5ターン目:企み
【ゲームの流れ】
①参加者は0から100の中から整数を1つ選ぶ。
②目標値=(全員が選んだ数字の平均)×0.8 に最も近い数字を選んだ人が1ポイント獲得。
③ ①②を6ターン繰り返し、最もポイントが高い人が勝利。
④ただし目標値が16以下(16含む)となったらバースト。
そのターンでゲームは終了し、最もポイントが低い人が勝利。
【参加者】
・理想の上司 仏井正蔵(部長)
・とりあえず様子見 流矢重軟(課長)
・ゲーム理論の人 蛇島理人(課長)
・株大好き 桐株金治(課長)
・巻き込まれた若手 若葉萌
【現在までの結果】
ターン 1 2 3 4
仏井 35 33 40 40
流矢 40 50 50 38
蛇島 43 77 33 46
桐株 35 60 10 20
若葉 30 50 45 25
目標値 29 43 28 27
仏井 0ポイント
流矢 1ポイント
蛇島 1ポイント
桐株 0ポイント
若葉 3ポイント(win!)
=======================
<Side:若葉萌>
「よしっ!」
3ポイント目を獲得した若葉はガッツポーズをした。マイクがオンのままなのを忘れて思わず声に出してしまったほどだ。勝ち確という言葉が脳をよぎりまくっている。
飲みの席とは言え若手が上司を出し抜いて勝ってしまってよいのかという考えも無くは無いが、今さらである。というかゴルフならいざ知らず、このゲームの場合はうっかり勝ってしまうこともあり得るため問題ないというのが彼の見解だった。何より製品開発部はその辺結構緩かった。
(残り2ターン。僕が選ぶ数字はもう決まっている)
解答時間がまだ残っているにもかかわらず、若葉はゲームマスターに100と解答した。
(もうポイントはいらない。警戒するべきはバーストだけだ)
バーストの基準は目標値16。平均に直すと20である。これは、5人が選んだ数字の合計が100以下ならバーストすることを意味する。
逆に言えば、若葉が100を選んだ以上、残り4人の内誰か1人でも1以上を選べばバーストしないという事になる。
そして、現在バーストを狙っているのは0ポイントの仏井と桐株のみ。ポイントを得てしまった流矢・蛇島は逆転のために数字を当てなければならない。確実に1以上を選ぶためバーストは起こりえない。
(あとは消化試合。僕が100を選び続ければゲーム終了。僕の勝ちだ)
<Side:桐株金治>
(やられましたね。若葉君の勝利が確定してしまいました)
桐株は無意識に眉間をつまんだ。彼のポイントは0。バースト狙いの立ち回り自体はうまく行っていたものの、想定外の行動をとる参加者が多かった為最下位戦略は失敗に終わっていた。
桐株が予測する今後のゲームの展開はこうだ。
ターン 1 2 3 4 5 6
仏井 35 33 40 40 0 0
流矢 40 50 50 38 24 24
蛇島 43 77 33 46 24 24
桐株 35 60 10 20 0 0
若葉 30 50 45 25 100 100
目標値 29 43 28 27 24 24
仏井 0ポイント
流矢 3ポイント
蛇島 3ポイント
桐株 0ポイント
若葉 3ポイント
バーストで逆転したい仏井・桐株は0を選び、バーストしたくない若葉は100を選ぶ。ゲームが佳境に入ったことで、各人の取るであろう行動は分かりやいものとなっていた。
残りの流矢・蛇島が得点するためには24が最適解となる。最適解を選び続けられれば1位に追い付くことはまだ可能だ。
(私はもう勝ち目は無いですし、ただ0を選んで負けを待つのもつまらないですね)
どうせ負けるならかき乱せるだけかき乱して負けよう、と自暴自棄ともとれる考えに至る桐株。勝利をあきらめた彼は、勝利以外に目的を見出そうとしていた。
(私も100とか選んでみましょうか? いえ、あまり効果は無いですね。流矢君か蛇島君が得点して終わりです。なら私も得点して課長同士の2位争いに持ち込む? 悪くないですが、1位が確定した状態での2位争いってなんだか盛り上がりに欠け……ん? 課長?)
その時、桐株の脳内に電流が走った。
思いついてしまったのである。愉悦的企みを。参加者達の精神を大きく揺さぶる一手を。
何度も展開をシミュレートし、実現可能か確認する桐株。
(行けなくはないですね。最大の壁は、私が得点できるかどうかですが……)
仮に他の参加者が選ぶ数字が桐株の想定通りだった場合を考えよう。得点表は以下の通りだ。
ターン 5
仏井 0
流矢 24
蛇島 24
桐株 ?
若葉 100
目標値 ?
この時、桐株が得点するために選ぶべき数字は、以下の方程式で算出される。
0.8×(148+x)/5 = x ⇒ x = 28.2
よって桐株が次に選ぶべき数字は28となる。流矢・蛇島が24を選ぶという想定も類似の式で算出された値だ。
(もしかしたら24を選ばない可能性もありますし、すこし幅を持たせて30にしますか)
ドキドキしながら30と解答する桐株。ここで得点できるかどうかが彼の企みの実現に大きく関わっていた。
その結果は――
『はいドーン!』
ターン 1 2 3 4 5
仏井 35 33 40 40 0
流矢 40 50 50 38 38
蛇島 43 77 33 46 19
桐株 35 60 10 20 30
若葉 30 50 45 25 100
目標値 29 43 28 27 30
仏井 0ポイント
流矢 1ポイント
蛇島 1ポイント
桐株 1ポイント(win!)
若葉 3ポイント
まるで天が後押しするかのように、ドンピシャで数字を的中させ、桐株はポイントを獲得していた。