82.なりきり師、解放される。
〜四階層〜
「なんか懐かしいなこのエリア。」
「うん。そんなに時間は経ってないはずなんだけどね…。」
久しぶりにやってきた岩場エリア。木がないだけでこんなに視界が開けるもんなんだな…。
まぁ大きい岩とかがあったりして邪魔はされてるけど森エリアより遥かに見やすい。
「さてと、バイホーンゴートを倒しに行きますか!………あっ!」
「どうしたのユウキ?」
「マップ内検索使えないんだった…早く見付けないと普通のホーンゴートがバイホーンゴートに変身しちゃうのに…」
完全に忘れてた…マップ内検索はマッパーしか使えないんだった…
「な、なりきりチェンジ………はぁ、ダメか…」
なんだよ!熟練度後1なんだから少し位オマケしてくれてもいいじゃんか!
「地道に探すしか無いね。でもユウキのマップがおれに見えてるから大丈夫だよ!もう少しだけ我慢してね。」
「ホークぅ…ごめんなぁ!最後の最後まで役立たずで…」
「何勝手に最後にしようとしてんだよ…ここはまだ四階層でダンジョンは終わってねぇぞ!
って事で喜べユウキ。今回はおれが一緒に待っててやるよ!」
「何をどう喜べばいいんですか…?」
「そんな事言うなよ!いくらおれがギルマスだからって傷付くし、悲しいんだぞ……」
「……なら少しは悲しそうな表情位してくださいよ。なんでちょっと半笑いなんですか…すぐわかるような嘘で騙せると思わないでください。」
「ったく相変わらず可愛げがねぇガキだな…まぁいいユウキ、お前にもホーク同様コントロールをマスターしてもらう必要のあるスキルがある。今の内に練習しとくぞ。」
「コントロール?」
おれ奥義覚えてないよ?スキルもコントロールはちゃんとできてるはずなんだけど…
「っとその前に、ホークはシルバとペアを組んでバイホーンゴートを探せ!可能なら倒してしまっても構わない。」
「はーい!」
「よろしくねホーク君。」
「よろしくお願いしまーす!じゃあユウキ行ってくるね!ユウキも頑張ってね!」
「えっ?あっうん、気を付けてな。また後で」
ホークとシルバさんが出発した。マーガレット所長も単独で行ったようだ。
「さてと、おれたちも始めるか…。」
「何をするんですか?今のおれは奴隷なんで攻撃スキルは封印されてますよ?」
「んな事はわかってるよ。心配すんな!お前にやってもらうのはミラージュバリアだ。」
「ミラージュバリア?」
なんでまたミラージュバリアなんかを?ミラージュバリアをコントロールってどう言う事だ?
「そうだ。まぁおれも結界師に関して詳しく知ってるわけじゃねぇんだけどスキルってのは柔軟に考えれば使い方の幅が広がるんだ。」
「幅が広がる?」
「まぁ物は試しだ!ユウキいつものミラージュバリアを出してみろ!」
イマイチ的を得ない説明だな…まぁやってみるか。
「わかりました。ミラージュバリア!」
蜃気楼が辺りを包み込み外からはわからないバリアが張られる。
おれはどの範囲でミラージュバリアがあるかわかるがギルマスはわかってないと思う…。
「見えないバリアがそこにあるんだな?」
「そうですね。ほら!」
やっぱりギルマスには見えてない。おれは手だけを出し入れしてギルマスに見せてみる。
ギルマスからみたおれの右手は消えたり現れたりしてるんだろう。
「なるほどな、ユウキそのミラージュバリアってどんな形をしてどの範囲までバリアが張られてるんだ?」
難しい質問してくるなぁ…
「今は能力が下がってるんで凄く小さいですよ?大体2メートル四方位ですか?まぁ四角くはないんですけど…」
ミラージュバリアは他のバリアと違って決まった形が無い。
バリアって名前がついているが敵から見付からないようにカモフラージュするだけの防御力の無いただの蜃気楼だ。
さっきまでマーガレット所長とこの中に2人でいたって思うと色んな意味でゾッとするよね……。
「そうか。その形は意識して変える事はできるか?例えば蜃気楼で道を作って見付からないように移動したりできるようにしたりだな。」
「ミラージュバリアで道を作るか…んーやってみます。」
そっか。そう言った考え方もあるのか…
ミラージュバリアは隠れるためにしか使った事がないからな…スキルの形を変えるなんて考えもしなかったな。
早速道を意識してミラージュバリアの形を変えてみる。
幅は人一人が通れればいっか。その分距離を伸ばしてみよう。
「ここをギュッとこうして…これはこうで…んんー…」
ユラユラとして実態の無い蜃気楼の形を変えるのって感覚が掴みにくいな……そうだ!
