『第2話 義父はタイタン乗り!?」
前回までのお話。
誕生日なのに養父と喧嘩してしまうサイキ……
サイキは口うるさい義父に文句を言いつつも、心では感謝はしていた……
素直になれなかっただけだったのだ。
そんな彼女は、既にひと月遅れになってしまった誕生日プレゼントを抱えて、グレゴリの職場へ向かった。
急いだ甲斐があったのか、事務所にはまだグレゴリの姿があった。
サイキはその姿を遠目で確認した後に、バイクのヘルメットをバイクにかけて、軍関係者の駐輪場へ持って行く。
そして髪型を整えてから、プレゼントを小脇に抱えて事務所の扉に手をかけると、ちょうど中からグレゴリの話し声がした。
「ああ!くそ……何で喧嘩になるかな……」
「なんだ?グレゴリまた娘と喧嘩して来たのか?ってか今日だけは喧嘩しねぇって豪語してたよな?確かプレゼント渡すためにって……」
「ドーガス!お前も結婚してあの年頃の娘を持つとわかる……いいか?理不尽が形をなしてるんだ!!それも言葉を喋り罵るんだぞ?」
「遠慮するわ……独身で酒場でそれなりに楽しんでた方が平和そうだ……」
「ちょっと!……そのセリフ……此処で言って良いのかしら?グレゴリにドーガス……」
そう言ったのは、声からして女性職員と思われる。
姿が見えないが、声の位置からしてドアからすぐ近くにいるのだろう……
「なんでだよ?ドロシー……あ!!」
「あ!!ってなんだよ?……ドーガス……あ!!」
「分かったかしら?折角のサプライズを聞かれたみたいよ?」
そう言ったドロシーと呼ばれる女性は、自動ドアを開けてくれた……
「いらっしゃい、サイキちゃん。何時も貴女の事は写真で見てたわ。えっと……馬鹿なドーガスを許してあげてね?わざとじゃ無いの。アイツ間が悪いのよ何時も……」
「いえいえ……初めましてドロシーさん。実は父に渡すものがあって……ユニフォームに着替える前でよかったです……」
そう言ってから、小脇に抱えたものをグレゴリに投げて渡す。
皆がいる手前、若干気恥ずかしかったのだ。
「お……とっと……なんだコレ?」
「た……誕生日!!プ……プレゼント……ひと月遅れだけど……喧嘩ばかりするから……渡しそびれてたの!!……お……お父さんに……」
「お……お……おお。そ……そうか………えっとアレだ!あ……ありがとうな!サイキ……」
お互い気恥ずかしい空気が流れるが、ドロシーとドーガスはニヤニヤしながら目を右往左往させている。
「ちょ……ちょっと同僚さん!!め……目が騒がしくて鬱陶しいよ!?」
『『ニヤニヤニヤニヤ』』
「お……お父さん……じゃあね!夜勤明けだから……ワタシは……家帰って寝る!!夕飯は帰ってきたら、冷蔵庫の中を見てね!」
「さ……サイキちょっと待て!コレ……。今日誕生日だろ……欲しがってた……義手用の伸び縮みする人工皮膚だ……」
そう言ってグレゴリは、肌色の缶を手に持って歩み寄って来た。
「18歳の誕生日おめでとう!」
「あ!!……コレ………前から言ってたヤツ!ありがとう……あ……あと……さっきはごめん。つい……口から」
「大丈夫だ!こ……これでも『お父さん』だからな!って言うか、そもそも言いすぎたのは俺だ。すまん………」
グレゴリがそう謝ると、ドロシーが気を利かせたのか口を挟んだ……
「ケーキも無しじゃ、誕生日とは言えないよ!!さっさと奥の売店でケーキバー位は買ってこいよ!親父なんだろう?」
そう言ったドロシーは『使えねぇ親父だな!娘の気持ちくらい考えろっての!なぁサイキ?』と言って笑いを誘う。
「そ……そうか……そう言うものか?……そ……そうだな!ちょっと待ってろ。今買って来る………何味がいい?チョコナッツケーキか?それともストロベリーマンゴーがいいか?」
グレゴリが恥ずかしそうに頭をかきつつ、そう言った時だった……
突然煩いほどに警報音が鳴る……
軍事施設ともあり、その音が示すのは非常事態である事は間違いがない……
『ビーー!ッッ……ビーー!!ッッ……』
『領域侵犯の船影を確認!繰り返す……領域侵犯の船影を確認!コードから連邦艦隊ハウンド級。コードレッドを発令……直ちに戦闘態勢を!これは訓練では無い!繰り返す……これは訓練では無い!!』
その警報を聞いた瞬間、ドロシーはサイキを担ぎ上げる……
サイキは18歳の女性だ……決してかつての子供の時のようには軽く無い。
ドロシーは見かけによらずその身体を鍛えている……と言う事は一目瞭然だった。
「担ぎ上げて悪いねサイキ!でも今は民間人としてエアロックに行ってな!!アタイ達はアンタのパパと一仕事だ。」
「なーに!!大丈夫だ。俺とお前のパパ、そしてこの凶暴なドロシーが居れば、このコロニーはなんの心配もない!!」
そう言ってドーガスが手に取ったのは、真っ黒いタイタン用ヘルメットだった。
「ドロシーお前のタイタンはハンガーまでは俺が持って行く……サイキをエアロックに誘導したらコンテナに行け!起動準備はさせておく」
「はいよグレゴリ隊長!ちょっくら……隊長自慢のかわい子ちゃんを特等席にご案内して来るよ!」
この日初めて義父グレゴリの職業が分かった……死んだ父と同じ人型兵器タイタンの乗り手だったのだ。
◆◇
『タイタンのコンテナを射出キャリーに固定中、パイロットはスーツを着てハンガーで待機。繰り返す…………』
エアロックに居ながらも、外の音は聞き取れる。
完全に密閉されていない証拠だ。
今はまだ宇宙空間に射出される事はないので、国際人道法に則りエアロックに待機させられているだけだ。
しかし前の経験からして、連邦軍にそれを守る意思は微塵も感じられないが……
『お義父さん……大丈夫かな……』
短く心の中でそう呟く……何故なら『もう今更一人は嫌』なのだ。
『ゼイク指揮官型A装備タイタン射出準備完了、ゼイク強襲型B装備射出準備完了、ゼイク爆撃型機B装備射出準備完了。パイロットオーバー』
そうアナウンスが流れると聞き慣れた声がする……
「グレゴリ機射出経路確認。ゼイク指揮官型……出るぞ!!ドロシーは爆撃機で支援に徹しろ。ドーガスは俺と連携を。いいか相手は連邦のくそだ。39番コロニーの弔いをするぞ!」
「はいよ!隊長。ってか……出たら電磁砲撹乱粒子の散布を忘れないでおくれよ?戦艦の艦砲射撃は面倒だからね!」
「ドロシー!このドーガス様に任せときな。対電磁砲濃密度チャフランチャーは既に両手持ちさ!」
「アンタだから信用できないんだよ。せめてレイモンドだったらね‥‥デイジーとは言わないから……」
「ドロシーにドーガス、無駄話はおしまいだ。あの二人も例の任務さえ終われば、すぐに合流する!今は仕事で箱を搬送中だ。市民が犠牲になる前に行くぞ!!」
「「おう!!」」
喧嘩していた時に見せる顔より遥かに力強く、そして迫力を感じる……
『本当に自分の義父、グレゴリなの?』そう思える程、義父の言葉は心に響くものだった。