魔女の怨み
その笑顔にエルピオンは胸が苦しくなる。
「あの、それで…妹さんは…?」
「噂で聞いただけだけど、死んだらしいのよ。私が悪魔の生贄にされたと知った時に、毒物を飲んで自殺したらしいのよ…私がケルベの悪魔の力が使えていれば、助けられたかもしれない…おかげで、言葉が聞こえなくなったのよ」
「そうでは無いと思います!ケルベは貴方から信じてくれることを聞きたいのではないのでは?」
「え?ケルベ……そうなの?」
ケルベは答える様子は無いが魔女をじっと見つめている。
「聞こえるはずが無いのに…思わず見てしまった…」
「あの娘は…お前に幸せになるように…と言っていた…」
「え?今のって…ケルベなの?」
「お前が自分のせいで妹を殺してしまったなどと言っていたな。だがそれは違う。あの娘は元から病気では無い。父親、母親から受けた虐待によって心の病にかかってしまった。彼女が自殺?あの気の弱い娘が毒物など飲めるわけが無い。俺が言ってること…わかるか?」
「…」
魔女は黙っているが、恨みの色を見せる。
「妹は…両親に殺された!」
「正解だ」
「ふざけるな!私が薬剤師になったのは妹が病にかかったと聞いたからなのに!だから私の給料の半分以上を治療費に費やしていたのに!騙していたのか!あのクソどもめ!」
彼女は机に向かって手を叩き付ける。物を割ってしまうような勢いにその場に静寂が訪れる。
「あの野郎共は今どこに?!」
「今でも悠々自適に生きてるよ」
「今私にあいつらを呪い殺せる術式を知っていれば直ぐにやるのに!」
「気を抑えろ…」
ケルベはエルピオン達を見つめる。
「あいつらを殺してこいとか言わないでよ?」
「そこまで酷いことは言わないよ。エル殿、君たちにあの両親たちをここまで連れてきてもらいたいだけだ」
「連れて来るの?!私たちが?!」
「連れて来るだけでいい。頼めるか?」
「と言っても私たち、その人たちの顔知らないんだけど…」
「それもそうだな」
「それではその人たちの名前教えてくれない?」
「名前はヘレンとメルグルよ」
魔女は乳鉢で薬草を擦りながら伝える。ケルベは「だ、そうだ」と言う目線でエルピオン達を見つめる。
「その名前、聞いたことある。というか知ってます」
『え?』
「私がまだ勇者チームに入ってない頃に子兎亭にやって来てその宿屋を潰すように言ってきた嫌な奴らよ」
「きっとそいつらよ。私が魔女になったことを知って自分たちの命が危ないと思ったのでしょうね。でも無駄…私からは逃れられないことを教えてやろうじゃない…」
魔女はすくすく笑いながら不気味な表情をする。
「あの状態の魔女様は何をするのか分からない…一度出た方がいいぞ」
「あ、うん」
外に出たエルピオン達はケルべからローブを貰う。
「それ羽織ってここまで奴らを連れて来い。今日の皆が寝静まった頃がいいだろう」
「薬はその後だということか?」
「そういうことさ」
「え?姫様に死ねと言いたいの?」
「そこまでは言ってないだろ?」
「今姫様はとても危険な状態なんですよ!」
「薬ならもう出来た。料金は彼らを私の元へ連れてくること。それならいい?」
「問題なしです!」
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