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『第3話 鋼鉄の乙女その名は……セラフ』

養父『グレゴリ』は死んだ父親と同じ『タイタンの乗り手』だった。


サイキは親の顔を憶えていない。


しかし育ての親が。皮肉にも同じ職業とは思ってもいなかったのだ……


そしてサイキは、グレゴリの部下にエアロックへ連れていかれる。


彼女はその中から、養父の状況を見守ることしかできなかった……


『ズドドド……ドドン』


 爆撃の音が響き、爆発音がその後すぐに起こる。


 そして絶え間なく地響きが起きている……


 それは幼い時に味わった『戦争』で間違いはなかった。



『軍事施設A区画大破確認……直ちに付近の敵タイタンを撃破せよ。3番武器庫に敵影あり……民間兵は対戦車砲にて迎撃を!』



「対戦車砲で……タイタンの相手を?そんなのは無謀だし、そもそも無理よ………」



 エアロックでサイキはそう呟く……しかしアナウンスは止まらない。



『報告!G区画ベルス専用、強襲型ゼイク大破……援護できる機体は向かってください。爆撃型は残弾をチェックし切らさないよう補充を。臨時司令部より通電、防衛線を突破されたら新型の箱は破壊せよ。連邦による鹵獲だけは阻止すべし……』



『ピーガガ……ガガガ……ブツン』



「ど……どうしたの!?アナウンスは……状況報告しなさいよ!父さんは無事なの?ちょっと!!」



 文句を言い終えるとほぼ同時に、2枚扉で出来たエアロックの扉が開き、中の空気が外に出る。


 そして代わりに、焦げ臭い空気がエアロックの中へ流れ込んでくる。



『プシュー………ガー!!』



「ひぃ!?」



 扉の向こうに居たのは連邦軍兵士ではなく、見た顔だった……



「サイキ……ぶ……無事か?」



「え?……ド……ドーガスさん!?頬から血が!!ひ……酷い怪我………今メディカルキットを……」



「み……見かけより酷くねぇ……ヘマしてコクピットを壊されただけだ。ちょっくら切っただけだから安心しろ」



 そう嘯いて言ったドーガスは『それより此処から逃げる準備をしろ……相手には青鬼がいやがる……このコロニーはもう長く持たねえ』と言った。



「あ……青鬼?」



「ああそうだ……ブルーオーガと呼ばれる機体の後期型だ。奴は前の戦いでたった一機で強襲型タイタンのゼイクを20台も破壊した化け物だ……此処はもう長くねぇ。エアロックでもやつの武器は危険だからお前は戦艦に行け!そこしか助かる道はねぇ」



 そう言ったドーガスは、一枚のカードを渡して来た。



「俺達は奴を壊すために新型を準備する。残念だが此処のコロニーは、39番の二の舞になる……意味がわかるな?」



 ドーガスは『今は黙って船へ行け。そしてグレゴリと俺に指示されてきたと言って、カードさえ見せれば中に入れてもらえるはずだ』と言う。



「で……でも……カード無しじゃ……ドーガスさんは?……」



「はん!サイキは優しいなあ。俺の心配か?……俺はタイタン乗りだぜ?たけぇ棺桶貰えてるんだ。気にすんな……」



 そういうとドーガスは走るべき方向へ、半ば強制的にサイキを追い立てた……



「く!!……連邦のクソめ……なんでアイツらは………アタシの居場所を……」



 そう言いながらも必死に言われた方へ走るが、真後ろで起きた爆発音で歩みを止めて振り返ってしまう。



 それは外の状況を伝えるスピーカーからの音だった。



『く……緊急連絡だ!!……グレゴリ機ゼイク……メインバーニアをやられた。C軍事施設で1機でも多く此処で足止めをする。新型を敵に渡すな。技術員は戦艦へ積み込め。できなければドーガスかドロシーが箱ごと破壊しろ!』



「へ!無理言ってくれるぜ……技術員なんかとっくにいねぇよ。この新型はあのトチ狂ったサイコミュー博士が作った、特殊なサイコシナプス機だぜ?素人には動かせねぇよ。ちぃ……マジで棺桶か……自爆とはついてねぇぜ……」



「どう言う事ですか?……戦わないで……自爆って……」



 その言葉でドーガスはビックリして声の元へ振り返る……



「サ……サイキ?何してんだ……この機体が無理なら新造戦艦はすぐにこのコロニーから出る!!……もうコロニーの稼働率は40%以下なんだ。じきにコロニーだけで無くこの格納庫の空気さえ無くなるんだぞ!!」



