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第8話 黒狼とグレゴリ 

こんばんわー


夕方過ぎてもまだ暑いですね_:(´ཀ`」 ∠):ひぃぃ


前回までの星屑達……


サイキは実験を終えその成果を技術者達に示す。


今まで確認することもできなかった機体情報に喜び、その可能性を見出した研究者達は、更なる機体性能の向上に意欲を示した。


しかしそんな最中、館内アナウンスの声に違和感を覚えたサイキ……


よく耳を澄ませて聞くと、その声はカナミだった。


そして彼女のその行為は、新たな問題へサイキを誘うものとなる……





「まさかタイタンのコクピットで寝ちまうなんて………ねぇ?」


「でも隊長にプレゼント持って来た時『夜勤明け』って言ってたよな?違かったっけか?」



「まぁ寝ちゃったってこたぁ……仕方ないよ。隊長に期待持って行く様にアタイが言っとくわ。ってかお前……サイキちゃんに悪戯すんなよ?」



「し……しねぇよ!ホッペにチューくらいしか……」


 そう言ったドーガスが、可変機構付きタイタンの中で爆睡する私を背負い連れて行く……


 この後ホッペに本当にチューしたのかどうかは、ドーガスしか分からない。



 ◆◇



 ドロシーに事情を聞いたグレゴリは、自分の機体を取りに行った。


 夜勤明けで働き詰めで、気を失う様に寝てしまった娘を見て『これだから父親失格なんだよな……』と言っていた。


 だがグレゴリにも、それなりの理由があった……



 独房で昼寝の素振りをしたが、グレゴリは仕事をしていた。


 機密案件を処理するには、今の艦内ではセキュリティが甘すぎるのだ。



 だからこそ独房に外からも中からも鍵をして、その中で仕事をしていたのだ。



 その内容は『ブルーセンチネルの鹵獲成功』その情報を本国であるマゴス共和国へ送る仕事だ。


 そして開発中のセラフ改を輸送してもらう計画だ。



 ブルーセンチネルの設計図は鹵獲後すぐに書き起こされて、サイキの登場した機体セラフ後継機へ本国の技術部にて反映される。


 そして機動実験に活かされる仕組みだ。



 娘が関わる新型の機動実験に反対する父親としては、非常に悩ましい職務内容だ。


 だが、グレゴリには一つの思惑があった。



 戦争が進むにあたって、万が一の場合『サイキだけはセラフに搭乗させて逃す計画』だ。


 だからこそ、この仕事を買って出た。



 表向きはマゴス共和国の為……しかし真の目的は『娘の生存確率を1%でも上げる為』だった。



 この世で唯一安らぎを得られる愛する家族を失い、今現状心の支えであるサイキを失ったら……もはや自分は壊れる……


 グレゴリはそう理解していた。



 かつてマゴス共和国で黒狼と呼ばれた時期は、それなりに理由があった。


 連邦の誤射で、母と姉を同時に失ったからだ。



 グレゴリは元々中立国の住民だった。


 当然兄弟や両親、自分の家族はそうなる。



 連邦の表明では『誤射』だが、グレゴリはそれを信じてはいない……何故なら連邦の領地拡大で、祖国は既に壊滅したからだ。



 だからこそグレゴリはマゴス共和国に渡り、軍役に就いた。


 そして黒狼の異名が付く位まで、連邦の機体を破壊し尽くした。



 その結果が『大佐の地位』だが、心の渇きは増えるばかりで治ることは無かった。



 しかしその状況は、ある作戦時に一変する。


 連邦は非人道兵器で、連邦の街の市民ごとグレゴリ諸共吹き飛ばした。



 死んだかと思われたグレゴリだったが、後に彼の妻となる連邦市民のカーリダは、大破した機体の中から彼を助け出し、1年もの間彼を匿い傷の治療をした。



 何故カーリダが敵国の兵士を助けたかと言えば、大きな分岐点があったからだ。



 カーリダは連邦の非人道兵器で良心と四人の兄弟姉妹を全員失った。


 偶然その街にいなかったカーリダは、家族の安否を探りに街に帰ったのだ。



 そして偶然、残存兵を確認して回る兵の言葉を聞いてしまった。


 この事件の黒幕は連邦であると……焼け野原の土地は連邦が接収し、新たな街を自分たちだけで築くそうだ。



 地主として多くの寄付をしていたカーリダの両親は、結果的に騙されて殺された。



 カーリダは何としてもグレゴリを助けたかった。


 仇討ちが希望では無い……


 そこまでして殺したかった相手が生きている……それは連邦にしてみれば、作戦における敗北以外の何者でも無い。



 そして何より『非人道兵器を使ったのは連邦だ』と言う生き証人が必要だったのだ。



 しかしマゴス共和国では、既に盛大な国葬が行われたグレゴリであった。



 だがグレゴリは見事に復活を果たす。



 グレゴリは更に一年をかけて、廃棄されたゼイクを修理し欠けたヒートアクスを使い連邦の秘密基地を襲撃し、新型タイタンを強奪した。



 それが『連邦の悪夢』と呼ばれる日になったのは言うまでも無い。


 自国で秘密裏に作られた機体で、連邦大型6都市の軍事施設が壊滅した。


 

