助け合い
静まり返った魔法のテントの中で一人、声を押し殺している者がいる。
肩にできた闇の物体は徐々にエルスを取り込み始めている。経験したことの無い激痛に枕で声を押し殺す。体からは滝のように汗が吹き出す。
「ーこんなに痛いなんて聞いていない!ー」
徐々に幻聴なのか声が聞こえてくる。
「=力が欲しいか?ワタシに全てを委ねろ=」
「ー力なんて要らない!ー」
「=本当に?本当にいらないのか?君の妹も救えるのに?=」
声の主はエルスに問いかける。人の弱みを知っているそれにエルスは恐怖が体を流れる。
「=だから、全てをこのワタシに…!=」
それが言葉を言い終わる前に、体が楽になる。肩にあった黒い物体は影も形も無くなる。
「何が、起きて…」
「思った通りだ。あれの破片がお前の体に寄生していたみたいだな」
金色の瞳をするその男にエルスは不信感を覚える。声は聞いたことがあるが、誰だか分からない。姿も暗闇のせいでよく見えない。
「早くお休み、明日は早いぞ」
エルスは彼のことを思いながら眠りの闇の中へ落ちる。
◆❖◇◇❖◆
気がついた時は朝日が登り、朝を伝える。ノックをする音がする。
「エルス!朝だよ!」
エルピオンが起こしに来てくれたのだろう。エルスは声をかけて向かうことを伝える。肩を見るとあの物体がいた痕跡は無くなっている。あれが夢だったのでは無いのかと思う。しかし、あの時苦しみから解放してくれたあの男は誰だったのか思い出せない。顔も、目も。
◆❖◇◇❖◆
下に降りると、エルピオン達は食事をしていた。その中にシュンサクの姿は無い。
「おい、あいつは?」
「師匠なら外に居るよ。胸騒ぎがするらしい」
「胸騒ぎ?」
エルスは机に置いてある食パンを口に運び、外に出る。外は霧がかかっており視界が悪い。
その先にシュンサクが立っている。
「おい、かなり霧が濃いみたいだな」
「そうだな。だがこの霧、ただの自然のものでは無い」
「は?霧は自然が生み出す物だろ?それが違うというのは…何者かが俺たちの行動を阻止しようとしてるってことか?」
「それが極めて高いだろう。もう一日この場所に居た方がいいかもしれない」
「あんたの勘か?」
「そう言ってもいい。今回はテルの意見に賛成することにするよ」
シュンサクは言葉を置いてテントに戻る。残ったエルスは試しに風魔法と繰り出す。しかし霧が晴れることがない。
「これ、ただの霧じゃないのか?」
シュンサクが言っていることは正しいのかもしれない。もしくはマヌス自身が焦り始めているのか、その真実は今の段階では分からないことだ。
手を取り合い、助け合うのもたまにはいいものだと思い出すのであった。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
次回もお楽しみに!