「焦らなくていいぞ。スキルのコントロールはそんな簡単な物じゃない。最初はできなくて当然だから練習が必要…」
「うん、できましたよ!」
「ってなにー???」
「今の奴隷状態だとこれが限界ですね。えっと…ここからここまでです。」
ギルマスにもわかるようにミラージュバリアの中に入り、両手を広げて手だけを外に出して歩いて見せた。
ギルマスには手が見えてるだろうから大体の距離はわかるだろう。
おれの作ったミラージュバリアの道は約5メートル。人一人が歩けるだけの道幅で高さもおれの身長より少し高い175センチ位の物を作った。
発想次第でスキルって形を変えられるんだ…これなら他のスキルでも色々試してみたいな…。
「何故できるユウキ!」
「何故って…ギルマスが言ったんでしょ、柔軟に考えれば使い方の幅が広がるって!
だから一回さっき出したミラージュバリアを消して、最初から頭で考えて形を作ってからミラージュバリアを使ったらできたんです。
出してから形を変えるのって思ったより面倒くさかったんで…
ほら例えば砂をただ広げて後から形を作るより、縁取りしてる型に砂を入れるだけの方が簡単にできるでしょ?それと同じですよ。」
「同じですよじゃねぇよ!スキルのコントロールはそんなに簡単な物じゃねぇんだよ!」
「何なんですか?できたんだからいいじゃないですか!」
「もっと悩めよ!もっと苦労しろよ!おれにコツを聞いたりしろよ!
大人として、ギルマスとして色々アドバイスしたかったのに台無しじゃねぇか!」
ハッハーン…さてはマウント取りに来てたんだな…
『そんな事も出来ないのか?仕方ねぇコツを教えてやるよ!』とか
『おれは優しいギルマスだからな、今後の態度次第じゃ一緒に考えてやってもいいぞ。』とか言いたかったんだろうな…。
残念でしたー!できちゃいましたー!柔軟な発想力や演技力、急なアドリブ力なんかはおれの前職では必須スキルだったんだ。
なりきり俳優とまで言われたおれをギルマスは甘くみてたようだな。
スキルにそんな能力が使えるとは思ってなかったけど、使えるんだったら今まで以上にチートに磨きがかかるぞ。
「さっきの嘘の悲しいとか傷付く発言と違って本気で悔しがってるのがおれとしてはやるせないんですけど…
結局ギルマスはミラージュバリアをコントロールさせて何がしたかったんですか?」
「…教えてやんねぇ」
う〜わ、拗ねちゃったよ…確か前もこんな展開あったな…。
あの時はサナさんが怒ってくれたし説明してくれたから大丈夫だったけど今は二人っきりだぞ…
おっさんのあやし方なんて知らないよ…
「うーん、そうですか…それならいいです。待ってる間に他のスキルも試してみよーっと!」
これで釣れなければそれでいい。まぁ釣れるだろうけど…
「そんな簡単に引き下がってもいいのか?お前達の今後にも関わるかもしれないんだぞ?」
はいヒット!話したいなら素直にそう言えばいいのに…
前も含みを持たせた言い方してたからなこの人…今後に関わるなんて言われたらめちゃくちゃ気になるんだけど、ここで下手に出てドヤられるのも腹立つもんな…
「でもギルマス話したくないんでしょ?おれ無理に聞き出すのは好きじゃないんです。だから諦めます。」
「別にぃ〜どうしても聞きたいって言うなら話してやってもいいけどぉ?」
イラッ!
「いえ、本当に大丈夫です。他のスキルの練習してホーク達を待っとくんで…。
失敗とかして迷惑かけちゃうとあれなんで少し離れた所で頑張りますね!」
「おい!聞けよ俺の話!聞いてこいよ!普通今後の事なんて言われたら気になるだろ!お前さてはワザとやってんな!?」
ウゼー!我慢して穏便に済ませようと思ってたけどもう辞めだ!
「当ったり前だろ!聞いてほしいなら最初から普通に話せばいいのに拗ねた上にもったいぶって…
そんなんでおれが下手に出ると思うなよ!このクソギルマス!」
「あ〜あ…あ〜あ言っちゃったよ…クソギルマス?おれはギルドで一番偉くて強いギルマスだぞ!?
他の冒険者から尊敬されまくってるおれに対してクソギルマスだと?このクソガキが!」
「クソガキじゃないですぅー!大人ですぅー!おれは転生人だって言ってるでしょう。中身は23歳ですぅー!
