プロローグ
全8話。完結済み
『参加者5名を発表する前に、まずゲームの流れについてご説明いたします。
①参加者は0から100の中から、整数を1つ選びます。
この時、全員が数字を選び終えるまで、何を選んだか他の方には秘密にしてください。
②(全員が選んだ数字の平均)×0.8 を算出します。これを目標値と呼びます。
目標値に最も近い数字を選んだ方が1ポイント獲得します。
この時、全員が選んだ数字も公開されます。
例)
Aさん:30
Bさん:40
Cさん:50
Dさん:60
Eさん:70
目標値 = 平均50×0.8 = 40
⇒ Bさん1ポイント獲得
③これを6ターン繰り返し、最もポイントが高い方が勝利となります。
④ただし、目標値が16以下(16含む)となったらバースト。
そのターンでゲームは終了し、最もポイントが低い方が勝利となります』
『続いて参加者をご紹介いたします。
1人目 製品開発部 部長 仏井正蔵さん
2人目 製品開発部 AI技術課 課長 流矢重軟さん
3人目 製品開発部 機械課 課長 蛇島理人さん
4人目 製品開発部 電気電子課 課長 桐株金治さん
5人目 製品開発部 計測技術課 若葉萌さん
以上の5名が参加者となります。
なお計測技術課からは課長の伊藤茂さんが参加予定でしたが、急用により不参加ということで、代理として新人の若葉さんが参加されるとのことです』
『参加者以外の皆様はぜひ、ご自身ならどの数字を選ぶのか考えながらご観覧いただければと存じます』
『それではさっそく、1ターン目開始です』
『なお選んだ数字は個人チャットで源まで送ってください。解答は制限時間1分といたします』
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2022年3月某日、とある産業ロボットメーカーの製品開発部で飲み会が開催された。
参加者は数十人。時代はコロナ禍。感染予防の観点からオンラインでの開催である。
その飲み会には某Web会議サービスが活用されていた。数百人規模でのビデオ通話が可能で、さらにチャット機能やPCの画面を他人に共有する機能などが備わっている。リモートワークが増えたことにより、その会社の会議でもよく使用されていた。
会議であれば同時に話すのは一人か二人。しかし今回は飲み会。数十人が一斉に話せば誰が何をしゃべったのか聞き分けられなくなる。そのためこの飲み会では各自が思い思いに話せるよう、十人ずつ個別の会議室に分かれて歓談していた。
そして酔いが程よく回ってきたころ、イベントを行うから専用のチャンネルに集まるようにと幹事から連絡が来た。
なんだなんだとチャンネルを移動した参加者達。そのチャンネルの画面には、
『準備中。カメラをオフにしてお待ちください』
と表示されていた。
「前みたいにお絵描き伝言ゲームでもするのかしら」
誰かがそんな事を言った。オンライン飲み会が主流になってからはお絵描きや言葉遊び系のゲームをイベントとして行う事が増えたのだ。今回のイベントもそんなユルい感じのお遊びだろう。この時はまだ、誰もがそう思っていた。
おもむろに画面が変わった。『準備中』の表示が誰かのカメラ映像に切り替わったのだ。
ざわ……
ざわ……
それまでの呑気な空気が一変した。
カメラ映像の右下にユーザー名が表示されている。そこには間違いなく飲み会の幹事を務める若手社員、源の名前が表示されていた。しかし、画面に映っていたのは、源の顔ではなかった。
黒のスーツ。深紅のネクタイ。そして不気味な怪物の仮面。そんないでたちの男が暗い部屋でカメラに写っていた。
おそらくPCの画面から発せられたであろうわずかな光だけが、その男をうっすらと照らしている。
あまりにも非日常感を漂わせる光景。思いもよらずそんな光景を目の当たりにした飲み会出席者たちは、
「……ぷっ」
「くすっ」
「まじか!」
「デスゲームだw デスゲーム始まったw」
「そのお面どこで買ったんですかぁ?」
普通に沸いた。若い社員は特に。
『私の名はジグザグ。私とゲームをしよう』
「源君今週の少年ジャンプ読んだ?」
『……読みました』
仮面の男、もといジグザグ、もとい源がゲームを進行しようするも、茶々を入れられて発言の主導権を奪われる始末。
その後もゲームマスターのロールプレイを続けようとした源であったが、延々といじられあえなく断念。
『あの、時間も押してますんで、そろそろルールの説明に移らせてください』
結局ロールプレイをあきらめた源は、それでも意地なのかマスクは外さず、そのせいで仮装感満載でルール説明に入ったのだった。
そして冒頭に戻る。
こうして、若手社員が会社の飲み会で上司にデスゲームをさせるという珍事件が幕を上げたのであった。
ちなみに仮面は100均のパーティーグッズコーナーで買いました。