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2ターン目:驚愕

【ゲームの流れ】

①参加者は0から100の中から整数を1つ選ぶ。

②目標値=(全員が選んだ数字の平均)×0.8 に最も近い数字を選んだ人が1ポイント獲得。

③ ①②を6ターン繰り返し、最もポイントが高い人が勝利。

④ただし目標値が16以下(16含む)となったらバースト。

 そのターンでゲームは終了し、最もポイントが低い人が勝利。



【現在までの結果】


ターン 1

仏井  35

流矢  40

蛇島  43

桐株  35

若葉  30

目標値 29


仏井 0ポイント

流矢 0ポイント

蛇島 0ポイント

桐株 0ポイント

若葉 1ポイント(win!)



=======================


<Side:流矢重軟>


 流矢重軟は1ターン目の結果を見てうんうんとうなずいた。


(やはり、何事も一度やってみなければ感覚は掴めない)


 内心でそう自分の考えを肯定する流矢。


 近年急速に発達した人工知能の産業ロボットへの活用を担うAI技術課の課長を務める彼は、参加者の誰よりも「学習」を重視していた。


 ゆえに彼は1ターン目は様子見に徹することにした。奇をてらう事無く平均が50となると仮定し、0.8倍の40を選んだのである。


 本番は2ターン目から。彼は1ターン目の結果を踏まえて柔軟に行動すると決めていた。


(予想通りほとんどが40以下を選んだ。問題は蛇島だ。なぜ奴は43を選んだ?)


 相手が選ぶ数字を予想するこのゲームにおいて、相手の考えが読めない事は大きなハンデとなる。ゆえに流矢はセオリーを無視した蛇島に対して警戒心を抱いていた。




<Side:桐株金治>


(おっと、外してしまいましたか)


 桐株金治もまた、1ターン目の結果次第でその後の戦略を変えるという戦略だった。


(ではプランBで)


 彼は産業ロボットの電子基板およびソフトウェアの設計を担当する電気電子課の課長である。趣味は資産運用。つまりは株。


 コロナ禍初期に低迷を極めた自社株を買いあさり、その後の経済復興による株価回復で7桁に届くかという利益をたたき出した男、桐株金治。彼からすればこのゲームは、自身の得意分野であった。


(他人の行動に伴う数字の上下を予想するという点で、このゲームは株取引との共通点が多いですね)


 株価が上昇すると思えば購入し、下落すると思えば売り払う。その判断を複数の人間がそれぞれに行い、結果として株価が変動する。その構造は、彼にはこのゲームと酷似しているように感じられた。


(むしろ他人の選んだ数字が公表される分、このゲームは株よりも予測の手がかりが多いですね)


 桐株金治は、他の参加者が選んだ数字をじっくりと眺めていった。




<Side:蛇島理人>


(このゲーム、まず間違いなく私が有利)


 蛇島理人は心の中でそうほくそ笑んだ。


 彼は産業ロボットの肉体担当、機械課の課長である。ハードウェア、駆動系、ロボティクス、そんな技術分野を専門とする部署のトップにもかかわらず、彼はゲーム理論を得意としていた。


 ゲーム理論とは端的に言えば、複数のプレイヤーが行動する中で、どのように行動すれば自身の利益を最大にできるかを考察する学問である。


(懐かしいですねえ。学生時代の研究を思い出します)


 蛇島理人の大学時代の研究テーマ、それは「繰り返し囚人のジレンマ」。詳細は割愛するが、同じルールのゲームを複数回繰り返す場合の最適な戦略とは何かという研究である。


(このゲームは同じルールのゲームを6回繰り返すというもの。重要なのは得点を積み重ねる事ではなく、最後に勝利できるかどうかなのですよ)


 彼が1ターン目に選んだ数字は43。平均が50を超えると予想していなければまず選ぶことが無い数字である。一体それが意味する所はなんなのか。


(私が次に選ぶ数字は……これです!)


 彼は意気揚々と次の数字を選んだ。




<Side:仏井正蔵>


(ほー、このゲーム面白いなぁ)


 仏井正蔵は素直にこのゲームを楽しんでいた。


 彼は製品開発部の部長、すなわちこの飲み会の出席者の中で最も偉い人物である。部下がミスをした時はやさしく励まし、部下の成果はきちんと褒め、部下の意見には真摯に耳を傾ける彼は、平社員が考える典型的な理想の上司そのものであった。


(35でも大きいなら、もう少し下げないとなあ)


 目標値は5人が選んだ数字の平均を0.8倍した値。平均が50なら目標値は40、平均が40なら目標値は32、平均が32なら目標値は25.6となる。


 ゆえに目標値を当てるためには、5人が選ぶ数字の平均を予想して、それより少し小さい数字を選ぶ必要がある。1ターン目の目標値は29。全員が次に選ぶ数字をそれに寄せた場合、目標値は前より小さくなるはずなのであるが……


(蛇島君とか桐株君あたりは変な事しそうなんだよね。性格的に)


 理屈でいえば、目標値は前のターンより下がるはず。しかし部下を管理する立場ゆえか、仏井は数字ではなく人を見て、そうならない可能性があるのかを考えた。


(とはいえやっぱり下がる気するしなあ。じゃあ2つ減らして33くらいにするかあ)


 どこかワクワクしながらゲームマスターに解答する仏井。おそらく彼は、参加者の中で最も素直にゲームを楽しんでいた。




 そして、結果発表へ。


『えー、それでは時間になりましたので、結果の方発表してまいります。こちらです。どーぞ!』


 画面に表示される結果。



   ざわ……

             ざわ……



 会場がどよめいた。なぜならその結果が、あまりにも意外なものであったからだ。




ターン 1  2

仏井  35 33

流矢  40 50

蛇島  43 77

桐株  35 60

若葉  30 50

目標値 29 43


仏井 0ポイント

流矢 1ポイント(win!)

蛇島 0ポイント

桐株 0ポイント

若葉 2ポイント(win!)




 目標値、まさかの急上昇。


「えー、なんでえ!?」


 仏井の驚愕がスピーカーから流れた。

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