もう一人の魍魎
突然響くガラスの割れる音、割ったのはシュンサクである。
「すみませんモーデルさん、グラスを割ってしまいました」
「大丈夫よ。あなた、怪我してない?」
「ええ、大丈夫です。少し指を切ってしまっただけですから」
「指を?あっ!」
エルピオンは焦ったかのようにサツキを連れていく。
「ちょっとエルちゃん?!」
エルピオンは持っていたハンカチでサツキの鼻と口を塞ぐ。そしてシュンサクに近づこうとするモーデルを止める。
「今だけ鼻と口を塞いでいて!モーデルさんも!」
エルピオンはすぐに厨房に向かう。
厨房内にいるアーテルスは嗅いだことの無い匂いに異変を覚える。
「なんか変な匂いしないか?」
「そうでしょうか?私にはわかりませんが?」
そのタイミングでエルピオンが血相を変えて飛び込んでくる。
「エル、どうしたの?」
「三人共!鼻と口を塞いで!師匠が力を使ってる!」
「力ってど…?!」
ハルルカが言葉を発しようとした瞬間、エルピオンに布で鼻と口を塞がれる。
「まさか今臭っているこの匂いってシュンの力だって言いたいのか?」
「そうだよ!師匠の能力で血を使った能力があるんだ!その香りは幻覚を見せる働きがあるんだ!でもそれはほぼ悪夢なんだけどね」
「悪夢…か」
◆❖◇◇❖◆
エルピオンはナプキンで口を押さえながら表に出ると、客人全員が苦しみもがいていた。
「やだ!やめろ!」
「苦…しい…」
「エルちゃん、これって?」
「師匠の血液術…ほぼ全ての魍魎が使える技のひとつ」
「魍魎って彼魍魎なの?!」
モーデルはエルピオンを見つめる。
「そうだよ。人間じゃないの。黙っていてごめんなさい。でも師匠は悪い魍魎じゃないの。私を守ろうとしただけなんです」
「お前、人間じゃないな?」
シュンサクは一人の男を見つめる。彼は少し離れた席に座っている。彼はシュンサクを見つめる。
「よくわかったな。自分が人間では無い事に」
「これは人間なら誰でも幻覚を見る。なのにお前は苦しまない。それに気配が違う」
「それはご名答。さすがと言ってもいいな」
「お前は何者だ?マヌスの仲間か?」
彼は首を横に振る。
「違うよ。あんな野郎の配下に着きたくないね。僕は裏切りのただの魍魎さ」
「裏切り?」
「君と同じさ。人間に怨みを持つ魍魎さ」
「ッ!!」
シュンサクは少し後退りをする。
「そんなお面を付けて、自分を偽るつもりか?」
「それは貴様には関係の無いことだ」
冷めた口調で言う。
「怒らせるつもりは少しもないよ。気分を悪くしてしまったね。君もその力をしまいな?君の弟子ちゃん達が辛くなるよ」
シュンサクは自分の血を見て血液を止める。その瞬間に店内を漂っていた匂いが消える。
「ご馳走様。また来るよ」
魍魎はぐったりしている男たちの分までのお金を払って出て行く。突然の出来事に全員が放心状態で何も言えなくなっている。しかしシュンサクだけ手を握りしめて扉を見つめている。少しシュンサクの過去のことが気になるエルピオンが居た。
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