 その単独での襲撃で、連邦の兵士8万人が命を失った……そしてグレゴリは声明を出した。



 『非人道兵器の被害者を悼む』と……



 『自分が死者になり代わり、真の黒幕に鉄槌を振るった。安らかに眠りたまえ』と言ってのけたのだ。



 その傍らにはカーリダの姿があった。


 自分の両親や兄弟、街に何があったのかそれは全世界、全宇宙都市に伝わった。



 それから機体を持ち帰ったグレゴリは、連邦兵士に『不死狼』と呼ばれる様になった。



 マゴス共和国に帰ったグレゴリは、カーリダを娶り静かに余生を送ろうと決心する。



 しかし牙を失った狼の生活は、数年で終止符を打つ……何故なら周りがそれを許さなかった。



 連邦の悪虐は続き、多くのコロニーで被害が出た。


 当然中立国も多く無くなり、多くの命が亡くなった。



 その戦争理由は資源だ……資源欲しさに戦争をする愚かな連邦……


 

 『妻と娘を守るには、今暮らす国を守らねばならない……』そう確信に至ったグレゴリは、久しく使っていなかった『牙』を使う決心をする。



 久しく離れていた戦争に復帰するのだ……


 家族を守り、安全に暮らせる世界に変える為に。



 グレゴリは暫く軍役から離れていたが、復帰は容易かった。



 何故なら国がそれを待ち望んでいたのだ。


 しかしグレゴリの条件は、黒狼の名は封印することだった。



 何故なら自分が居ない間に、家族の暮らすコロニーが狙われかねないからだ。


 マゴス共和国はそれを飲んだ。



 黒狼の名が無くても、『新たな呼び名』が出来るのは明白だったからだ。



 そして黒狼グレゴリの予感は悪い方に的中した……ブルーセンチネルの襲撃とコロニーの破壊。



 それで彼の魂は引き裂かれた……かに思えた。



 グレゴリの唯一無二の存在……『家族』……自分と同様、それを同じ日に無くした少女が目の前に居る。


 その上、サイキと言う少女の方が遥かに苦難の道を歩んでいる……自分と違うのは、自分の片腕を失っているのだ。


 

 縋る場所を無くしたグレゴリは、いつしかサイキを娘として見る様になっていた。



 そしてサイキも同様だ。


 グレゴリは気がまわらない武人の様な男だ……だからサイキとは凸凹な関係ではあった。



 しかしその関係が、逆にグレゴリを救っていた。



 心の辛さを隠さずに、胸の痛みをぶつける少女……



 その声と痛みの持ち主は、まるで鏡を見ているかの如く……自分の姿の様でもあった。



 『心の声の代弁』それが相応しい言い方……


 グレゴリはいつしか本当の父以上に、サイキの父親になっていたのだった。


 ◆◇


「ムニャムニャ……バカ親父………ムニャムニャ……ご飯は……2膳まで………デブるだろう……」



「グレゴリ隊長……サイキちゃんは一体どんな夢見てるんですかね?気になるよなドロシー。だって……デブるだぜ?」



 意味深に言うドーガスに、蹴りをぶち込むドロシー……


 しかしドロシーも気になったことがある様だ。



「ってか……隊長……娘に食事制限されてんの?なんか……ご愁傷様?」



「お前たち……いちいちウルセェよ。サイキとは兵役で一緒になるんだ。お前達もいずれ食事制限地獄を味わうさ!」



 グレゴリがニヤリと笑いそう言うと、二人は『全力で遠慮します』と声を揃えて言う。



「おい……冗談はおしまいだ。深夜帯を使い新型の飛行訓練をする。飛行訓練と変形からの戦闘訓練だ。メカニックによる機体確認をしておけ」



「「サー!イエッサー!!」」



「大声で……ウルセェ……ムニャムニャ……ウル……セェ………オタマ喰わす……ぞ……ムニャムニャ………」



 サイキの『オタマ喰わす』の言葉に、一目散に避難したのはグレゴリだった………


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