6ターン目:転落
【ゲームの流れ】
①参加者は0から100の中から整数を1つ選ぶ。
②目標値=(全員が選んだ数字の平均)×0.8 に最も近い数字を選んだ人が1ポイント獲得。
③ ①②を6ターン繰り返し、最もポイントが高い人が勝利。
④ただし目標値が16以下(16含む)となったらバースト。
そのターンでゲームは終了し、最もポイントが低い人が勝利。
【参加者】
・理想の上司 仏井正蔵(部長)
・とりあえず様子見 流矢重軟(課長)
・ゲーム理論の人 蛇島理人(課長)
・株大好き 桐株金治(課長)
・巻き込まれた若手 若葉萌
【現在までの結果】
ターン 1 2 3 4 5
仏井 35 33 40 40 0
流矢 40 50 50 38 38
蛇島 43 77 33 46 19
桐株 35 60 10 20 30
若葉 30 50 45 25 100
目標値 29 43 28 27 30
仏井 0ポイント
流矢 1ポイント
蛇島 1ポイント
桐株 1ポイント(win!)
若葉 3ポイント
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<Side:仏井正蔵>
(うーん、勝てそうにないなあ)
仏井は自身の点数に少しばかり落ち込んでいた。1ターン目からひたすらポイントを狙い続けていたにもかかわらず得点できず、仕方なくバースト狙いに切り替えたものの時すでに遅し。もはや敗北を待つしかない状況だった。
(悔しいけ仕方ない。若手の彼に花を持たせられたとして満足しよう)
そう思いつつも、仏井は最後のあがきとして0と解答したのだった。
<Side:蛇島理人>
(なんでっ、あなたが得点してんですか!? 桐株さん!)
蛇島は最後の希望を絶たれたことにより思わず内心で語気を荒げた。
彼に残されていた希望とはそう、残りの全ターンを正解して1位に並ぶこと。ライバルは自身と同じ状況の流矢のみのはずであった。
そこに突如割り込んできた桐株。彼にポイントを搔っ攫われたことで、蛇島の勝ちの目は完全に失われてしまったのである。
(あなたはバースト狙いで0を選ぶはずでしょう! なんで30選んでるんですか!?)
<Side:流矢重軟>
(桐株の行動はおかしい。偶然を考慮しても、やはり理屈に合わない)
同じく勝ちの目がついえた流矢の思考は、すでにゲームの振り返りに移っていた。
あいつはこういう戦略だった、これはこういう意図だったのだろう、ここはこうするべきだった等と思い返していく。
だがしかし、先ほどの桐株の得点だけはどうしても腑に落ちなかった。
(奴は0ポイントだった。ポイントで逆転できる点差ではない。バーストしか、天地がひっくり返るような奇跡でも無い限り起こりえないにしても、勝ち筋は残されていなかったはずだ)
ここで得点するという事は最下位ではなくなるという事。最下位でなくなるという事はバースト勝ちが出来なくなるという事。桐株がやった事は、自らの勝利を捨てる行為に他ならなかった。
(一体何を企んでいる?)
<Side:若葉萌>
ほとんどの参加者の意識が過去に向かっている一方で、若葉はゲームの今後の展開について考えていた。
それは、確信した勝利が揺るがない事を確信したかったから。ゆえに自身の認識に穴が無いか慎重に確認していたのである。
(桐株課長が最下位じゃなくなったのはラッキーだ。バーストは最下位が多いほど危険性が増すけど、今はもう仏井部長1人だけ。1人じゃバーストは起こせない)
若葉はすでに100と解答していた。バーストしなければ勝ち。ここで100以外を選ぶ意味などなかった。
(課長3人衆はもう何を選んでも勝てないから実質敗退だ。だから勝負は僕と仏井部長の1対1。でも仏井部長は1人じゃバーストを起こせないから、やっぱり僕の勝利で確定だ。課長が全員0を選ぶような偶然でも起こらない限り)
(……え?)
まるでブレーカーが落ちたかのように、若葉の思考が一時停止した。
(――――――――。)
気づいてしまったのである。その事実を受け入れるために、彼は数秒の時間を必要とした。
(――あああああっ!?)
まるで頭をぶん殴られたかのような衝撃が遅れてやってきた。すぐ目の前にあった決着が一気に遠ざかる感覚。勝利への確信は爆発四散していた。
(やられた! さっきのはこの状況を作り出すためか!)
桐株が得点したことにより、桐株・蛇島・流矢の課長3名は敗退が確定した。そして、若手社員の若葉と仏井部長の決戦という状況となった。
だがしかし、若葉は必ず100を選び、仏井は必ず0を選ぶ。彼らに選択の余地はない。
では何が彼らの勝敗を決定するのか。それは、課長たちが選ぶ数字である。
課長たち全員が0を選べば目標値=16となり仏井部長が勝利する。課長たちの内誰かが1以上を選べば目標値16以上となり若葉が勝利する。
そう、つまりは課長たちの投票で勝者が決まるという状況に追い込まれていたのである。そして、部長と若手どちらが選ばれるのかといえば当然――
(いや待て。課長たちは気づいてるのか!? この事に!)
誰か1人でも1以上を選べば若葉の勝利。勝利の行方がゆだねられていると課長たちが気付いていなければ、若葉の方が圧倒的に有利である。若葉は急いで画面に映った課長たちの顔色を窺った。
(桐株課長はこの状況を作り出した張本人だから当然分かっているとして、残りはどうだ!?)
そもそも課長たちと面識がほぼない若葉には表情から思考を読み取る事はむずかしい。しかしながら追いつめられた若葉には、流矢と蛇島の表情は気づいているように見えて仕方が無かった。
その時、蛇島がボソッと声を発した。
「忠誠心が、試されますねえ」
その言葉に、流矢は腕を組んで目を閉じ、桐株は微笑み、仏井は首を傾げた。
(あ、負けたかも)
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コロナ禍により働き方は大きく変わった。業務時間外の仕事は特に。
例えば飲み会。今ではオンライン飲み会が主流であり、飲食物は各自で用意する場合が多い。しかしコロナ禍以前は居酒屋で行われ、上司の隣の席になってしまった者は酌を継ぎながら話相手にならなければならなかった。
例えばゴルフ。今では機会が減ってしまったが、コロナ禍以前は休日に上司のゴルフに付き合う事も仕事の内であった。
そして上司とのゴルフにおいて、ある暗黙のルールが存在した。それは、上司に勝ってはならないという事。点数を競い合うスポーツでありながら、その内容は接待に他ならなかった。
『ついに最終結果発表のお時間となりました。泣いても笑っても、これで最後。今宵のデスゲーム、果たして勝利は誰の手に輝くのでしょうか。運命の結果は……こちら!』
業務外での上司との付き合いは常に接待。ゆえに、このデスゲームの結果は――