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なぜか中学で俺をイジメてた女の内の一人が高校では落ちぶれてる上に、今更謝って来たんだが

「――ね、川田ってキモくない?」


「あー分かる、いつ見ても一人で居るし。何考えてんだろ」


「つか、喋ってるとこ見た事ないかも」


「それな。……うわ、こっち見た!キモ!」


「何か今、茜の方見てなかった?もしかして知り合いなの?」


「……ううん」


「だよねー。もしかして、ストーカーされてたりして?」


「後ろ見たら居るみたいな?こわっ!」


「あははっ、気ぃつけなよ茜ー」


「……うん」




 ☆





 そいつを見つけたのは高校二年の春だった。


 新しい教室で、一年の頃に出来た友人達と同じクラスになった事を喜び合っていた時、ふと黒板に貼り出された席順表が目に止まった。


 そこに書かれていた名前――北見という名前は俺にとっては忌々しいものだったからだ。


「はーい、座ってくださーい」


 これから担任となる教師が出した着席の指示。友人と別れ自分の席へと向かう途中、俺は確かにその顔を見た。


「……!」


 俺が通り過ぎる寸前、先に座っていたそいつは顔を伏せた。だけど見えてしまった。


 中学の頃とはかなり印象が違うが、その顔はあの北見茜そのものだった。





 ☆




「なあ」


「!」


 その日の放課後、俺は友人達との会話を適当に切り上げながら教室を出て、廊下を歩き下校しようとしているそいつに話しかけた。


「北見だよな?ほら、中学で一緒だった川田だよ。覚えてる?この学校だったんだな」


「ぁ……」


「……まあ良いや。ちょっと話さないか?聞きたい事がある」


 目の前の北見は俺の知っている北見とはかけ離れていた。


 正面から逸らした目線、喋ってるのか喋っていないのか分からない曖昧な口の動き。あの頃のこいつはこんなに挙動不審じゃなかったし、受け答えもハッキリしていた。


 今までクラスは違うとはいえ同じ学校だったこいつを北見だと気がつかなかったのはそのせいだろう。


「何か雰囲気変わった?メガネなんてかけてなかったし、もっと明るかったよな。何かあったの?」 


 中学二年、当時の北見はクラスの中心、常に騒がしいある女子グループの中に居た。


 そのグループでは教師やクラス内の生徒に対する愚痴や悪口を言うのは当たり前で、相手に聞こえるようにわざと声を大きくしてた事もザラだった。


 そして、主にその標的に選ばれたのが俺だ。


「俺は頑張ったよ。見違えただろ?色々と努力したんだ」


 高校入学と同時に俺はそれまでの自分を捨てた。まともな社交性を身に付けようと奮起し、友人作りを積極的に行った。


 その甲斐あって、高校生活の滑り出しは充実した一年だった。


「……」


「……なんか言ったら?」


「っ……」


 何というか、拍子抜けだった。自分を変えたいという想いの大元は多分こいつやあいつらに対する憎しみ、見返してやりたいという気持ちだったからだ。


 だが今のところ、北見は何故か挙動不審な目で俺を見るだけ。あの頃と比べれば見る影も無い。


 理由は分からない。だが、目の前の濁った目と陰鬱な雰囲気は昔良く鏡で見た自分の姿とそっくりのように見えた。


「何があったか知んないけどさ。……あー、もういいや」


 俺がそう言うと、北見はゆっくりと顔を伏せた。そのまま口を開こうとしない北見を見ていると、今までずっと奥底で溜まっていた何かが急激に萎んでいくように感じた。


 そのまま何の反応も無い北見の横を通り抜けた時、俺は何とも言えない気持ちのままに両手を伸ばした。


「ああ、なんかスッキリした」






 ☆





 それはその翌日、購買で昼食を買いに行こうとする途中の事。


「あ、あの」


「……何?」


 購買付近の騒がしい廊下を抜け、渡り廊下を歩く俺の後ろから声をかけてきたのは紛れも無い北見茜だった。


