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Pinball  作者: Goat
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 星々は私たちを殺すために、美しく輝いている。


 自然公園の原っぱに寝転がりながら、僕は両親の言葉を思い返した。


 夜空は青みがかった黒色が朝に向けて綺麗なグラデーションを描いていて、その上に並べられた星たちは何だか安っぽいスパンコールを乱雑に並べただけのように思えた。


 星座だなんて、とんでもない。結ばれるべくして位置していないものを恣意的に結び付けたって、そんなものは後付けのまやかしだろう。星なんて単なる物体に過ぎないし、僕たちを殺すためにも、生かすためにも輝いてなんかいやしない。自惚れも甚だしい。


「風が暖かくなってきた」


 春の終わりの風は少しずつ湿気を持ち始めていて、これから来る梅雨、そして夏の照りかえる陽射しと熱を予感させた。


 最も、そこまで僕たちの命が持つかどうかはわからないけれど。


──別に劇的な何かがあったわけじゃない。


 お互いのためと言いつつも、少しずつ、他の人よりも少しずつ欲張りだったから、世界は段々と僕たちに愛想を尽かしていった。宇宙から降り注ぐ有害な光線は、ボロボロになったこの惑星に容赦なく降り注ぎ、僕たちをゆっくりと壊していった。このままではいけない、このままではまずいを繰り返し、誰も明確な答えを持ち合わせないまま、僕たちはとうとう取り返しのつかないところにまで来てしまった。


だからきっと、あのむせ返るような熱気に茹だることはもうない、と思う。


ふいに若草の匂いが後ろめたく鼻先を掠めた。


「タケル」


 頭上から声がして、糸で引かれるように体を起こす。


 “立ち入り禁止”の表札を避け、同じ意味を持つロープもガゼルのようにひょいと飛び越えて、彼女は僕の隣に腰かける。ジャンプした時、真白いワンピースの裾が大胆にめくれ上がったけれど、彼女は気にもしていなかった。


「どうしたんだよ、一体」僕は芝生に横になりながら彼女に尋ねた。


「何が」彼女は座禅を組むように胡坐をかきながら僕に応える。


「何がって。そりゃあ、君のその恰好だよ」


「だから、何が」


「僕の知ってる君の趣味からは、えらく外れているように思うんだけど」


「そう?似合ってない?」


「何というか。似合ってないわけじゃないんだけどね。例えば所作とかが、僕の知ってるような、いわゆるワンピース風じゃないっていうか」違和感がある、と僕は言った。


 少しだけ考えるように首を傾げて、彼女は切り返す。


「それはつまり、インパラのようにジャンプしたり、仏像みたいに胡坐をかいて座ったりするのにワンピースは適していないってこと?」


「ほとんど合ってる」


 合点がいったように頷きながら、彼女はポシェットの中の紙煙草を口に放り込んだ。

 いつもの紙煙草じゃない辺り、彼女なりの配慮なのかもしれない。だとしたら、そもそもがズレている気がする。


 人気のない自然公園は純粋な静けさで満ちていた。途切れた会話の隙間を草木の戦ぐ音や、池の水音が埋めてくれる。


 何気なく横を向くと、彼女はどこを見るでもなく、ぼんやりと前を見つめていた。


「星は好き?」彼女は前を向いたまま唐突に言う。


「藪から棒に」僕は彼女を見たまま即座に答える。


「今でこそ、星は誰からも忌み嫌われる象徴になってしまったけれど、昔はね、それこそ君が生まれた頃にはもっと美しいものとされていたんだ」


「ああ、知ってる。本で見た」


「へえ、物知り。てっきり君の親はそういうのを許すはずがないと思ってしまったんだけれど。認識を改める必要がありそう」


「いや、許されてはないよ。僕が知っているということを知ったら、生き返ってでも僕を殺しに来るだろうね」


「ははは、それはまずい。折角二人で裏庭に埋めたのに、あの頑張りがパァになってしまう」


 生暖かさ、血の匂い、五感の記憶がフラッシュバックする。


「嫌なことを思い出させる」


「ああ、ごめんごめん。迂闊だったよ。・・・それで?」


「それでって」


「星だよ」


「あー、星ね」


「好き?」


「好きでも嫌いでもない。あ、でも星座は嫌いだ」


「そう。アタシはどっちも好き」


「どうして」


「うーん、どうしても」


「なんだそれ」


「いいじゃない、意味なんか。見つかったその時に後から付ければ」


「それが嫌なんだよ。その姿勢が。やっつけじゃないか」


「はー、存外君はちっちゃいやつなんだね。モテないよ、そう言う男は」


「うるさいなぁ」


「世界が終わるんだぜー?スケールの大きな話をしようよ、最後くらいさ」


「もういいよ、静かにしてくれ」



──それっきり、二人の会話は青々しい沈黙に溶けた。


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