第103話 憎悪の表情
やっと説教から解放された後、急いで戻らないと出席にバツがつくので、二人は一緒に戻るしかなかった。
その途中で桐斗と出くわして、二人はビクリとする。
「北川さんがなかなか戻らないから心配していたんだ。何故君がいるんだい?」
桐斗が不用意に紗奈に触れようとするから、悠はぐっと歯を噛む。紗奈が一歩桐斗から離れれば、彼からの敵意は完全に悠の方に向かう。
「彼女に何をしていたのかな? 君のような人間が、烏滸がましいとは思わなかった?」
「…先に体調を崩したのは俺で、北川さんは腕を痛めたそうだから。たまたま重なったんだよ」
視線で先に行くように紗奈に合図を送り、悠は桐斗の顔を見上げた。
当然、紗奈はたじろぐ。悠の事が心配だったから、思うように足が進まなかった。
しかし、途中であおいも心配して迎えに来てくれたので、悠は助かった。と、ほっと胸を撫で下ろす。
「あおいちゃん……」
「北川さん、もう戻れそうだって。立花さんも一緒に行ってあげて欲しいな」
悠がそう言うと、キッと桐斗がこちらを睨んでから、紗奈に手を差し伸べた。
「この俺がエスコートしてあげるよ?」
「あら、大丈夫よ。山寺くんはバスケでしょ? 私は同じチームだから……心配しないでねえ?」
ニコッと笑って、あおいが紗奈を連れ出してくれる。紗奈は未だに悠を気にしていたようだが、悠が「大丈夫」と小さく笑ってくれたので、大人しくあおいと体育館に戻る事にした。
「君…邪魔だなあ」
「山寺くんは、北川さんが好きなの?」
今度は、悠の方が桐斗を睨んだ。とは言っても、長い前髪で瞳は隠れてしまっているのだが、悠はしっかりと桐斗の瞳を見つめている。
「彼女ほど、俺に相応しい子はいないだろう? 逆も然りだ。他の男が、彼女に釣り合いが取れるとでも思う?」
「さあ……? 北川さんの自由じゃないかな。俺は、釣り合いとか関係なく、北川さんには北川さんの意思でいい人を選んで欲しいと思うけど」
その、紗奈にとっての『いい人』というのが悠だったのだから、それは嬉しい。悠は紗奈の笑顔を思い浮かべて、目の前のきりと桐斗に気づかれないようにこっそり頬を緩める。
悠は何度でも、真っ直ぐに桐斗を見上げた。どうせ顔なんか見えないし、この人は見ようとも思わないだろう。と悠は思った。
「君は北川さんが好きな訳じゃなくて、北川さんと付き合えるステータスが欲しいだけだろ? そういう想いは、彼女に失礼だと思う。君には……俺にも、彼女の決定を否定する資格はないよ」
スっと桐斗の横を通り抜け、悠は体育館に戻ろうとする。そこを、思い切り肩を掴んで止められた。
「覚えときなよ。彼女だって、俺がいいに決まってる。少し照れてるだけさ」
思わずゾワッと全身に鳥肌が立つ。背筋が凍るような気すらした。
桐斗は執着心丸出しの、余裕のない顔。イケメンと言えども、どこか醜いと感じるような、憎しみに満ちた顔をしている。
「っ…………!」
ググッと桐斗の指が肩に食い込む。悠の顔が、痛みで思わず歪んでしまう。「離せ」と言いたいのに、言葉が詰まって言えない。
「こら! 何してる!」
紗奈とあおいが呼んだ先生が、仲裁に来た。
「悠くんっ!」
紗奈は泣きそうになって、悠の近くまで駆け寄ってくると、そっと悠の肩に触れる。その間も、ずっと桐斗に憎しみの目で見られていた。