 弁当らしき白い包みを持って、無理に笑顔を作ろうとして引きつっているような顔を俺に向けている。


「……」


「いや、ほんと何?何で話しかけてくるの?」


 昨日のやりとりでの北見はなぜ俺が嫌味な態度を取るのかが分かっている様子だった。嫌われている事が分かったのであれば普通は話しかけてこないだろう。


「……あ」


「あ?」


「謝り、たくて」


「……いや、もう良いよ別に。俺はもう――」


「ごっ、ごめんなさい!」


 俺の言葉に割り込んで、北見は今までとは比にならない声でそう言った。


「ちょ、お前何を……」


「ごめんなさい!ごめんなさい!」


 土下座でもしそうな勢いだった。ひたすらに北見は謝罪の言葉を叫び続ける。


「何あれ」


「一年生?」


 校舎に比べて人の少ない渡り廊下とはいえ、こんなの目立つに決まってる。


「ごめんなさ――」


「っ来い!」


「あっ」


 俺は咄嗟に北見の腕を掴んで駆け出していた。人の居ない場所を求めて向かった先は校舎の裏だった。


 人気は無く、日陰に隠れるように古びたベンチが一つ設置されている場所。そこまで歩いて俺は北見の腕を離した。


「はあ、はあ……何考えてんだよお前……」


「ご、ごめんなさい」


「良いって……」


 本当に何を考えてるのか分からない。挙動不審にも程がある。


「もう気は済んだだろ。ほら、俺はここで休んでくから教室行けよ」


「ぁ」


「え、まだ何かあんの?」


「お昼、ご飯を……」


「……はあぁぁ?」


 意図は読み取れた。北見が手に持つ弁当が揺れる。


「何、俺と昼飯食う気?」


「……」


「何なんだよお前……」


 北見は俺の質問に対して小さくだが確かに頷いた。意味が分からない。ふらつくような感覚と一緒に俺はベンチに腰を下ろす。


「……あのさ、もう気にしてないったって一応は――」


 拒絶の言葉をぶつけようとした最中、俺はそれを中断した。


 気にしていない。そうだ、俺はもう過去には囚われない。昨日北見と対面した後に俺はそう決心した。


 だったら、別に仲良くすれば良いじゃないか。むしろそれが出来てこそ過去を乗り越えたと言えるんじゃないか。


 それに。


『私、北見茜!よろしくね!……えーっと、川田君!』


「……座れよ」


「!」


 横を示してそう言うと北見はそそくさと腰を下ろした。スマホを取り出して教室の友人に断りのメッセージを送る。


 その際に見えた小さな笑顔は少し歪んではいるが、確かに俺が初めて見た北見の笑顔そのものだった。





 ☆




「……」


「……」


 食事を続けながら、互いに無言の時間が続く。北見はそれを苦とは思っていないのか箸を運び続けている。


「何で俺と昼飯食おうなんて思ったんだよ」


「え……」


「普通思わないし、思っても誘わないだろ」


「な、仲良くなりたかったから」


「……はあ」


 何かがズレている。北見は謝りたいと言って実際に謝罪自体はした。つまり罪の意識は多少なりともあるという事だ。


 そこからが分からない。何でそんな相手をわざわざ昼飯に誘うのか。気まずいとか関わり合いたくないと思うのが普通だ。


「まあ、良いよ」


 北見に何があったのか、何を考えているのか。誘いを断らなかったのはそれを聞きたかったというのがある。


 ただ、今の北見との会話は酷く疲れる。直接聞くより誰かから聞いた方が早そうだ。それに多分北見がこうなった原因は愉快なものじゃない。


「……」


 何が楽しいのか、北見は嬉しそうに食事を続けている。


 過去を問い詰める事でその顔が歪むのは嫌だと、少しだけ思ってしまった。






 ☆





「北見?知ってるっちゃ知ってるけど」


 昼休みとその後の授業が終わった放課後、俺は友人の一人である佐久間に声をかけた。一年の頃、佐久間は俺とは別クラスだった事から聞いてみたが当たりのようだ。