 そう言われた瞬間、あの惨劇が脳裏を掠めた。


 母が惨たらしく死んだ39番コロニー……それがこのコロニーで起きようとしている。



 怒りに震えたその瞬間、義手から痺れる様な感覚が流れてきた。

 


 そして次に起きたのは見たことも無い、コクピットの映像が頭に流れ込んできた……


 

 仕事場では業務用モービルワーカーを運用していたので、コクピットの形状は知っている。



 しかし、その脳に流れてくる映像はそのどれにも一致しないのだ。



 そして自分の目に映った一つのコンテナは半分開けられ、中が一部露出していた。


 紫色の輝く光がそこから出て、自分の方へ流れている……



 本能で『頭に浮かんだコクピットは、目の前の機体の事で……間違いなく私を呼んでいる!!』と感じてしまった。



 サイキは大怪我で弱っているドーガスの側に駆け寄ると、手に持っていたアクセスキーを半ば強引に奪い取る。



「なぁ!?何してんだ……サイキ……それは最重要機密情報だ。幾らグレゴリ隊長の娘でも………っておい!!俺のカードキー投げるな……つか……お前は船に……」



「ドーガスさん、ワタシはもう我慢できないの!!むざむざこの機体を爆破するなら……私がやれるだけやって……奴等を巻き込んで自爆する!!」


 

 ドーガンが何かを叫んでいたが、もはや一刻の猶予もならない。


 巻き込むなら一台でも多く、連邦タイタンどもを道連れにしないとならない。


 その事で頭がいっぱいになった所為で、コクピットに駆け上がると碌に話を聞かずに飛び込んでしまう。



「な……なに……このコクピット……360度フルスクリーン……と言うか座席は?」



 そう言った瞬間、内部が音声反応なのか動き出す。



『サイコフィジカル・ミューテーションを高密度で確認。フィジカルアームのシステムバージョンチェック。旧データにつき感度アームデータ更新中。再起動まで10……9……8』



 その見知らぬ単語と言葉に混乱するが、もっと奇妙なことに見舞われた。



 カウントダウンの読み込みの後、突然腕の義手から痺れを感じた途端、頭上からヘルメットの様な物が落ちて来たのだ。


 しかしそのヘルメットはどう見ても試作品だ……何やらケーブルがゴテゴテとついている。



 一目で『ヤバイ』と思える内容だ。


 しかし今の私には『自爆』よりヤバイ事など存在しない……と何故か冷静に思い至った。



『サイコシナプスケーブルの装着をして下さい。装着後メイン画面が起動します』



 そう説明を受け、即座にそのヘルメットを被る……



『ようこそ……ピッピッピ……登録者名該当登録無し……コードキーを差し込んで下さい』



 言われるままに、奪ったアクセスキーを目の前に出たソケットに嵌め込む。



『新規登録開始……。続行……サイコシナプスシステム……起動。タイタン、鋼鉄の乙女・セラフ、起動シークエンス開始……オーバー』



 その時だった……突然足元から操作パネルや操作レバーがせり上がってきた。


 どうやら起動ロに反応してコンソール系が出てくる様だ。



 しかし起動直後、格納庫の屋根を破壊して青いタイタンの機体が飛び込んできた。



 それは母親が倒壊した壁で死ぬきっかけを作ったタイタン……『ブルーオーガ』と呼ばれる機体だった。



 ◆◇



「サイキ……無茶するな。今なら一般人として助かるはずだ……投降しろ。グレゴリはお前を兵士にする気はねぇ……」



 そう言ったドーガスの声は、途中で聞き取れなくなった……コクピットハッチが閉まったからだ。



『ピッピッ……外部音声集音及び外部マイクのチェック終了。外部とスピーカーを介して通常会話可能』



 コクピットハッチが締まったことで完全に外部と遮断されたが、360度フルスクリーンモニターのコクピットはまるで外にいる様に感じる。


 機体各所に付いているモニターが自分の目の様な役割になるのだろう。


 しかし悠長に事を構えている時間は無い。



 連邦の青い機体は、用心の為様子を伺っている。


 だが、見た限り戦争を止める気はない様だ。



 当然一兵士が、勝手に終わらすことなどは出来ないのだが……


 

 敵機体はある程度距離を持った状態で、銃器を構えたまま投降勧告をする……



「パイロットに告げる。直ちに機体の起動をやめて投降せよ。お前たち宇宙移民者は民衆の脅威となるタイタンの製作をしている。コレはれっきとした……」



 母を戦争に巻き込み、あまつさえその手にかけて殺した張本人が『国際法』を行使したのだ……


 その言葉に我慢の限界はとうに超えていた………


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