたの……!」
頬を押さえて、紗奈は小さな声で暴露する。
あまり大きな声は出さないよう気をつけるが、千恵美達も「きゃー」と興奮した声を出す。
「どうだった?」
「え? ど、どう……っ!? えっと……。ゆ、悠くん、いつもよりもちょこっと色っぽくて…な、なんかっ、男の人……なんだなあ……って…………」
恥ずかしいが、あの時の事を思い出すと口が止まらない。自慢したい気持ちも強いのだ。
「うひゃあ。普段優しそうな奴が急に男を見せるのって、ギャップだよなあ」
「わかるー。彼、普段から甘いこと言うけど、強引さはないもんねー」
「どちらかと言えば奥手っぽいよね」
三人は頷き合いながら、楽しそうに盛り上がる。人の恋バナを聞くのは楽しいのだ。ニマニマと口角が上がったまま、下がらない。
紗奈も、物凄く恥ずかしいのに嬉しくて、聞いてもらいたいことが多くて、つい言葉にしてしまう。
「半年くらい付き合ってやっとだもん……。嬉しくて。で、でも…流れっていうか……。悠くん、何回もしてきて…あんなにセクシーな顔もするんだぁって……すっごくドキドキしちゃった」
紗奈は、ついに手で顔を隠した。物凄く真っ赤になっている。お店の中じゃなかったら、千恵美が確実にハグをしていたであろう可愛さだった。
「いいなあ。羨ましー」
「ねえねえ、プレゼントには何貰ったの?」
「えっとね、バッグ。写真があるよ」
凄く嬉しかったので、家族でパーティーをした時に、全部並べてプレゼントとケーキの写真を撮ったのだ。
「へえ。これ? 可愛いじゃん」
「私服も結構オシャレだったもんね。センスあるー」
「ふふ。私の好きなお店のバッグなの。お父さんに聞いたんだけど、義人くんと一緒に買いに行ってくれたみたい」
「ああ。だからカチューシャの事も知ってたのね」
今朝の会話を思い出したあおいが、納得の表情で頷いた。
「うん! 義人くんってば、もう悠くんの事をにーにって呼ぶのよ」
「家族公認じゃん!」
照れくさいけれど、物凄く楽しい。そう思った紗奈は、他にも写真を沢山見せてくれた。
「あ、この子が義人くん?」
「弟も将来有望そうな顔立ちしてんなあ」
「でしょ?」
「てか、両親も美形!」
家族を褒められると、紗奈はついついデレデレとだらしない顔をしてしまう。それだけ、紗奈は家族が大好きだった。
「紗奈ちゃんと小澤くんの子どもも、ぜーったい可愛いよねえ。」
「こ、子ども……」
悠との子どもがどんな子になるのか、紗奈は想像した。
紗奈は髪が天パだが、悠はあまり癖が無い。髪はどっちに似るのだろうか……。目はくりくりした可愛い子になって欲しい。性格は、悠に似て優しい子に育って欲しいな。そう思う。
「キスしたら、それ以上の事もすぐかもよ?」
「え?」
「可愛い下着とか、用意しとかなきゃね」
「えっ…えぇ? は、早いよ。そんな……!」
いつか子どもは欲しいとは思う。それに、付き合っている以上、そういう行為もいずれはするのかもしれない。そうは思っていても、恥ずかしい。
紗奈は悠の体を見て狼狽える自信があるし、自分だって見られてしまうのだ。そんなのは恥ずかしすぎて、まだ耐えられない。
「紗奈ちゃん。初心だもんね」
「でもさー。奥手な彼も男なんだし、向こうはそういうこと、考えてるかもよ?」
「え…あ、あぅ……」
紗奈は真っ赤に狼狽えて、家に帰った後でさえも暫くはその熱が治まらなかった。
だから、夜に悠から『楽しかった?』とメッセージが送られてきた時に、動揺してスマホを落としてしまったので大変だった。