「北見……北見なあ」


「一年の時からあんな感じだったのか?」


「おう、つってもあんま覚えてねえわ。授業で当てられた時以外に喋ってるとこ見た事ないし」


「そうか……」


「え、北見の事気になんの?」


「……お前さ、いきなり殴りかかって来たヤツが後から謝ってきてさ、その後すぐにメシに誘ってきたらどうする?」


「いや行かねえよ。気まずすぎるわ。すぐ誘うのもおかしいだろ」


「だよな」


 佐久間は教科書を鞄の中に放り込みながら怪訝そう顔をした。後ろにある北見の席を覗いているがそこに北見の姿は無い。


「北見となんかあったんか?」


「中学が同じだった。で、ちょっとな」


「ふーん」


 佐久間は中学時代の俺が今と全く違う事を知らない。


 そもそも俺は環境を完全に変える為に中学からはかなり離れた位置にあるこの高校をわざわざ進学先として選んだ。


 一年の頃、クラスが違う上に雰囲気も変わっているとはいえ、北見がこの高校に居る事に気が付かなかったのはそのせいでもある。そして、そこまで考えてふと疑問に思った。


 なぜ北見がこの高校に居る?今までは勝手に偶然で済ましていたが、これは本当に偶然なのか?そんな疑問。


「で、どうすんの?」


「何が?」


「昼飯食ったんだろ?一緒に」


「……バレるか」


「そりゃな」


 昼食時にメッセージを送った相手が佐久間だ。流石にバレる。


「そんな気まずい昼飯を断らなかったって事は仲良くなりたいって気持ちがあったんだろ?」


「いや……なんつーか、そういうのを気にせずメシぐらい食えないと過去を乗り越えたと言えないみたいな……意地だったんだよ」


「なんだそれ。言い訳っぽいぞ」


「そうか?」


「普通はそういう相手って二度と関わり合いたくないもんだろ」


 佐久間の言葉は意外と素直に受け取る事が出来た。北見やアイツらを憎むような気持ちはまだ少しある。北見と関わり合う事に対する抵抗感も。


『な、仲良くなりたかったから』


 ただ、終わってみれば今日のあの時間は悪くなかったと、思ってしまった自分が居るのも事実だった。


「ま、したいなら仲良くしてみれば良いんじゃね。昼飯なら俺は他のヤツと食うから別に気にすんなよ」


「……おう」




 ☆




 佐久間の言葉はなぜか深く刺さった。意地だの何だのは言い訳で、俺が北見に歩み寄りたい……許してしまいたいだけだと。


「あの」


 次の日も北見は俺を昼食に誘った。なぜか昨日よりも大きい白の包みを手に、何かを決心したかのような大げさな仕草で。


 俺はその誘いを受けた。場所は昨日と同じベンチ。そこが良いと思った。


 そしてそこで俺は、北見の意味不明さを舐めていた事に気付かされた。


「お、お弁当。昨日みたいに、パンだけじゃ少ないかなって」


 昨日より大きい包みの中からもう一つ弁当箱を取り出して、北見はそれを差し出してきた。


 訳が分からなかった。弁当を作ってくるなんて事前の会話は無かった。今日の俺のメシの内容も伝えていない。そもそも俺達はそんな関係じゃない。何かがおかしい。


 卑屈な目と態度。そこにあるのは分かりやすい程の謝意。昨日のごめんなさいの続きだ。

 それら全てが歪に見えて、俺は。


「意味分かんねえよ、お前。なんか勘違いしてんじゃねえの……」


 思わず拒絶の言葉を吐き出して、その場から立ち去ってしまった。





 ☆





「……あー」


 折角の休みなのに寝覚めは最悪だった。夢で見たのは昨日の光景。去り際に見た、俯いたまま動こうとしない北見の姿。


 あの後、北見は教室に戻ってこなかった。担任の教師は早退したと言っていた。


 どう考えても、俺のせいだった。


「分かんねえよ……あいつ」


 あの状況でいきなり弁当持ってきたなんて言われてドン引かないヤツは居ない。俺の反応は別に間違いじゃない筈だ。北見が予想以上に訳の分からない行動をしたせいだ。


「流石におかしい。あんな変な事するヤツじゃなかった」


