1ターン目:王道
【ゲームの流れ】
①参加者は0から100の中から整数を1つ選ぶ。
②目標値=(全員が選んだ数字の平均)×0.8 に最も近い数字を選んだ人が1ポイント獲得。
③ ①②を6ターン繰り返し、最もポイントが高い人が勝利。
④ただし目標値が16以下(16含む)となったらバースト。
そのターンでゲームは終了し、最もポイントが低い人が勝利。
【参加者】
・製品開発部 部長 仏井正蔵
・製品開発部 AI技術課 課長 流矢重軟
・製品開発部 機械課 課長 蛇島理人
・製品開発部 電気電子課 課長 桐株金治
・製品開発部 計測技術課 若葉萌
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<Side:若葉萌>
(なんか変な事に巻き込まれた……)
若葉萌は内心でそうため息をついた。
彼は入社2年目の若手社員。対して他の参加者は課長と部長。あまりにも場違いな彼がゲームに参加することになったのには理由があった。
本来参加するはずだった計測技術課の課長、伊藤茂が急用で欠席することになり、課長から代理に選ばれてしまったのである。
一体どういう理由で数ある部下の中から若葉を代理に選んだのか。
“まあまあ、所詮飲み会の席だから気楽にやってくれ、計測課代表として”
伊藤課長の言葉が脳裏をよぎる。そう、製品開発部には4つの課がある。そして参加者は部長と各課の課長。このゲームはつまり、部署対抗戦という建付けとなっていた。
(ま、やれるだけやってみるか)
気を引きしめた若葉は画面を確認した。画面にはパワポ1枚にまとめられたルールと制限時間のタイマー、そしてゲームの進行表が表示されている。
進行表はエクセルで作成されており、参加者の名前とターン数が書かれていた。ターンが進むごとにゲームマスターが結果を入力していくのだろう。
つまり、参加者はルールと過去の結果と残り時間を確認しながら次の数字を選ぶ事が出来るという事だ。わざわざデスゲームの演出をしたりと、随分と手が込んでいる。
では肝心のゲームのクオリティはどうかというと、
(ルールはシンプルなのに、意外と奥深い。……気がする)
参加者がやる事は単純。数字を選ぶだけ。問題はどの数字を選ぶかであるが、
(仮に平均が50になるとして、目標値は50×0.8=40。でもじゃあ40を選べばいいかと言えば、そうでもない)
若葉は他の参加者の事を考えた。とはいえ若手の彼が業務でよその部署と関わることはほとんどなく、自分よりも人生経験が豊富な人達といった程度の認識であるが。
(もし全員同じ考えで40を選んだ場合、目標値はさらに0.8倍して32となる。でもさらに全員同じ考えで32を選ぶとすると、目標値はさらに0.8倍して25.6。もしかしたらもっと小さい数字を選んでくるかもしれない)
そう、このゲームのポイントは平均値を0.8倍するという部分にある。相手の考えを読めば読むほど選ぶべき目標値はどんどん小さくなるのだ。
簡単に言えば、他人が選ぶ数字の平均を予想して、それよりちょっと小さい数字を選べばよい。
しかしルール④の存在が、ゲームを一気に難しくしていた。
④ただし目標値が16以下(16含む)となったらバースト。
そのターンでゲームは終了し、最もポイントが低い人が勝利。
(目標値16って事は、平均20以下でバーストって事だな。20以下を選ぶのは勇気がいるな)
このゲームは1ターン目で終了する場合もある。いきなり目標値が16以下となった場合だ。その場合、1ターン目で得点しなかった者達が勝者となる。
(20以下を選んでポイントを狙うのはリスクが高い。じゃあ20いくつかの数字を選ぶべきか?)
ここで若葉萌の思考は最初に戻った。結局他の参加者が選ぶ数字は何なのか。
(小さめの数字を選べばいいって事は全員理解してるはずだけど……いきなり30以下を選んだりするのか?)
全員がギリギリの数字を攻めてくるとは若葉には思えなかった。中には様子見で40を選ぶ人もいるかもしれない。
(極端な数字は避けるか。32よりちょい下……30くらい?)
そうこうしている内に制限時間が迫っていた。若葉はゲームマスターへのチャット欄に、30と回答したのだった。
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『えー、それでは結果を発表いたします。1ターン目の結果はこちら!』
ターン 1
仏井 35
流矢 40
蛇島 43
桐株 35
若葉 30
目標値 29
仏井 0ポイント
流矢 0ポイント
蛇島 0ポイント
桐株 0ポイント
若葉 1ポイント(win!)
ライバルは課長と部長。それも製品開発部という理系人間の巣窟の課長と部長である。そこに迷い込んだ1匹の若手社員、若葉萌。
果たして彼は巻き込まれ系主人公となれるのか、はたまた被害者担当のモブと化すのか。
この時は、それを知る者はまだ誰もいない。
各人が選んだ数字は本作すべて実話通りです