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月が出る夜にまたここで

 暗くなり、全員が寝静まった時、一人の女性が目を覚ます。

 彼女は月明かりを頼りに、森の中に入って行く。彼女が通った道に、蛍が飛び立つ。優しく流れる滝に大きく池ができている。彼女は服を脱ぎ捨て靴も脱ぎ、髪ゴムを解き、水の中に飛び込む。中は深く、彼女の体が全部見えなくなる程。水面から顔を出す。月明かりに彼女の髪が映し出される。

 煉獄の炎のように燃え上がる赤い髪。エルピオン・ガーネルスが空を睨みつける。

 空は彼女睨みをなんとも思ってないかのように輝く。


「月だって、太陽が無ければ美しくもなんともないのにな」


 ぼそっとつぶやくエルピオン。近くで人が居る気配がするが気になる程ではない。少し浅瀬のところに腰を下ろすエルピオン。昔に胸にできた古傷をなぞる。エルピオンにはこの傷のことをよく知らない。気づいた時にはできていたもの。一体どこで、いつできたのかは不明。こんな傷なら覚えているはずなのに。

 エルピオンは首を振り、また水に体を沈める。このまま永遠に水の中で居れば、誰にも迷惑も心配もされないだろうか。

 傷つかずに済むだろうか。反対側に人の気配がする。顔を出そうとしたその時、足を滑らす。

 このままでは完全に溺れる。そう思った時、勢いよく人が飛び込む。水のせいで視界が悪い。誰だかわからない。エルピオンの腕をそれは掴む。そして勢い良く、水面から引きずり出される。

 水を飲んだエルピオンは咳き込む。視界が良くなると、誰だかわかる。エルスだ。


「馬鹿かよお前!死ぬ気かよ!」


「なんで助けてくてたんだよ…」


「何度って…溺れてるやつを助けるの、常識だろ?」


 びしょびしょになったエルスは不思議そうにエルピオンに言う。


「そういうものなのかな?」


「そういうもんだって……」


 エルスは目を逸らし、自分が来てるコートを被せる。


「なに?」


「女の裸を見るのは慣れてないんだよ…///」


「あんた童貞かよ」


「お前、プライバシーとか無いわけ…?」


「プライバシー?」


 キョトンとするエルピオン。その反応に頭を抱えるエルス。

 少し顔が赤くなるエルス。シュンサクが毎回彼女の裸を見ていたことを考えると、鼻血が出そうになる。


「どうしたんだよ?」


 コートが落ちてエルピオンの胸を見たエルスは慌てふためき、池の中に落ちる。その反応にエルピオンは大笑いをする。水面から顔を出したエルスは顔を赤くしている。


「いくらなんでも笑い過ぎだろ…」


「ごめんごめん、見事に落ちたからさ」


 笑い顔を見たエルスは少し不機嫌になる。


「お前、上手く笑えてないみたいだな」


 池から出たエルスはエルピオンと向き合う。


「それ、師匠にも言われたよ。と言ってもあの事件から上手く笑えないんだよね」


「あの事件って、十年前の?」


「そう、あれで私、家族全員死んでるからね」


「お前もかよ。でもなぜ魔族であるあの男のことを師匠って呼ぶんだよ」


「私を助け、育ててくれたからだよ。一応私は()()()()()みたいな者だよ」


 エルピオンがぼそっと言うと、エルスはエルピオンの首を抑えて、馬乗りになりナイフを突きつける。


「何するんだよ…」


魔族(やつら)の仲間なら殺すまでッ!」


 そのナイフはカタカタと揺れながらエルピオンの胸に当たる。エルピオンは無表情でエルスの瞳を見つめる。彼の目は恐怖と憎悪で震えている。


「殺るなら殺ればいい」


「なに?」


「今目の前に居るのはお前が憎む魔族だぞ」


 エルピオンは挑発するように言う。瞳孔を開き、女性とは思えない表情を作る。


「奴らは平気で人間の体を使う。その人の家族だろうが恋人など関係無い。使える物は使って行く。どうした?怖いのか?同じ人種を殺すのがッ!」


 エルスが怯み、首に力を抜ける。そのタイミングを狙って、エルピオンは首を掴んでいた手を掴み、ナイフの刃を軽く掴んでエルピオンが馬乗りになる。

 驚いた様子を見せるエルスにナイフを突きつけ、少し笑う。


「だめだね、エルス。相手が女だからっていって、力を抜くなんて。私が本当に魔族の仲間なら、あんた死んでるよ?」


「そうだな…てかお前魔族の仲間じゃないのか?」


「そう見える?」


「そういう訳では…」


「冗談だ。真に受けるな」


 何気なく話をするエルピオンとエルス。


「エル。お前、またここに来るか?」


「なぜ?」


「来るならまたここで会おう。月が出る夜に」


「…。気が向いたらな」


 エルピオンは少し躊躇って返答をする。エルピオンは反対側にある服を着る。


「なぁ、どうやったら君のように強くなれるんだ?」


「全てを捨てる。それだけだ」


 エルピオンはそういうと夜の闇に中に消えていく。

 一人残されてしまったエルスはエルピオンの首を絞めた左手を見る。その手は今でも震えている。そしてエルピオンが置いて行ってくれたナイフを見つめる。

 恐ろしいくらい冷静だったエルピオン。その姿が今でも見える。


「全て捨てたら、ダメだろうが…」


 吐き捨てるようにつぶやくエルスだった。

ここまで読んで下さりありがとうございます!

今回は早く仕上げれたので早めに投稿させました。

次回も読んでください。ペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*

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