 この二年間で北見に何があったのか、それが知りたい。といってもそれを知ってそうなのは俺の周りでは北見本人だけだ。


「昔の知り合い……は居ないか……ん」


 スマホが鳴った。友人からの着信だ。


「もしもし、何だ?」


『おー川田!それがさ、この前橋高の女子と遊ぶって言ってたろ?それ今日なんだけど来てくんね?一人ドタキャンしてこのままじゃ男女のバランス悪いんだよ』


「いや、俺に彼女居るってお前知ってんだろ」


『大丈夫だって!三波さんならそれくらい気にしないって!』


「……」


『適当に俺らの事アシストするだけで良いからさー、頼む!』


「……分かった」


『っおっしゃ!じゃあ――』


 友人から場所と時間を聞き、通話を切る。今はあまり考え事をしたくない。少しでも気を紛らわせかった。





 ☆





「はーい!次俺歌いまーす!」


「うえーい」


 友人達と他校の初対面の女子達が騒ぐのに合わせて適当に相槌を打つ。流れ始めたのは流行り過ぎて若干聞き飽きてる曲だ。


 気分を切り替えられるかと思って誘いに乗ったのは良いが、正直あまり意味は無かった。今日はほとんど上の空だった。頭の隅ではずっと昨日の北見の姿と言動が再生され続けている。


「あの」


「……ああ、何?」


 友人の歌声が響く中、目の前に座っていた他校の女子生徒――折田さんが声をかけてきた。俺と同じような経緯で参加しているのか、あまり積極的ではない大人しい人だ。


「北見茜、という名前に聞き覚えが無いでしょうか」


「!」


 驚いた。知ってるも何も、その名前は今俺を悩ませている名前そのものだ。


「……知ってるよ」


「ああ、やっぱり。名前を聞いた時からそうじゃないかと思ってたんです」


「俺の名前?というか、北見を知ってるのか?」


「中学三年生の時に同じクラスでした。……北見さんとは友達、だったと思います」


 という事は俺の知らない間に北見に何が起こったのか、この人は知ってる可能性がある。


 俺は北見と同じ高校に居る事や今日までの出来事を手短に語った。それを終えた時、何故か折田さんは申し訳なさそうな顔をした。


「……北見さんが何でそんな事をしたのか、分かるかもしれません」






 ☆




 四限の終わりを知らせるチャイムが鳴った。教師が授業を締めくくり、教室内がざわめきだす。


『私と北見さんが初めて話したのは三年の夏頃でした。この頃からそれまで仲良くしていたグループの子達と距離を取り始めていたようです』


 それと同時に別のクラスから休日に誘いを送って来た友人がやってきた。あの時の他校の女子の一人と付き合う事になったらしく、上機嫌な様子で礼を言われた。


『そもそも私は引っ込み思案で友達が多くなかった。それが嫌で二年生になったら積極的に周りに声をかけようと努力していた。北見さんはそう言いました。実際にそれで友達は増えたし、仲の良いグループも出来たと』


 そいつの昼食の誘いを断り、俺は一度教室内を見回した後に廊下に出た。


『ただ……そのグループでイジメ紛いの行為が始まってしまった。北見さんは内心ではそれを止めてほしいと思いつつも、自分の立場が無くなるのが怖くて言い出せなかった。そして、三年生になってそれに耐え切れなくなったようなんです』


 階段を降り、購買で食事を買い、渡り廊下を歩く。


『何度か相談されました。後悔している、謝りたい……川田君という名前が出て来たのはその時です。ただ、色々と悩んでいたみたいで中々謝る事が出来ず、冬頃には私との関わりも避けるようになってしまいました』


 向かいの旧校舎の薄暗い廊下を進み、外……校舎裏へ続く道へと出る扉を開き、先に進む。


『北見さんが川田君に具体的に何をしたのか、私には分かりません。……ただ、北見さんが川田君の高校に通っているのは偶然じゃありません。川田君の進学先を何とかして突き止めたんだと思います。北見さんはそれほどまでに川田君に――』


