生贄
ある時、兄は父に呼び出しをされる。それはとても寒い雪の日だった。父の部屋から出てきた兄は憎たらしそうな顔をしている。兄は幼いエルピオンを見ると抱き締め、「王宮に行かないといけない」と伝えてきた。兄は元々王宮騎士団のため王宮に行くのにはそんなに珍しくない。
「王宮に行くの?すぐ帰ってきますか?」
「頑張るよ。だけど、来年の春には帰れないと思う」
「そうですか。私のことは気にしないで頑張ってください」
幼いエルピオンの言葉は彼強く刺さったのか彼女を強く抱きしめるしかない。屋敷にいる時に兄はほとんど荷物を持たずに馬車に乗って向かってしまった。兄が帰ってくると思いながら殴られたり、痛めつけられるのを耐えることができた。しかし、何日待っても兄は帰ってくることがなかった。そんな時に、父に呼び出しをされる。また殴られるのだろうと思いながら、光を灯さない瞳で部屋に入る。
「エル、お前は神の供物として、人柱になれ」
予想はしていた。このリオン国は神の供物として人を生贄として捧げるのが一般的。ほとんどが市民が多いが、父は早くエルピオンを処分したいのがよくわかっている。エルピオンは頭を下げてほとんどの荷物を持たずに荷馬車に乗って移動をする。叔父から貰った剣を持って。叔父が亡くなる前日に叔父から頂いた物。初め、叔父は「地方に移り住むために、エルを連れて行く」と言っていたが、父はそれを断っている。理由は知らないが、あれほどまで早くいなくなって欲しいのに、なぜ連れて行かせなかったのだろう。
連れて行かれたエルピオンは、ふくよかな男に、奴隷用の首輪と手枷を渡される。それをつけると殴られたり蹴られたりする。神の供物としても、彼らにはただの道具でしかない。
「お前はワシらのために、しっかりやるんだぞ?」
ここにきたらもう死んだ方がマシだと思えるほどの苦痛を味わう。肉体労働を行い、寝る暇を与えないほどの労働が課せられる。休めば鞭打ちが飛んでくる。呼ばれた女たちは男の欲求不満を解消するために股を開かなければならない。幸い、エルピオンにはそれがない。若すぎるからなのだろう。幼い体で重い荷物を持つ。しかしほとんど使い道の無いエルピオンはすぐに処分される。足の骨を折られ、腕の骨も折られ、焼却場まで運ばれる。うまく歩けないエルピオンは首輪に鎖をつけられて馬に引きずられる。あちこち石に当たり、血液が溢れていく。到着した焼却場には兄とよく似た人が吊り下げられている。
彼と目が合うと目を見開き、貴族席を見る。そこには父と母、姉が座っている。
「お前ら…!騙したな!!!!俺を人柱にする代わりに、エルのことをちゃんとするって!!!!裏切り者!!!!許さねぇ!!!地獄から呪ってやる!!!!!」
兄は声を上げると吊るされたロープを切られ、炎の中に消える。炎の中で苦しむ人々は断末魔のように声を上げている。エルピオンも吊るされるとたくさんのことを考える。
もっと生きていたかった。たくさん、温かいご飯を食べて、温かいベッドで眠りたかった。優しいお父さん、お母さんに愛されたかった。もっと、笑えるような、暮らしがしたかった。
「私は、お前らが憎い。この恨み、この地で解放してやる…!!!!!」
幼いエルピオンは笑顔になり、血のように赤い瞳を見せる。瞳から血液が漏れ出し、赤黒い翼が出現する。そのことに人々は騒然とし、パニックに陥る。エルピオンの爆発に似た衝撃波は全てを破壊する。人の体、建物、壁、王宮。エルピオンは覚醒する。ー破壊の女神ーとして。全てのものを破壊し尽くし、闇の魔物をおびき寄せる。人の段末のような悲鳴はいつしか消えることになる。
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次回も楽しみに




