第99話 悠からのお祝い
暫く無言の時間が続いた。
何度かキスを交わした後、二人とも恥ずかしくなってしまい、俯いたまま並んで手を繋いで黙りこくっていたのだが、「そろそろ……」と、悠が声をかける。
「紗奈。アルバムしまってくるから、待ってて」
「う、うん……」
紗奈は悠を見送った後、頬を押さえて思考する。
(うわぁ。うわぁーっ……。悠くんとキスしちゃったー…。今日の悠くん、なんだかちょっと色っぽかったなあ……)
「紗奈」
紗奈が悶えていると、不意に声がかかったのでハッと顔を上げる。すると、お皿に乗った一切れのケーキが目に入った。
「誕生日おめでとう。家でも食べると思ったから、小さいケーキだけど…許してね」
「わ……。う、嬉しい! ありがとうっ!」
いちごのショートケーキに、チョコのプレートが乗っかっている。『HAPPY BIRTHDAY』と、ホワイトチョコレートでアルファベットが書いてあるプレートだ。
「はい、フォークもちょっと冷たいかも。冷蔵庫に一緒に入れてたから」
悠の寝室には小型の冷蔵庫がある。よくそこに自分で買ったおやつや、起きて喉が渇いた時に飲むためのお水が入っている。
「ううん、平気! 私だけで食べていいの?」
「うん。紗奈に買ったケーキだからね」
「い、いただきます……」
紗奈は一口食べると、片手でほっぺたを押さえてキラキラと顔を輝かせた。
「美味しい……! このケーキ、すっごく美味しいよ。どこのケーキ屋さんで買ったの?」
「知り合いがやってるケーキ屋。東京から宅配で送って貰った。気に入ったなら、今度デートで行こう?」
「えっ、嘘!? 私のためにわざわざ…ありがとう」
紗奈は驚いて、今度は口元を手で押さえていた。
「紗奈に喜んで貰えたし、買ったかいがあるよ」
悠の言葉や優しい表情に感極まって、紗奈は満面の笑みと、気持ちが溢れ出した。
「悠くん、大好き!」
「ふふ。俺も」
本当に美味しくて、少し勿体なくて、紗奈は悠をチラッと見つめると、一口分のケーキをフォークで刺して、悠の前に差し出す。
「悠くんも食べて? 本当に凄く美味しいの」
「俺もお気に入りの店だから知ってるよ。それ、紗奈のなんだから独り占めしなよ」
「一緒に食べたいの……」
なんて可愛いことを言われたら仕方がない。悠は差し出されたケーキをパクッと口に含んだ。
「うん。相変わらずいい腕してる」
もぐもぐと口を動かして、悠もケーキの味を堪能した。
紗奈がケーキを食べ終えたら、悠はもうひとつ用意していた袋を渡す。中身は当然、義人と一緒に選んだバッグ。それから手紙だ。
「はい。誕生日プレゼント」
「え? 今のケーキは?」
「誕生日ケーキだろ?」
「プレゼントも貰っていいの?」
「もちろん」
紗奈は、悠からプレゼントの包みを受け取ると、そわそわとして、悠を見上げた。
「開けてもいいですか?」
「はい。どうぞ」
悠はくすくすと笑って、開けるように促した。
紗奈は、ドキドキしながらそーっと包みを開ける。その包みには見覚えがあった。好きなお店のラッピングである。
「か、鞄?」
「うん。紗奈に似合いそうだと思って。好みに合わなかったらごめん」
「ううん! 凄く可愛い! リボンチャームが凄く素敵」
紗奈はぶんぶんと首を横に振って、キラキラと嬉しそうな表情でバッグを見つめる。
「ふふ。そこ、好きそうだなって思った」
「嬉しいよ! 二つもプレゼントもらっちゃった」
ギュッとバッグを抱きしめて、嬉しそうに頬を染めている紗奈はやはり可愛らしい。
悠は、(喜んでもらえてよかった)とほっとした。それと同時に、手紙はここで読まれると恥ずかしいので、(気づかないでくれ)とハラハラした気分にもなった。
「あ、本当は三つかも」
「え?」
もしかしたら気づかれたかもしれない。と思ったが、そうではなかったようだ。
「バッグと、ケーキと……。キスも、してくれた」
紗奈は頬を染めつつ、蕩けた表情で「最高の誕生日だ」とはにかんだ。
そんな風に微笑まれると、また紗奈に触れたくなって困ってしまう。
悠は邪な気持ちを必死に振り払うと、そろそろ遅い時間なので、紗奈をマンションまで送る。
「悠くん! 今日はありがとう! 楽しかったし、とーっても嬉しかった!」
マンションのエントランスにつくと、紗奈は名残惜しそうに振り返って、悠の手をギュッと握る。
「こちらこそ。紗奈、最後にもう一回。誕生日おめでとう。家でのパーティーも楽しんでね」
それに応えるように紗奈の手を握り返して、悠は微笑む。この後離さなければならないのが、少し寂しいと思ってしまった
「うん! 悠くん、また明日ね!」
「また明日」
紗奈を見送った後、悠は「ほーっ」と長く息を吐いた。そして、自分の指で唇をなぞる。
「俺まで貰いすぎだ」
そう呟いて、紗奈の恥ずかしそうな、艶っぽい表情を思い出して赤面してしまうのだった。