この世界に来て意識を取り戻した分の5年も足したら28歳ですぅー!」
「28?お前みたいな精神年齢の低いガキが28?シルバと年が同じ?あり得ねぇだろ!精神年齢はこの世界に来た通り5歳の間違いじゃねぇのか?」
「なんだと!クソギルマス」
「やんのか?クソガキ」
「「グヌヌ…」」
「二人ともなにやってるの…?仲良くしないとダメだよ!」
「「ん?」」
「はぁ、ギルマス…あなたまで何をしてるんですか…君もだよユウキ君。
ここはダンジョンなんだよ!いくら階層が浅いからって気を抜きすぎだよ。」
ギルマスと口喧嘩してる内にホークとシルバさんがいつの間にか帰ってきてたらしい…
いつから見られてたんだろう?でもここはやる事は一つだ。
「「ごめんなさい…」」
2人にするとまた喧嘩するかもしれないからとシルバさんの決定で4人で行動する事になった。
ホーク達が戻って来た理由は近くのモンスターの反応にバイホーンゴートはいなくてホーンゴートを粗方倒したので一度おれのスキルコントロールの様子を見るために戻って来たそうだ。
そしたら言い合いしてるおれたちを発見して今に至るらしい。
「お前のせいでおれまで怒られただろうが!おれはギルマスだぞ!部下に怒られるんじゃなくて怒る立場なんだぞ!」
「なんでおれのせいなんですか!ギルマスが突っかかって来るから悪いんでしょ!それにこの間サナさんにも怒られてたじゃないですか!」
「影剣。二人ともいい加減にしなよ?口で言ってわからないなら身体でわからせようか?
どちらかが悪いんじゃない!二人とも悪いんだ!それはわかったかな?」
シルバさんのシャドーソードがおれとギルマスの首元を四方から狙ってる…
「「わかりました。」」
怖ぇ…普段温厚な人が怒ると怖いってよく聞くけどここまでする?
首元数ミリを刃物で囲まれるなんて…シルバさんは怒らせちゃダメだ…
「ユウキ君、五階層で僕と話した事は覚えてる?引き際を見極めないとねって話…。
さて、今回の君の引き際はどこになるのかな?これ以上続くようなら……」
ヤバイ…この人本気だ…口調は優しいままだけど目が全然笑ってない……
ここで反抗なんてしようものならシャドーソードがそのまま首にグサリってなりそうだ…。
「も、もちろん覚えてます!仲直りします!おれギルマス大好きです!」
「そうか。ではギルマスは?」
「お、おれが少し大人気なかった。反省しよう…」
「よろしい…。」
シャドーソードが消え、緊張から解放される。
「ユウキ君、僕は君の言う事を信じるからね。もう喧嘩しないでくれるとありがたいよ。」
「はい!肝に命じます!」
おっかねぇよこの人…シルバさんを怒らせるとヤバイ。肝に命じて絶対に忘れないようにしよう…
「それじゃあバイホーンゴートの討伐を再開しようか。頑張ろうねホーク君。」
「はーい!」
「ギ、ギルマス、一時休戦です。少なくともダンジョンを出るまでは仲良くいきましょう。」
「あ、あぁその方がいい。あれ以上シルバを怒らせるな。死人が出るぞ…」
「ユウキ〜!ギルマス〜!置いてっちゃうよ〜?」
「わ、わかったすぐ行く〜!」
ホークやめて!シルバさんこっち見てるから!普通に見てるだけかもしれないけどおれには目が光って見えるから…
そんなこんなでバイホーンゴートを探し続けたおれたちにその知らせは突然やってきた。
【奴隷の熟練度が10に上がりました】
【奴隷専用スキル 下剋上を覚えました】
【奴隷の熟練度が限界まで上がりました】
【奴隷の上位職 村人が開放されました】
【なりきり師のレベルが7に上がりました】
【転職可能職業が増加しました】
ホークが出る度にホーンゴートを倒してくれてついに奴隷の熟練度が限界を迎えた。
「キターー!!!」
「どうしたのユウキ?」
「ありがとうホーク!奴隷終わったよ!多分もう転職できる!」
「本当!?よかったね!」
「ホークが頑張ってくれたおかげだよ!本当にありがとう!」
「へへへ…いいよ!」
「よーし!早速バイホーンゴート倒しに行こうぜ!」
「うん!」
辛かった奴隷生活ももう終わりだ。さっさとダンジョン攻略して街に帰ろう!