「……」


 北見はそこに居た。日の届かない古びたベンチに座って、俯いてただ黙々と箸を運んでいる。


「今日、朝から教室に居なかったろ」


「……!あっ」


「どこに居たんだ」


「え、あ、ほ、保健室……」


 慌てた様子でそう答える北見の顔は、何となく疲れ果てているように見えた。


「昔の知り合いに聞いた。なあ……わざわざ俺に謝る為にこの高校に来たのか」


「……」


 いきなりの質問に戸惑ってはいるが、北見は否定をしなかった。


 ただ申し訳なさそうに……それでも何かを期待してるような卑屈な顔。


「にしては、お前が中々俺に話しかけなかったのも分かるんだよ。今更自分からコミュニケーション取るのが怖かったんだろ」


 周囲に積極的に関わろうとした、だから結果的に他人を貶すのが日常的なグループに入ってしまった。自分らしくもない働きかけがマイナスに働いた前例があるから、同じ事をしようとしても二の足を踏んでしまう。


「いや、そんなのはどうでも良い。なんで忘れなかったんだよ」


「……」


「なんとなくでも分かってたんだよ!お前が直接、俺をバカにするような事を言ってないってな!仕方無く周囲に同調してただけだって!」


 俺がたまに見た時の北見は、笑ってはいても心底から楽しいようには見えなかった。


「忘れりゃ良かったんだ!感じる必要も無い負い目なんてさっさと!」


 俺はそうした。環境と自分を変えて、昔を忘れようと努めた。

 昔とはまるで違う北見を見かけて、忘れるのではなく乗り越えたいという欲が出てしまった、あの時までは。


「なのに、なんでわざわざ――」


「だって」


 俺の言葉をそうやって遮る北見は笑っていた。涙を薄く流しながら。


「好きなんだもん」




 ☆




「北見さんはあなたの事が好きなんです。ずっと。川田君は二年で出来た初めての友達だと、語る北見さんの顔を見てきっとそうだと思ったんです」


 あの日、折田さんは最後にそう語った。突拍子も無い発言に俺は冗談かと思ったが、折田さんは本気のようだった。


「好きだから謝れない事を引きずって、同じ高校にまで追いかけたんです。好きだからドン底の状態の関係から、謝罪の意味も込めてまた仲良くなりたいと必死に働きかけたんです、多分。やり方はちょっと突飛ですけど……」


 折田さんは本気でも、俺にとって冗談にしか聞こえなかった。


 もし当たってたら応えてあげて下さいと、折田さんは大袈裟に頭を下げながら言った。




 ☆




「……なに泣いてんだよ」


 俺は北見の横に座る。視界が歪んで、思わず目を擦った。


「川田君だって」


「うるさい」


 正直、北見が属していたグループの他の面々自体にはあまり興味が無い。俺が何よりも苦しかったのは北見がそこに居たからだ。


『私、北見茜!よろしくね川田君!あっ!握手しない?ほら、友達の握手!』


 中学二年の春、新しいクラスになって最初に話しかけてきたのは隣の席の北見だった。


『えっ、ノ、ノリがおかしい?……私ね、二年からは友達いっぱい作ろうと思ってるんだ。だから明るくいこうとしてるんだけど……変かな?』


 一年の頃に人間関係で軽い失敗をしていた俺にとって、積極的に話しかけてくれる北見の存在はありがたかった。


『まあでも、川田君はこのクラスになってからの一人目の友達って事で良いかな!良いよね!』


 だからこそ俺は、あのグループに属するまでは北見を大切な友人だと思っていた。


「ほら」


「?」


「友達の握手、だろ。まずは」


 いや。


「!……うん」


 あの時の俺は多分、北見の事が――。

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― 新着の感想 ―
[一言] 彼女がいるのに他の女の子と2人きりで飯食うって、人によってはもう普通に浮気やろ
[一言] 何か設定と描写範囲だけだと高校デビューのイキリ主人公がイキってるだけに見える。
[一言] 続か…ない 残念
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