大火災
村ではキャンプファイヤーをするかのようにタワーを作り、火を焚く。集落のものは火種を木材に近づけるが、火が燃え上がらない。
「火よ燃え上がれ!!」
アーテルスは豪快に炎を上げて、火柱のように燃え上がる。
「ちっと強すぎたか?」
「これ集落燃えませんか?」
「大丈夫だよ。家の木は簡単に燃えたりしないよ。大火災の時でも大丈夫だったから」
「大火災?ですか?」
ハルルカが聞き返す。バッファはハルルカ達に説明をしてくれる。
「ここから西に真っ直ぐ進んだところに火の山という山があるんだ。そこはとても暑くて普通の人は住むことが出来ないんだ。だけどクールン族っていう暑い環境でも居れる一族がいるんだ」
「クールン族?どこかで聞いたことのある一族だな」
「ネー知ってるよ!リザードンのような姿をした一族でしょ?」
「そうだよ。よく知ってるね」
「竜人族と犬猿の仲だったって聞いてるから。お母様から」
ネールは少し悲しそうに話す。ネールにはもう居ない家族なのだから。
「話を戻すよ。あの一族には守り神が居るんだ。フェニックス様って言う神様がね。君たちが倒れていた場所にも守り神が存在するよ」
「フェニックス様?もしかしてあの空を飛ぶ火の鳥の事?」
「そうだよ。昔からクールン族が讃えていたんだ。だけど魔族の奴らがここを支配し始めた時、フェニックス様は変わってしまったんだ。突如、人を襲うようになってしまったんだ」
「人を?まさか…!」
アーテルスは嫌な予感をする。
「テルさんが想像した通りだと思うけど、あの魔族たちに悪に染められてしまったんだ。フェニックスは暴れ出し、各集落が炎に呑まれ、大火災が起きたんだ」
「多くの人がお亡くなりになられましたね」
「うん、僕の母さんだってその火災で死んだんだ。集落の長のあの人だってあの火災で家族がみんな死んだんだ。僕は全て物に絶望したよ。でも家だけは無事だったんだ。それだけでも救いだと思うよ」
バッファは少し笑って見せる。しかしその笑顔は悲しそうにも見える。
「強いんだね」
あまり聞かないネールの声にハルルカは驚く。
「そんなことないよ」
「ううん。バッファは強いよ。ネーはお兄ちゃんが死んで、動揺していたんだ。それなのに君は強く生きようと頑張っている。ネーも大人にならなくちゃね」
「無理して大人にならなくて良い」
エルピオンと共にシュンサクが戻って言ってくる。
「生き物は年齢や見た目だけで大人だと認識される。それと他に上の者が居なくなったら大人になる。そんなことして無理して背伸びをしなくても良い。無理すればするほど心は壊れてくる。そんなに焦らなくても良い。ゆっくりでいい。今はまだ子供でいなさい」
何気ない言葉なのにネールの心にそっと触れて来る。
「君、ここに来るまでにちゃんと心から笑えていたか?」
「…」
ネールは少し黙って笑顔を崩す。
「笑えてないな。ずっと作り笑顔をしていたようだな」
アーテルスはそっとそう言う。
「そうだね。ネー、笑えてないかも。それより笑い方忘れちゃったかもしれない」
「大事な人を失うのは、自分にも影響が出てしまう。辛く、悲しいものなんだ」
表情は分からないが、優しくネールに声をかける。
「泣きたい時には泣きなさい。それが、我々言葉を話す種族に与えられた者なのだから」
その言葉を聞き、ネールは大粒の涙を零す。ウルファスが死んだ時よりも多く。エルピオンはネールの姿を見て、自分もあのように泣ければ、辛くないのだろうと思う。エルピオンもあのようにまた泣けるのだろうかと、空を見上げる。
空は天の川のように静かに流れていて、何も答えてはくれなかった。
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