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魔術師団長の契約結婚  作者: Hk
番外編
20/22

落ち込んだとき

本編後くらいのお話


「お願い! 私の良いところ三つ言って!!」


 言葉の主はブリジットではない。

 同僚のアニーである。


 ブリジットは間髪入れずに答えた。


「いつも明るいでしょう、皆に親切、それから気が利く」


 ここは王宮よりだいぶ離れた繁華街の隅にある料理店。

 珍しくアニーが仕事で失敗したと泣きついてきたので、あまり知り合いの来ない店で彼女の話を聞いているのである。


「即答……、ブリジットありがとう……」

「もっと言いましょうか? 教養がある、家族と仲良し、髪がふわふわで可愛い、好奇心旺盛、情報通、早耳……」

「待って待って、ちょっとずれてきていない?」


 わざと揶揄うようなことを言えばアニーが眉を寄せたので、ブリジットはくすりと笑った。


「大丈夫よ、アニー。大したことじゃなかったんだし、気に病まなくても」

「結果的にはそうだけど……」


 失敗の内容は、書類の送り間違いだったらしい。情報管理の重要な会計監査院では大きな問題になる。

 ただ、送る直前で他の人が気付いたので大事にはならなかったようだ。


 お堅い同僚たちの中では、アニーのようなタイプは異質だが、彼女の仕事ぶりはしっかりしている。

 めったに失敗しないので、たまにこういったことがあると堪えるのだろう。


 『良いところ』を追加して述べようとしたところで、料理が運ばれてきた。赤い陶器の器の中で野菜や魚介が油で煮込まれていて、彩り鮮やかだ。

 それを串で刺しながらブリジットが言う。


「落ち込んだときに人から自分の良いところを言ってもらうのっていいやり方ね。客観的な意見が訊けるから、へこんだ自信が回復しそう」

「相手は選ぶわよ。夫や、自分を絶対褒めてくれる人に訊くもの」

「もちろん、正しい判断だわ」


 

 お喋りしながら食事していたら、アニーはだいぶ元気になったようだった。



 ♦︎



 ──そして家に帰ったら、夫が分かりやすく落ち込んでいた。


「ど、どうなさったんですか、レイ様」


 食卓に肘をつき、顔を手で覆って微動だにしない。ドス黒いオーラが見えそうだ。

 どうやら食事を終えたところらしく、ミランダが食器を片付けている。助けを求めるように目をやれば、彼女は呆れたようにレイを見やった。


「坊ちゃん、お仕事で失敗したらしいんですよ」

「あら」


 ブリジットがレイの隣に腰掛けると、彼は顔をわずかに上げ、大きくため息をついた。


「……遠方で時間をかけて採取した魔法薬の原料がダメになってしまって……」

「まあ。貴重なものだったんですか」

「ええ……、また取りに行けないこともありませんが……」


 レイが話すところによると、複数人数で転移魔法を使い時間をかけて取ってきたものが、保管条件が悪く変質してしまったという。

 再度採取に行くには煩雑な申請手続きが必要になるらしい。


「なるほど……」


 落ち込む気持ちはブリジットにも分かった。

 申請というのは往々にして面倒だし、時間をかけた仕事が無に帰するのは悲しいことだ。


 最後に一つ息を漏らして、レイは顔を上げた。


「ま、落ち込んでも仕方ないです。また行かなきゃいけないのは確定ですからね」


 思わず手が伸びて、ブリジットはレイの頭をよしよしした。

 レイがあからさまに狼狽える。


「なっ……、ブリジット殿……」

「レイ様は偉いですね、真面目にお仕事してらっしゃるし、ちゃんと気持ちの切り替えが出来るし、落ち着いています」

「それはどうも……、えっと……」


 ブリジットはアニーと会ってきたことを話した。落ち込んでいたので、彼女のリクエストで良いところを挙げて励ましてきたのだと。


「なるほど、それで同じように励ましてくださったわけですね」

「レイ様はお嫌でした?」

「とんでもない。むしろもっとお願いします」


 まさかのおかわりを要求されたので、ブリジットは苦笑して考えた。


「えーと、穏やかですし、とても親切です。手先が器用で細かい作業もお得意ですよね。手入れしているお庭はいつも綺麗で、見ていて癒されます。それから周りの人に優しいですし……って、もう言いましたっけ?」


 列挙してレイを見れば、彼はなんだかむずむずしたような顔をしていた。

 照れているようだが、少し意外だ。彼は賛美を受けることが多いだろうに。


「レイ様は人から褒められること多いだろうと思っていましたが」

「いえ、見た目を褒められることは多いのですが、そういった外見の部分が出てこなかったので少し意外だったのと、嬉しかったです……」

「ああ……」


 確かに、レイはミラー家の母から「見た目はいいのに中身はぼんやりしている」と半ば貶されたような言葉で評されていた。

 ブリジットも彼のことをとても美しい人だと思うが、しかし内面だってとても素敵な人だ。


「もちろん、レイ様は外見もとっても素敵ですけど、一緒にいたら性格だって素敵な人だってすぐに分かりますよ」


 胸を張って言えば、レイは先ほどよりは少し晴れやかな顔をして笑った。


「おかげで元気が出ました、ありがとうございます」

「どういたしまして」

「ちなみに、ブリジット殿は失敗したり落ち込んだ時にはどんなことをするんですか?」

「仕事をします」


 即答したブリジットに、レイが「えっ……」と言葉を失う。

 ブリジットは続けた。


「仕事をしますね。仕事での失敗は仕事でしか返せないですからね」

「なるほど……」

「あ、でも……」


 少し考えて、首を傾げた。


「以前だったらきっとそうでしたが、今は落ち込んだら、すぐにおうちに帰ってくるかもしれません。レイ様やみなさんとおしゃべりしていたら元気になりますもの」


 昔は仕事のことばかり考えていたが、この生活になってから少し変わった。家に帰ってレイに会うのが楽しみだし、休日には何をしようか考えている自分がいる。

 これまでも悪くはなかったけれど、家族が出来た今の暮らしはもっと楽しい。


「じゃあブリジット殿が落ち込んだ時には、今度は私があなたの良いところを言って励ましますね」

「ぜひお願いします。たくさん考えておいてください」



 彼はどんなことを挙げてくれるのだろう?

 ブリジットは少し楽しみに思った。




 《 おしまい 》



2023/10/12、コミカライズ単行本1巻発売です!

とっても楽しく、美しく、明るく描いて頂いておりますのでぜひご覧くださいませ!

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― 新着の感想 ―
ほんっと全てのお話のふたりがすこぶる素敵♡ハートフルで、優しくて、あったかくて、ほのぼので。いいとこをいっぱい伝えて元気を充電ってまた、素敵な方法まで、教えてもらっちゃって、ハッピーです。おかげさまで…
[一言] ごっつぁんです。
[良い点] こぉぉの仲良し夫婦め!!ご馳走様です!!
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