第97話 お昼の待ち合わせ
紗奈の誕生日当日。
紗奈が来るのはお昼の少し前だ。夜は家族で祝う予定があるとの事なので、いつもよりも早めに来てもらうように約束をしていた。
父は本当に出かけてしまったので、お昼ご飯は悠が作ったものである。紗奈は遠慮していたが、せっかく早く来てもらうので、「一緒に食べたい」と悠がわがままを言ったのだった。
ピンポン
「紗奈、いらっしゃい。今開けます」
悠に扉を開けてもらって、リビングに通してもらう。学校帰りに来る時はいつもまっすぐ悠の部屋に通してもらっていたので、紗奈は新鮮な気分になった。
「リビング広い……」
「親のおかげで結構お金持ちだしね。ダイニングはこっち」
ダイニングも広々としていて、紗奈はついつい周りをキョロキョロと見てしまう。
ふと家族写真が目に入って、小さい頃の悠が可愛らしくて、目を見張った。
「悠くん、可愛い……」
髪は既に長いようだが、辛うじて目は見えている。上手く笑えずに微妙な表情なのも、また可愛らしい。と紗奈は思った。
「何歳の時?」
「小三。子役辞めてすぐの頃だよ」
悠はそう言いながら、作ったカルボナーラをテーブルに置いて、手を合わせる。
子役を辞めた時、悠が元気になるように。と、家族には様々なところに連れて行ってもらった。これは、北海道で撮った写真だ。
「へぇー。…もっと前から悠くんのこと、知れてたらなあ……」
紗奈は少しだけ悔しそうだ。紗奈の事だから、嫌がらせをしていた人に仕返しでもしてしまいそうだ。と悠は思って、苦笑する。
「紗奈も小さい頃、可愛いよな。七五三の時さあ」
ここまで言ってからハッとする。悠は、紗奈の写真を真人から貰っていたのだが、それを紗奈には内緒にしていた。
「なんで七五三の時、知ってるの?」
紗奈が不思議そうに首を傾げる。つい口が滑ってしまった悠は、気まずそうにしどろもどろに説明をする。
「それは…その……真人さんが……」
「え! ずるいっ! 私も……」
紗奈がぷくっと頬を膨らませて、拗ねるように見つめてくるので、悠は慌てて謝罪した。
「あ、アルバム見せるから。許して」
と言えば、紗奈は期待するような表情をして、手を合わせた。
「いただきます! 早く食べて見よ?」
コロッと表情を変えたので、悠は一瞬呆気に取られてから、くすくすと笑いつつ紗奈を見つめた。
「「ごちそうさまでした」」
「悠くんのご飯、美味しいね」
「ありがと。作ったの久しぶりだったんだけど、美味しかったなら良かったよ」
空になった皿を持って、今度は二人でキッチンに入る。ご飯は悠が作ってくれたので、紗奈も洗い物を手伝った。
「ふふ。こうやって、二人でキッチンに立つのってドキドキしちゃうね!」
紗奈はそう言って頬を染めた。
確かに、こうしていると新婚みたいで気恥しい。悠はそう思って、隣で皿を濯いでいる紗奈に視線を送った。
いつか結婚したら……と、悠はつい想像してしまう。その時もこうやって、二人で並んで食器を洗ったりするのだろうか。
想像の中の紗奈は、何度か会ったことのある紗奈の母親、由美にとても似ていた。その隣には、当然今と同じように、悠の姿があった。仲睦まじく、幸せそうに笑いあって並んでいる。
悠はそんなことを妄想しながら、洗い物を済ませた。




